お湯の温度を高くして淹れると、かぶせ茶の旨みが半分以下に落ちてしまいます。
かぶせ茶は、漢字で「冠茶」とも書く、日本茶の一種です。収穫前の1〜2週間ほど、寒冷紗(かんれいしゃ)やワラなどの黒い遮光幕を茶の木にかぶせる「被覆栽培」という方法で育てられます。この「覆いをかぶせる」という工程こそが、かぶせ茶の名前の由来であり、味わいの根幹をなすポイントです。
ではなぜ覆いをかぶせるのでしょうか? 答えは、日光をあえて遮断することにあります。
茶葉が直射日光を浴びると、旨み成分であるテアニン(アミノ酸の一種)が渋み成分のカテキンへと変化していきます。遮光することでこの変化を抑え、テアニンが多く残った状態で収穫できます。結果として、渋みが少なく、まろやかな甘みと旨みを持つお茶になるのです。つまり「日光を遮ることで美味しさを閉じ込める」ということです。
また、日光が少ない環境では茶葉がより多くの光を取り込もうとして葉緑素(クロロフィル)を増やします。そのため、かぶせ茶の葉は煎茶より鮮やかな深緑色に育ちます。淹れたお茶の水色も、青みがかった緑でわずかなにごりがあるのが特徴的です。これは視覚的にも品質の高さを感じさせる見た目です。
緑茶の中でも煎茶・玉露・かぶせ茶は「どれも似たようなもの」と思いがちですが、実は被覆期間の違いだけで味も成分も大きく変わります。違いが一目でわかるよう、以下にまとめました。
| 種類 | 被覆期間 | 味・香りの特徴 | カフェイン量(100mlあたり) |
|---|---|---|---|
| 煎茶 | なし(露地栽培) | さっぱりした渋みと清涼感 | 約20mg |
| かぶせ茶 | 1〜2週間程度 | 甘み・旨みのバランスが良い | 煎茶と玉露の中間 |
| 玉露 | 20〜30日程度 | 濃厚な旨みと深い甘み | 約160mg |
玉露のカフェイン量はコーヒー(100mlあたり約60mg)の2倍以上あり、夕方や夜に飲むと眠れなくなることもあります。かぶせ茶はその中間ですが、玉露ほど突出していないため、子どもから高齢者まで取り入れやすいお茶といえます。
また、かぶせ茶には「覆い香(おおいか)」と呼ばれる独特の香りがあります。青のりに似たジメチルスルフィドという成分が生み出す香りで、これはかぶせ茶ならではの個性です。煎茶の爽やかな香りと玉露の濃厚な香りのちょうど中間にあたり、初めて飲む方でも親しみやすいのが特徴です。これが「いいとこ取り」と言われる理由ですね。
かぶせ茶は広義には煎茶に分類されます。「かぶせ茶は煎茶とは別物」と思っている方も多いですが、製法上は被覆の有無が違うだけで、同じ煎茶系の日本茶です。
「緑茶といえば静岡県」というイメージを持つ方がほとんどだと思います。確かにお茶全体の生産面積・生産量では静岡県が断然1位です。しかしかぶせ茶に限ると、話は全く異なります。
かぶせ茶の生産量は三重県が全国1位で、全国シェアの約63%を占めています。三重県のお茶は「伊勢茶」として知られており、かぶせ茶は伊勢茶の中心的な品目です。特に三重県北勢地域(いなべ市・四日市市・鈴鹿市など)の山間部が主産地で、四日市市の水沢(すいざわ)地区は全国でも特に著名なかぶせ茶の産地です。
この地域が良質なかぶせ茶を生み出せる理由には、明確な自然条件があります。
- ✅ 平均標高300mほどの鈴鹿山麓で昼夜の寒暖差が大きい
- ✅ 鈴鹿川からの朝霧が発生し、天然の遮光カーテンになる
- ✅ 水はけのよい礫(れき)質土壌
この3つの条件が揃っているからこそ、肉厚で旨みの強い茶葉が育つのです。静岡県は温暖すぎて露地栽培に向いているため、かぶせ茶の生産量は少ない、というのが実情です。
三重県以外では、鹿児島県の知覧茶・京都府の宇治茶・奈良県・福岡県なども産地として知られています。産地や茶園ごとに味の個性があるので、いくつか飲み比べてみるのも楽しいです。なお、京都の宇治茶では被覆期間が2週間以上のものをかぶせ茶と定義しており、産地によって定義の細かな違いがある点も覚えておくとよいでしょう。
三重県産のかぶせ茶に興味が出た方は、農林水産省の公式サイトやお茶の通販サイトで「伊勢茶 かぶせ茶」と検索すると産地直送のものを見つけやすいです。
かぶせ茶の最大の健康的な魅力は、旨み成分であるテアニンが多く含まれている点にあります。テアニンはアミノ酸の一種で、お茶特有の「ほっとする感覚」を生み出す成分として研究が進んでいます。
テアニンが重要です。
テアニンを摂取すると、脳からリラックス状態のときに出るα波が増加することが科学的に確認されています。さらに、緊張やストレス時に活発になる交感神経を抑制する働きも持ちます。これが「お茶を飲むと心が落ち着く」という感覚の正体です。カフェインが含まれているにもかかわらずリラックスできるのは、このテアニンがカフェインの興奮作用を穏やかにしてくれるためです。
テアニンの主な健康効果をまとめると、以下の通りです。
- 🧠 リラックス効果:α波増加によりストレスや緊張を緩和
- 😴 睡眠の質の向上:就寝30〜60分前の摂取で自然な入眠をサポート
- 🔋 集中力のサポート:過度な興奮を抑えつつ集中力を維持
- 💪 疲労感の軽減:心拍数の上昇抑制による疲労感の改善
リラックス効果を実感するには、1日あたり200mg程度のテアニン摂取が目安とされています。玉露のテアニン含有量は茶葉100gあたり約2,650mg、煎茶は約1,280mgとされており、かぶせ茶はその中間以上の含有量があります(三重県の研究でも、被覆によりテアニンが豊富に残ることが報告されています)。
ただし注意点もあります。カフェインも含まれているため、就寝直前や妊娠中・授乳中の方は摂取量に配慮が必要です。夜にどうしても飲みたい場合は、後述の水出し製法で淹れると、カフェインの抽出が低温では抑えられるため比較的安心です。
参考:テアニンの睡眠・リラックス効果について(山本山)
https://yamamotoyama.co.jp/blogs/column/reading258
かぶせ茶は、淹れ方を少し変えるだけで味の表情が大きく変わります。ここが煎茶との一番の違いで、温度と時間のコントロールを覚えるだけで、毎日のお茶が格段においしくなります。
基本が大事です。
🍵 基本の淹れ方(2人分の目安)
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 茶葉の量 | 5g(ティースプーン2杯程度) |
| お湯の量 | 160ml |
| お湯の温度 | 70〜80℃ |
| 蒸らし時間 | 30〜60秒 |
ポイントは「お湯の温度を下げること」に尽きます。沸騰したお湯を湯呑みに一度移すと約10℃下がります。そこからさらに急須に移して70〜80℃まで冷ましてから茶葉に注ぐと、甘みと旨みがしっかり引き出せます。熱湯をそのまま使うと渋みが強く出てしまい、かぶせ茶の魅力が半減します。蒸らしすぎも禁物です。
2煎目以降は、温度を少し上げて80℃くらいのお湯を注ぎ、素早く注ぎ分けると異なる風味が楽しめます。最後の一滴まで注ぎきることで、茶葉の旨みを余すことなく味わえるので忘れずに。
❄️ 水出しかぶせ茶(夏・就寝前におすすめ)
茶葉5gを水200mlに入れ、冷蔵庫で3〜5時間置くだけです。低温でゆっくり抽出するため渋みが出にくく、甘みだけが際立つまろやかな味わいになります。作ったものは冷蔵庫で1〜2日以内に飲み切りましょう。常温放置は菌が増えやすいため注意が必要です。
☕ お茶ラテアレンジ
かぶせ茶を茶葉6gに対してお湯80mlで濃いめに淹れ、温めた牛乳と1:1で割るとほっこりとした「かぶせ茶ラテ」になります。緑茶の風味とミルクのまろやかさがよく合い、和菓子だけでなくクッキーや洋菓子にも合います。普段の煎茶と同じ感覚で試してみると新鮮な発見があるでしょう。
参考:伊勢茶 かぶせ茶の美味しい入れ方(伊勢茶.net)
https://www.isecha.net/tea/howto/index2.html