ヘイジービールは「腐っているから飲んではいけない」と思って捨てたことがあるなら、実は数百円損しています。
ヘイジーIPA(Hazy IPA)という名前を聞いたことはあっても、どんなビールなのか正確に知っている方は案外少ないものです。まずはその基礎から整理していきましょう。
「IPA」とは「India Pale Ale(インディア・ペールエール)」の略称で、ビールのスタイル(種類)のひとつです。もともとは18世紀のイギリスで、インドへの長い航海中にビールが腐らないよう、ホップを大量に使って醸造したことが起源とされています。そのためIPAは一般的に、苦みが強くしっかりとした飲み応えを持つビールとして知られてきました。
つまりIPAは「苦いビール」が基本です。
ところが「ヘイジーIPA」はそのIPAの中でも特別な進化を遂げたスタイルです。2010年代にアメリカのニューイングランド地方で生まれたことから、「ニューイングランドIPA(NEIPA)」とも呼ばれます。見た目が白く濁っていることから「ヘイジー(Hazy=霞がかった・もやがかかった)」という名がつきました。
苦みを抑えて飲みやすい。これがヘイジーIPAの最大の特徴です。
ホップを大量に使いながらも、苦み成分が出にくい「ドライホッピング」という手法を用いることで、フルーティーでジューシーな香りだけを引き出すことができます。マンゴー・パッションフルーツ・オレンジ・パイナップルのような南国系の香りが漂うものが多く、ビールの苦みが得意でない方でも楽しみやすいスタイルとして人気が急上昇しています。
ヘイジーIPAを初めて見たとき、「これ、大丈夫?」と感じる方は非常に多いです。透き通っていないビールは「品質が悪い」「腐っている」というイメージを持ちがちですが、それは誤解です。
濁りが正体、これが一番大事な前提です。
ヘイジーIPAの白濁は、主に以下の3つの要素から生まれています。
この濁りは品質劣化のサインではありません。むしろ意図的に作り出されたもので、液体の中にうまみ成分やアロマが豊富に含まれているサインでもあります。
一般的なラガービール(発泡酒ではない)はろ過と低温処理で透明度を高めますが、ヘイジーIPAはその逆の発想で作られています。「濁っているから良い」という独自の美学があるのです。これは意外ですね。
賞味期限内であれば、濁っていても飲んで問題ありません。ただしひとつ注意点があります。ヘイジーIPAは鮮度が命のビールで、醸造から2〜3ヶ月以内に飲むのが最もおいしいとされています。長期保存には向かないため、購入後はなるべく早めに楽しむのが基本です。
「ヘイジーIPAと普通のIPAって何が違うの?」という疑問を持つ方は多いです。味わいや香りの面から、具体的に比較していきましょう。
| 項目 | 従来のIPA | ヘイジーIPA |
|---|---|---|
| 見た目 | 黄金色・透明 | 白〜黄色がかった白濁 |
| 苦み | 強め(IBU40〜70以上) | 穏やか(IBU20〜40程度) |
| 香り | 松やに・草のような植物系 | マンゴー・柑橘・パッション系 |
| 口当たり | ドライでシャープ | まろやかでジューシー |
| アルコール度数 | 5〜7%程度 | 5〜8%程度 |
ヘイジーIPAの苦みを表す単位「IBU(International Bitterness Units)」は、一般的なラガービールが10〜20程度であるのに対し、従来のIPAは40〜70以上になることも珍しくありません。一方、ヘイジーIPAは20〜40程度に抑えられているものが多く、苦みよりも「果物を食べているような」フルーティーさが前面に出てきます。
これは使えそうです。
香りはマンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ、オレンジ、グレープフルーツ、桃といったトロピカルフルーツ系が中心です。これはホップの品種の選択によるもので、「シトラ」「モザイク」「エル・ドラード」「ギャラクシー」などのアロマホップが使われることが多いです。
口当たりはまろやかで、あたかもジュースを飲んでいるかのような感覚を持つ方もいます。そのため「クラフトビール入門」として最初に飲むスタイルとしても非常に適しています。
アルコール度数は5〜8%程度が多いため、ジュースのような感覚で飲んでいると思ったより酔ってしまうことがあります。飲みすぎには注意が必要です。
「クラフトビール専門店でしか買えないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。実は、ヘイジーIPAは近年かなり身近な場所でも手に入るようになっています。
手に入る場所は意外に多いです。
初心者が最初に選ぶなら、日本国内で醸造された製品がおすすめです。鮮度が保ちやすく、説明書きが日本語で書かれているため、味わいのイメージがつかみやすいからです。
たとえばヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」はホワイトエール系ですが、同社の「翼をください」や「インドの青鬼」なども参考になるスタイルです。ヘイジー特化では、スプリングバレーブルワリーやベアードビール、志賀高原ビールなどが評価の高いヘイジー系商品を展開しています。
価格の目安は1缶350ml〜500mlで、400〜700円程度のものが多いです。コンビニで売っているビールと比べると割高に感じるかもしれませんが、その香りと味わいのクオリティを考えると十分に満足できる価格帯です。
選ぶときは「Hazy」「NEIPA」「ニューイングランドスタイル」「Juicy」「濁り」などの表記を目印にしてください。これだけ覚えておけばOKです。
ヘイジーIPAは、家庭料理との相性が非常に良いビールです。夕飯のお供や週末のご褒美として取り入れると、日常がちょっと豊かになります。
フルーティーな香りが特徴のヘイジーIPAは、以下のような料理と特に好相性です。
飲む温度にもひとつだけ注意点があります。ヘイジーIPAは冷蔵庫から出してすぐの4〜6℃よりも、少し温度が上がった8〜12℃くらいで飲むと、香りがより開いておいしく感じられます。缶から出してグラスに注ぎ、2〜3分待ってから飲むだけで体感が変わります。これは使えそうです。
グラスはできればワイングラスや広口のタンブラーを使うと、香りが立ちやすくなります。缶のままでも十分おいしいですが、グラスに注ぐだけでぐっと豊かな飲み体験になります。
鮮度が命のビールという点は家飲みでも同じです。開封後はすぐに飲み切ってください。飲み残したヘイジーIPAを翌日まで冷蔵保存すると、せっかくのアロマ(香り成分)が飛んでしまい、ただ苦いだけになりやすいです。
また、アルコール度数が5〜8%と比較的高めなので、1〜2缶を目安にして、水もしっかりとりながら楽しむのがおすすめです。健康的に楽しむのが一番です。
ここからは少し踏み込んだ内容です。ヘイジーIPAを選ぶ・楽しむうえで知っておくと確実に得をする「鮮度と劣化」の知識を紹介します。
ヘイジーIPAは生もの感覚で扱うのが原則です。
国内外のブルワリーやビール専門家の間では、ヘイジーIPAは「醸造から6週間以内が最も美味しい」と言われることが多く、遅くとも3ヶ月以内には飲むべきとされています。これはホップ由来の香り成分(テルペン類)が時間とともに酸化・変質しやすいためです。
では、劣化したヘイジーIPAはどうなるのでしょうか?
劣化の主なサインとして、以下のような変化が起きます。
これらのサインは品質劣化のサインです。賞味期限内であっても、保存状態が悪いと起こります。特に光(紫外線)と熱に弱いため、缶入りのものは遮光性が高く瓶より有利です。透明な瓶や茶色い瓶のものを買ったときは、直射日光の当たる場所に置かないよう注意してください。
購入時にも「製造年月日」を確認する習慣をつけると安心です。ネット通販では製造年月日が記載されていない場合も多いですが、「新着入荷」「鮮度管理」をうたっているショップを選ぶと失敗が減ります。
ビール専門の通販サイトでは在庫の回転が速く、鮮度の高い商品が届きやすいです。大手ECサイトではレビューで「届いたら賞味期限が近かった」という声も散見されるため、ショップ選びは慎重に行いましょう。
鮮度に注意すれば大丈夫です。
参考として、ヤッホーブルーイングの公式サイトでは、クラフトビールの保存方法や飲み方についての情報が日本語で詳しく紹介されています。
よなよなエール公式サイト(ヤッホーブルーイング)|クラフトビールの特徴や楽しみ方
また、クラフトビールに関する専門的な情報を国内で発信しているサイトとして、ビール文化の普及を行う「日本地ビール協会」の情報も参考になります。
日本地ビール協会|クラフトビール・地ビールに関する基礎知識と分類
ヘイジーIPAへの理解が深まったでしょうか。苦みが少なくフルーティーで、見た目も個性的なヘイジーIPAは、ビールの新しい楽しみ方を教えてくれるスタイルです。鮮度と保存に気をつけながら、ぜひ自分好みの一本を見つけてみてください。