上新粉で作ったクッキーは時間が経つとカチカチに固まり、食べられなくなることがあります。
「上新粉も米粉も同じお米からできているから、同じものでしょ?」と思っている方は少なくありません。実はこの思い込みが、調理の失敗につながることがあります。
まず整理しておきたいのは、「米粉」という言葉の使われ方です。広い意味では、上新粉・白玉粉・もち粉・道明寺粉などをすべて含めた「お米から作られた粉の総称」を米粉と呼びます。一方で近年スーパーで売られている「米粉」は、製菓・製パン用に特化して開発された「新用途米粉」を指すことがほとんどです。つまり、上新粉は米粉の一種ではあるものの、現在一般的に売られている製菓用の米粉とは別物と考えるのが正確です。
上新粉の原料は「うるち米」です。私たちが毎日食べている白米と同じお米を精白し、水洗いして乾燥させ、製粉してふるいにかけたものが上新粉になります。一方、製菓・製パン用の米粉も原料は同じうるち米ですが、製粉方法が根本的に異なります。
製粉方法の違いがポイントです。上新粉は「胴搗(どうつき)製粉法」という昔ながらの方法で作られ、粒子が比較的粗めに仕上がります。製菓・製パン用の米粉は「湿式気流粉砕」という最新の技術で粉砕されており、でんぷんの損傷(澱粉損傷率)を最小限に抑えながら非常に細かく仕上げることができます。その結果、粒子の大きさは上新粉が約90メッシュ(ふるい目の細かさの単位)なのに対して、製菓・製パン用の米粉は200〜400メッシュと2倍以上の細かさです。
これが料理の出来上がりに大きな差を生む理由です。
もう一点、原料の分類として知っておくと便利なのは、白玉粉やもち粉は「もち米」が原料という点です。上新粉と白玉粉は見た目がよく似ていますが、原料が違うため食感にはっきりとした違いが出ます。上新粉は歯切れよくしっかりとした食感、白玉粉はつるっとなめらかで弾力のある食感です。
参考:農林水産省による米粉の種類と特性についての詳しい解説はこちらからご確認いただけます。
上新粉が最もその実力を発揮するのは、やはり和菓子の分野です。柏餅・串団子・草餅・ういろう・かるかんなど、日本の伝統的な和菓子の多くに上新粉が使われています。
上新粉が和菓子に向いている理由は2つあります。ひとつは「米の風味の強さ」、もうひとつは「適度な歯ごたえと粘り感」です。上新粉は粒子が粗いため、加熱するとお米本来のしっかりとした弾力が生まれます。柏餅のどっしりとした食感、みたらし団子のもっちりと噛みごたえのある食感は、まさにこの上新粉の特性によるものです。
上新粉で和菓子を作るときの大切なポイントが「熱いうちにこねる」という工程です。上新粉は一度蒸してから、まだ熱いうちにしっかりとこねることでなめらかな生地になります。冷めてからこねようとすると硬くなってしまい、失敗の原因になります。これが白玉粉との大きな違いで、白玉粉は水を加えてこねるだけで生地が作れるため、初心者でも扱いやすいのに対し、上新粉は少し手間がかかります。
上新粉で白玉団子を作るとどうなるのか、実験した結果もあります。上新粉で作った団子は「表面はさらっとしていて、粘り気がなく歯切れがよい」仕上がりになります。一方、白玉粉で作った団子は「表面がなめらかでツヤがある」特徴的な見た目になります。同じ団子でも、粉によってこれほど差が出るのです。
歯切れが大事なんですね。
なお、上新粉を使ったクッキーはさくさく感が強く、カリッとした食感が楽しめます。ただし時間が経つと硬くなりやすいという特性もあります。長時間置く場合は、アーモンドプードルや製菓用の米粉を少量混ぜると食感が保ちやすくなります。このような小さな工夫が、手作りおやつの完成度を格段に上げてくれます。
参考:上新粉・白玉粉・もち粉など各粉の詳しい用途と使い分けについてはこちらが参考になります。
東京ガス「上新粉・白玉粉・もち粉の違いとは?それぞれの共通点・違いと米粉の歴史」
「上新粉があれば米粉の代わりに使えるよね」と思って代用したら、ケーキが全然膨らまなかった、パンがぼそぼそになった……という経験がある方もいるかもしれません。上新粉と製菓用米粉は「同じうるち米からできた粉」であっても、料理によっては代用が難しい場面があります。
| 料理の種類 | 上新粉で代用した場合の仕上がり | おすすめの粉 |
|---|---|---|
| 米粉パン | 膨らまず、ぼそぼそとした食感になりやすい | パン用米粉 |
| スポンジケーキ | ふくらみが弱く、弾力のある生地になりやすい | 製菓用米粉 |
| クッキー | カリッとした食感。時間経過で硬くなりやすい | 製菓用米粉または上新粉 |
| 揚げ物の衣 | 使用可能。仕上がりはカリカリ感が強め | 製菓用米粉(片栗粉と混ぜるとより良い) |
| とろみ付け | 使用可能。ただし仕上がりが白っぽくなる | 製菓用米粉・上新粉どちらでも |
| 和菓子(柏餅・団子) | ⭕ 得意分野。歯ごたえのある仕上がり | 上新粉 |
特に大きな差が出るのがパン作りです。パン用米粉は澱粉損傷率が低く、気泡を包み込んでふわっと膨らむ生地が作れます。一方、上新粉は粒子が粗く澱粉損傷率が高いため、生地の中に気泡を保持しにくく、発酵させてもなかなか膨らみません。パンを作りたいなら「パン用米粉」を選ぶのが絶対条件です。
ケーキに上新粉を代用したい場合も注意が必要です。スポンジケーキやシフォンケーキのような「ふんわりとした仕上がり」が目的のレシピには向きません。ただし、チーズケーキやパウンドケーキのようなしっかりとした生地のお菓子であれば、上新粉でも「中はしっとりふわっと、表面はサクッと」という独特のおいしさが楽しめます。代用ではなく、上新粉の特性を活かしたレシピとして楽しむ発想の転換が大切です。
とろみ付けに関しては、上新粉でも問題なく使えます。ただし片栗粉と違って「仕上がりが半透明ではなく白っぽくなる」という違いがあります。麻婆豆腐や中華丼のとろみ付けに片栗粉がなくて上新粉を使う場合は、見た目が少し白っぽくなることを念頭に置いておきましょう。
参考:管理栄養士・米粉研究家の中村りえさんによる詳しい用途解説はこちらが参考になります。
東京ガス「米粉の代用には片栗粉?上新粉?小麦粉の代わりに使う方法や適した料理まとめ」
健康志向の高まりとともに「グルテンフリー」という言葉をよく耳にするようになりました。上新粉や米粉はグルテンフリーなのでしょうか?
結論から言うと、上新粉はグルテンフリーです。うるち米を原料にしているため、小麦・大麦・ライ麦などに含まれるグルテンは一切含まれていません。小麦アレルギーのある方や、グルテンを避けたい方にとって、上新粉は安心して使える選択肢のひとつです。
ただし注意点もひとつあります。「米の粉だから絶対に安全」とは言い切れないケースがあります。製品によっては同じ工場で小麦を扱っており、コンタミネーション(微量の混入)の可能性がゼロではないためです。重篤な小麦アレルギーがある方や、セリアック病の方は、パッケージに「グルテンフリー認証」のマークがある製品を選ぶのが安心です。
栄養面では、上新粉・製菓用米粉ともに小麦粉に比べて以下のような特徴があります。
ヘルシーだからといって食べすぎは禁物ということですね。
上新粉特有の強みとして「お米本来の甘味」もあります。お米のでんぷんは加熱・消化の過程でマルトース(麦芽糖)に変化するため、砂糖を加えなくても素材の甘味が楽しめます。手作りの和菓子では砂糖の量を少し控えても満足感が出やすいのは、このためです。
参考:農林水産省のアミノ酸スコアや米粉の成分比較データはこちらで確認できます。
スーパーの製菓コーナーに行くと、米粉・上新粉・白玉粉・もち粉・だんご粉と、似たような粉がずらりと並んでいて迷ってしまうことがあります。結局どれを買えばいいのか、整理してみましょう。
まず「上新粉」は、和菓子を手作りしたい方の必需品です。串団子・柏餅・草餅・ういろう・かるかんなどを作りたいなら、上新粉を選んでください。スーパーで比較的安く購入でき、1袋200〜250g前後のものが主流です。保存は湿気を避けて密封し、冷暗所に置くのが基本です。
「製菓用米粉」は、グルテンフリーのお菓子やパンを焼きたい方向けです。小麦粉の代わりにケーキ・マフィン・パンケーキ・揚げ物の衣に使えます。メーカーや品種によって水分の吸収量が異なるため、同じレシピでも粉を変えると仕上がりが変わることがあります。パン作りに使いたい場合は「パン用」と書かれた米粉を選ぶのが鉄則です。
これが条件です。
「白玉粉」はもち米が原料で、つるっとした食感の白玉団子や大福を作りたいときに使います。上新粉と間違えて買ってしまうミスが多い粉のひとつなので、パッケージをよく確認しましょう。「もち粉」も同じくもち米が原料で、白玉粉と用途はほぼ同じですが、白玉粉よりきめが細かく、求肥(ぎゅうひ)などに向いています。
「だんご粉」は聞き慣れない方もいるかもしれません。だんご粉はうるち米ともち米を混ぜて作られた粉で、上新粉と白玉粉の中間のような食感に仕上がります。柔らかくもっちりとした団子を簡単に作りたい場合に便利で、蒸さずに茹でるだけで作れるため扱いやすい粉です。初めて和菓子作りに挑戦する方には、だんご粉から試してみるのもひとつの方法です。
まとめると、「和菓子を作りたい→上新粉」「グルテンフリーのお菓子・パン→製菓用・パン用米粉」「白玉・大福→白玉粉」という選び方で迷わずに済みます。これだけ覚えておけばOKです。
なお、上新粉は開封後に時間が経つと酸化が進んで品質が落ちます。使いかけの場合はジッパー付き袋や密封容器に移し替えて、なるべく早めに使い切るようにしましょう。1袋を使い切るのに時間がかかりそうなら、100〜150g程度の少量パックを選ぶのも節約につながります。
参考:上新粉を含む各種米粉製品の栄養成分について、文部科学省の食品成分データベースで詳細を確認できます。