フィジオ140はエネルギー補給に使うと添付文書で明確に禁止されています。
フィジオ(Physio)という名前は「Physiological(フィジオロジカル=生理的な)」に由来しています。その名の通り、体の生理的な状態を維持・回復させることを目的として設計された輸液製剤です。
フィジオの主成分は水と電解質(イオン)であり、その電解質濃度は体の細胞外液とほぼ同じ「等張」に設計されています。これが重要なポイントです。等張であるため、投与した輸液は細胞内には移動せず、細胞外液(組織間液・血漿)にのみ分布して細胞外液量を増やすことができます。
つまりフィジオは、細胞外液補充液(等張電解質輸液)の一種ということですね。
フィジオ140輸液の添付文書に記載されている「効能・効果」は以下の2つです。
- 循環血液量減少時および組織間液減少時における細胞外液の補給・補正
- 代謝性アシドーシスの補正
最初に覚えておきたいのはこの2点です。
さらに、フィジオ140には1%のブドウ糖が配合されていますが、これは「エネルギー補給を目的とした薬剤ではない」と添付文書に明記されています。1%という低い配合率は、術前の絶食で低下した血漿グルコース値を正常レベルに回復させ、肝臓のグリコーゲン低下を抑制する目的で添加されたものです。5%ブドウ糖加輸液では、大量投与時に血糖が著しく上昇し尿中へのグルコース排泄が増えてしまうことが動物実験で確認されており、それを回避するための設計です。エネルギー目的で使うなら別の輸液が原則です。
参考:フィジオ140輸液の添付文書情報(KEGG MEDICUS)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057544
「フィジオ」と一口に言っても、製品は140・70・35の3種類があり、番号によって適応がまったく異なります。同じ「フィジオ」という名前だからといって同じように使うことはできません。これは意外と見落とされやすいポイントです。
各製品の適応と特徴を以下の表に整理しました。
| 製品名 | 主な適応・目的 | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| フィジオ140 | 細胞外液の補給・補正、代謝性アシドーシスの補正 | 周術期(中等度~大侵襲手術) |
| フィジオ70 | 大量出血を伴わない細胞外液補給・補正、高張性脱水の補正 | 簡易手術・軽度侵襲手術 |
| フィジオ35 | 経口摂取不能・不十分な場合の水分・電解質の補給・維持、エネルギー補給 | 術後の維持輸液・一般病棟での電解質管理 |
番号は輸液中のナトリウム濃度(mEq/L)を反映しています。フィジオ140はナトリウム濃度140mEq/Lと、細胞外液のナトリウム濃度(約135〜145mEq/L)とほぼ等しい等張の細胞外液補充液です。フィジオ35はナトリウム濃度が35mEq/Lと低張であり、維持液(低張電解質輸液)に分類されます。
シンプルにまとめるとこうなります。
- 🔵 フィジオ140:OPE(周術期)専用
- 🟡 フィジオ70:簡易OPE向け
- 🟢 フィジオ35:エネルギー補給・維持輸液
フィジオ35はソリタT3号やKN3号と同じ「3号液(維持液)」に分類される輸液です。つまりフィジオ35は、手術を伴わない一般病棟の患者さんで経口摂取が難しい場合などに使う輸液ということになります。フィジオ140しか採用していない施設では、周術期以外にはフィジオ140は使えないことが原則です。これは知っておくと現場の混乱を防げます。
参考:看護師向けフィジオ140の適応と使い方(soradama.tokyo)
https://soradama.tokyo/physio140-ope/
手術では、なぜ細胞外液補充液が必要になるのでしょうか?
手術前夜からの絶飲食によって患者さんはすでに軽度の脱水状態にあります。さらに術中には、①手術創からの蒸発、②出血、③「サードスペースへの体液移動」という3つの要因で体液が失われていきます。
サードスペースとは、細胞内液(ファーストスペース)でも血管内(セカンドスペース)でもない、機能的に使えない「第3の空間」のことです。手術侵襲により血管透過性が亢進すると、血管内の水分が間質や浮腫として移動してしまい、循環血液量が著しく低下します。このため手術中は通常よりも積極的な補液が必要です。
細胞外液が不足すると、血圧低下・臓器灌流不足・代謝性アシドーシスといった状態に陥るリスクがあります。これが原則です。
フィジオ140が選ばれる具体的な理由は、次の4つに整理できます。
- 💧 ナトリウムが多め(140mEq/L):従来のリンゲル液大量投与時に起こりやすい血清ナトリウム・マグネシウムの低下を抑制する設計
- 🦴 マグネシウムを含有:手術侵襲モデルでマグネシウムを含まない酢酸リンゲル液では術中に血清マグネシウムが低下したが、フィジオ140投与群では術前レベルが維持されたことが確認されている(動物実験)
- 🩸 酢酸ナトリウムによるアシドーシス補正:酢酸は体内で代謝されてHCO₃⁻(重炭酸イオン)となり、代謝性アシドーシスを補正する
- 🍬 1%ブドウ糖配合で血糖を適切に維持:術前絶食による低血糖・肝グリコーゲン低下を抑制しつつ、高血糖・尿糖排泄を回避できる設計
フィジオ140を使えばよいということですね。
なお、添付文書の「国内第III相試験」では、中等度手術侵襲患者(胃亜全摘術・胆嚢摘出術等)311例を対象とした試験で、「有効」以上の評価が81.9%(113/138例)という結果が確認されています。これは使えそうです。
参考:手術中における輸液・輸血療法(近畿大学病院)
https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/2014.11rennkei-kouenn-syudyutuyueki.pdf
手術室でよく比較される2つが「フィジオ140(酢酸リンゲル液)」と「ソルラクト(乳酸リンゲル液)」です。どちらも等張の細胞外液補充液であり、アシドーシスの補正にも用いられます。違いはどこにあるのでしょうか?
最大の差は、アルカリ化剤(緩衝材)の代謝経路にあります。
| 項目 | フィジオ140(酢酸リンゲル) | ソルラクト(乳酸リンゲル) |
|------|-------------------|--------------------|
| 緩衝材 | 酢酸ナトリウム | 乳酸ナトリウム |
| 代謝臓器 | 肝臓+骨格筋 | 主に肝臓 |
| 肝障害患者 | 使用可能 | 乳酸蓄積リスクあり |
| 代謝速度 | 酢酸の方が速い | やや遅い |
乳酸は主に肝臓で代謝されますが、肝機能障害がある患者さんでは乳酸が体内に蓄積し、乳酸性アシドーシスを招く危険性があります。一方、酢酸は肝臓に加えて骨格筋でも代謝されるため、肝機能が低下していても使用できるメリットがあります。
肝障害のある患者さんにはフィジオ140が有用ということですね。
また、循環不全があり肝血流が低下しているショック状態でも、乳酸代謝が障害されやすいため、酢酸リンゲル液のフィジオ140が選択されやすい場面があります。先生の「好みの問題」に見えた輸液選択も、実は患者状態に応じた根拠のある判断である場合が多いです。この背景を知ると、術野での輸液選択の意味がより深く理解できます。
参考:酢酸リンゲル液と乳酸リンゲル液の使い分け(富士製薬工業)
https://www.fuso-pharm.co.jp/med/ph/faq/2025-02-17-41366/
フィジオ140を安全に使うためには、禁忌と慎重投与の患者背景を正確に把握しておくことが不可欠です。知らないと患者さんを傷つけることになりかねません。
【禁忌(投与してはいけない患者)】
フィジオ140の禁忌として添付文書に明記されているのは以下のとおりです。
- ❌ 高マグネシウム血症の患者:フィジオ140にはマグネシウムが含まれており、高マグネシウム血症が悪化・誘発されるおそれがある
- ❌ 甲状腺機能低下症の患者:同様にマグネシウム過剰のリスクがある
甲状腺機能低下症が禁忌というのは意外ですね。マグネシウムの代謝・排泄に甲状腺ホルモンが関与しているためです。
【慎重投与が必要な患者(9.1 特定背景)】
- ⚠️ 糖尿病の患者:1%ブドウ糖により血糖値が上昇するおそれ
- ⚠️ 心不全の患者:循環血液量の増加により症状が悪化するおそれ
- ⚠️ 高張性脱水症の患者:電解質を含む本剤の投与により症状が悪化するおそれ
- ⚠️ 閉塞性尿路疾患で尿量が減少している患者:電解質の排泄障害
- ⚠️ 腎機能障害患者:過剰投与になりやすい
【副作用】
添付文書に記載されている副作用は以下のとおりです。
- 🔴 ST低下(0.1〜5%未満)
- 🔴 不整脈(0.1〜5%未満)
- 🔴 大量・急速投与時:脳浮腫・肺水腫・末梢の浮腫(頻度不明)
国内第III相試験では副作用発現頻度は1.4%(2/142例)でした。ST低下と不整脈が各1例ずつ報告されており、特に大量急速投与時の循環器系への影響に注意が必要です。
【投与量の目安】
通常の成人では1回500〜1000mLを点滴静注します。投与速度は通常1時間あたり15mL/kg体重以下が目安とされています。なお、フィジオ140は「エネルギー補給目的でない」という特性から、循環動態が安定した後は漫然と投与を継続せず、維持輸液や高カロリー輸液への切り替えを検討することが添付文書でも求められています。これが原則です。
投与後の観察ポイントとして、尿量の確認も重要です。フィジオ35の添付文書では「尿量が1日500mL(1時間あたり20mL以上)あること」が望ましいとされており、腎機能への配慮が求められます。
参考:フィジオ140輸液の薬剤情報(HOKUTOアプリ)
https://hokuto.app/medicine/rUS0rfG7xPVTVbACw6YO
フィジオについて深く学んでいくと、教科書の知識だけでは補えない「施設間の実臨床ギャップ」に気づくことがあります。これは意外ですね。
多くの施設では、フィジオのシリーズのうち「フィジオ140のみ採用」というケースが少なくありません。コスト管理や在庫管理の効率化により、全ラインナップを採用していない施設がある現実があります。そのような環境で、医師が維持輸液目的で「フィジオ」と処方したとき、現場には140しかないため、適応外の使い方が起こりうる状況が生まれます。
実際、周術期ではない患者にフィジオ140が処方されているケースを薬剤師や看護師が発見し、処方変更を医師に依頼した事例が複数報告されています。患者さんにとって大きなリスクです。
現場のスタッフとして重要なのは以下の2点です。
- ✅ 自施設でどのフィジオシリーズが採用されているかを把握する
- ✅ 処方されたフィジオの番号と患者の状態・目的が合致しているかを確認する
処方をそのまま受け取るのではなく、「この患者さんにフィジオ140が適切な適応か」を一度立ち止まって考える習慣が、インシデント防止につながります。薬剤師との連携も非常に有効です。日常業務でHOKUTOなどの医薬品情報アプリを活用して添付文書を素早く確認する動線をつくっておくと、実務でのダブルチェックがよりスムーズになります。
また、研修医が「フィジオ」=「点滴といえばコレ」という感覚で漫然と処方を続けてしまうケースも少なくありません。添付文書には「循環動態が安定したら継続せず切り替えること」という注意事項があります。この指摘を活かして、看護師側からの投与継続の妥当性確認も意義のある関与となります。
フィジオ140が手術以外の患者に使い続けられているとしたら、それは禁忌や過剰投与リスクを高める可能性があります。名前が同じでも、番号が違えば全く別の薬剤だという意識が大切です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:電解質輸液の種類と違いをわかりやすく解説(CURA看護)
https://www.cu-ra.net/blog/kangogaku-electrolyte-difference-explained/