血糖値が150mg/dLしかない患者が、ケトアシドーシスで救急搬送されることがあります。
カナリア配合錠は、DPP-4阻害薬「テネリグリプチン(20mg)」とSGLT2阻害薬「カナグリフロジン(100mg)」を1錠に凝縮した国内初の配合剤です。2つの全く異なる機序を持つ成分が含まれているため、それぞれの副作用プロファイルが重なり合う点が最大の特徴です。
テネリグリプチンはDPP-4酵素を阻害してインクレチン(GLP-1)の分解を抑制し、インスリン分泌を促進させます。一方、カナグリフロジンは腎臓のSGLT2トランスポーターを選択的に阻害し、1日あたり約60〜80g分のグルコースを尿中に強制排出します。角砂糖に換算すると約20〜26個分に相当する量が尿に捨てられる計算です。
2つの作用機序が合わさることで、単剤では発生しにくい副作用も顕在化することがあります。つまり、「DPP-4阻害薬由来の副作用」と「SGLT2阻害薬由来の副作用」の両方を医療従事者が把握しておくことが原則です。
現行の添付文書(電子添文)では、重大な副作用として以下の9項目が挙げられています。
| 重大な副作用 | 主な自覚症状 | 頻度 |
|---|---|---|
| 低血糖 | 冷汗・ふるえ・動悸・意識低下 | 記載あり |
| 脱水 | 口渇・多尿・立ちくらみ | 頻度不明 |
| ケトアシドーシス | 悪心・嘔吐・腹痛・意識障害 | 頻度不明 |
| 腎盂腎炎・フルニエ壊疽・敗血症 | 発熱・陰部腫脹・発赤・寒気 | 頻度不明 |
| イレウス(腸閉塞) | 高度便秘・腹部膨満・嘔吐 | 頻度不明 |
| 肝機能障害 | 倦怠感・食欲不振・AST/ALT上昇 | 頻度不明 |
| 間質性肺炎 | 咳嗽・呼吸困難・発熱・捻髪音 | 頻度不明 |
| 類天疱瘡 | 全身の水疱・びらん・痒み | 頻度不明 |
| 急性膵炎 | 持続的な激しい上腹部痛・嘔吐 | 頻度不明 |
「頻度不明」という表記は「発生しないこと」を意味するのではありません。承認後の自発報告等では頻度が算出できなかった副作用に対して用いられる区分であることを、現場では必ず念頭に置いてください。
また、その他(非重大)の副作用としても、頻尿・多尿・口渇・便秘・外陰部腟カンジダ症・亀頭包皮炎・血中ケトン体増加・起立性低血圧・湿疹など多岐にわたる項目が記載されています。服薬指導や外来フォローにおいて患者から聞き取るべき症状リストは想像以上に広範囲です。
参考:田辺ファーマ株式会社「カナリアQ&A:重大な副作用」(2025年12月更新)
https://medical.tanabe-pharma.com/di/qa/cnl/14122/
医療従事者の間でも「ケトアシドーシス=著明な高血糖(300mg/dL以上)を伴う」という認識がいまだ根強く残っています。しかしカナリア配合錠のSGLT2阻害薬成分(カナグリフロジン)を服用している患者では、血糖値が250mg/dL未満、場合によっては150mg/dL前後でも重篤なケトアシドーシス(euglycemic diabetic ketoacidosis:euDKA)が発症します。
これが起きる薬理学的な背景は明快です。SGLT2阻害薬が強制的にグルコースを尿へ排出し続けるため、血糖値は見かけ上は「ほどよい値」に保たれます。ところが細胞の内側では、エネルギー源となるグルコースが不足した状態が続いています。膵臓はこの血糖値の低さを「インスリン分泌の必要がない状態」と誤読し、インスリン分泌を低下させます。そこへグルカゴンの相対的な過剰分泌が重なることで、肝臓は非常用エネルギー源として脂肪をフル稼働で燃焼させ始め、その燃えカスとしてケトン体が大量に産生されます。
つまり、「血糖値は薬で抑えられているのに、体の内部では飢餓に近い状態が走っている」という矛盾が起きているわけです。意外ですね。
臨床現場で特に注意が必要な誘因として、以下の3つが挙げられます。
euDKAの怖い点は、血糖値で異常を見抜けないことにあります。患者が「気分が悪い」「お腹が痛い」「体がだるい」と訴えた場合、単純な胃腸炎と片付けてしまうリスクがあります。SGLT2阻害薬服用中の患者からこれらの主訴が出た際には、クスマウル呼吸(深くて荒い呼吸)やアセトン臭(息の甘酸っぱいニオイ)の有無を確認し、血中・尿中ケトン体測定を優先的に行うことが重要です。
euDKAが疑われる状況では、血糖値が正常でも投与を一時中断し、血中βヒドロキシ酪酸の測定を含む精査が必須です。血糖値だけに注意すれば大丈夫ではありません。
参考:薬剤師の処方解析ノート「SGLT2阻害薬で起こる正常血糖ケトアシドーシス(euDKA)」
https://www.shohokaiseki.com/sglt2-eudka/
SGLT2阻害薬に特徴的な副作用として、外陰部・会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)が添付文書に記載されています。
フルニエ壊疽(Fournier's gangrene)は、会陰・陰嚢・外陰部を中心として急速に進行する壊死性筋膜炎です。細菌が皮下組織の筋膜に沿って急速に広がり、放置すれば敗血症性ショックに至る致死的な感染症です。外科的なデブリードマン(壊死組織の切除)が必要となるケースも多く、陰部の大部分を失うことになる場合もあります。早期発見が生命予後を大きく左右する副作用です。
SGLT2阻害薬使用によりこのリスクが高まる背景として、尿中グルコース濃度の上昇(平均して尿1mLあたり数mg以上の尿糖排泄)が挙げられます。糖を豊富に含む尿が性器周囲の皮膚環境に与える影響として、真菌(カンジダ属)や嫌気性細菌が増殖しやすい環境が形成されます。これが外陰部腟カンジダ症・亀頭包皮炎といった軽微な感染症として始まり、場合によってはフルニエ壊疽へと発展するリスクがあります。
重要な点は、初期症状が非常に地味なことです。「陰部がかゆい・痛い」「少し腫れている」という段階から始まり、そこから数日で発赤・水疱・黒変へと急速に進行することがあります。臨床現場での初期症状の見逃しが、致命的な結末につながりかねません。
患者への指導として、次の症状が現れた場合は直ちに受診するよう説明しておくことが必要です。
また、腎盂腎炎も重大な副作用として添付文書に記載されています。寒気・ふるえ・発熱・背部痛といった症状の組み合わせは、腎盂腎炎から敗血症に至るサインである可能性があります。「少し熱がある、背中が痛い」という訴えをカナリア配合錠服用中の患者から聞いた際には、尿路感染として軽視せず、早急な検査と対応が条件です。
参考:ファルマスタッフ「カナリア配合錠 注意すべき副作用・患者さま」
https://www.38-8931.com/pharma-labo/okusuri-qa/skillup/di_skill105.php
2021年11月、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)と田辺三菱製薬・第一三共の連名で、「カナリア配合錠」と「カナグル錠100mg」の取り違えに関する注意喚起文書が医療機関・薬局に配布されました。
取り違えは2種類のパターンで起きています。
1つ目は処方誤りです。DPP-4阻害剤(テネリア等)による類天疱瘡の副作用を過去に起こした患者に対して、担当医師がDPP-4阻害剤の成分が含まれることを把握せずにカナリア配合錠へ処方を変更してしまった事例です。患者は服用後に全身に水疱が再発し、皮膚科での入院治療が必要になりました。
2つ目は調剤時の取り違えです。処方箋には「カナグル100mg 1錠 1日1回」と明記されていたにもかかわらず、誤ってカナリア配合錠を調剤・監査・交付してしまい、患者自身が自宅で薬を確認して初めて気づいたという事例です。
この2事例のポイントを整理すると次のとおりです。
| 事例パターン | 起きた場所 | 引き起こした問題 |
|---|---|---|
| 処方誤り(医師) | 院内処方・外来 | 類天疱瘡の再発・皮膚科入院 |
| 調剤取り違え(薬局) | 保険薬局 | 患者自身が発見するまで誤薬が交付 |
取り違えが起きやすい背景として、2剤の薬剤名の類似性があります。「カナリア」と「カナグル」はカタカナ4〜5文字という長さや語頭が類似していること、さらに2型糖尿病治療薬という効能・効果も同一であることが混乱を招いています。
現場での防止策として、PMDAおよびメーカーは以下の対応を推奨しています。
「薬が変わりましたが、これは以前のテネリアとカナグルの2種類の成分が1錠に入ったものです」という一文を必ず伝えるだけでも、患者側が自分で気づくセーフティネットになり得ます。これは使えそうです。
参考:PMDA「カナリア配合錠とカナグル錠の取り違え注意(2021年11月作成)」
https://www.pmda.go.jp/files/000243496.pdf
カナリア配合錠の副作用リスクを最小化するうえで、投与前の患者選択と定期的なモニタリングは切り離せません。
禁忌患者(絶対に投与してはならない)
添付文書に定める禁忌を確認しておきましょう。
慎重投与が必要な患者としては、65歳以上の高齢者・利尿薬併用中の患者が挙げられます。SGLT2阻害薬成分による浸透圧利尿作用が加わることで、高齢者では脱水に至るまでのスピードが格段に速くなります。75歳以上や老年症候群を合併するケースは特に要注意です。
相互作用
テネリグリプチン・カナグリフロジンはともにP糖タンパク質の基質であるため、ジゴキシンは併用注意です。治療域が狭いジゴキシンを低用量で使用している心不全合併患者への導入時には、血中濃度モニタリングの強化を検討すること。また、カナグリフロジンの代謝酵素(UGT1A9・UGT2B4)を誘導するリファンピシン・フェニトイン・リトナビルとの併用では、カナグリフロジンの血中濃度が低下し効果減弱の可能性があります。相互作用が条件です。
SU薬・インスリン製剤・速効型インスリン分泌促進薬との併用時には、これらの薬剤の減量を検討してください。カナリア配合錠単体での低血糖リスクは比較的低いものの、これらとの組み合わせで重篤な低血糖が発症した報告があります。低血糖発現時には原則として糖質を含む食品を摂取させますが、α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース等)を併用している患者ではブドウ糖(グルコース)を投与しなければ改善しない点に注意が必要です。
投与中のモニタリング項目
定期的なフォローとして確認すべき項目を以下に整理します。
こうしたモニタリングを系統的に行うために、糖尿病連携手帳や施設内のチェックシートを活用することが、患者安全の向上と副作用の早期発見・早期対処につながります。
参考:KEGG「医療用医薬品:カナリア(カナリア配合錠)」
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071634