口腔アレルギー症候群は、特定の果物や野菜を食べた直後から1時間以内に、口唇、舌、口の中、喉にかゆみ、ピリピリした刺激感、腫れ感などの症状が現れる病気です。多くの場合、症状は食後15分以内に出現し、食物が直接触れた口腔粘膜やその周辺組織に限局します。
参考)口腔アレルギー症候群って,ご存知ですか? - 草ヶ谷医院
症状の強さには個人差がありますが、軽症の場合は口の中や喉がイガイガする、ヒリヒリするといった違和感程度で済むことが多く、食後しばらくすると自然に軽快します。患者さんの中には、リンゴやモモ、キウイやメロンなどを食べた後に、口の中がピリピリとしびれたり、のどがムズムズかゆくなったりする経験をされた方も少なくありません。
参考)口腔アレルギー症候群(OAS)
実は、口腔アレルギー症候群の原因物質であるアレルゲンは、小腸に到達する前に壊れるため、主に口の中だけで反応が起きるという特徴があります。これは植物が病原菌の感染や傷害、ストレスから身を守るための生体防御として誘導されるタンパク質が関係しています。
症状が口腔内だけに留まらないケースも存在します。症状が強い場合には、鼻水や鼻づまり、目から涙が出るなどの鼻や眼のアレルギー症状が現れることがあります。さらに重症化すると、じんま疹や腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状、息が詰まって苦しい感じなどの呼吸器症状が出る場合もあるため注意が必要です。
参考)口腔アレルギー症候群のご相談は神戸市東灘区の「谷尻医院」へ
花粉症の方が増えてきたのに伴い、口腔アレルギー症候群も増加傾向にあります。特にハンノキ、シラカバ花粉症の方の罹患率が最も高く約40%で、スギ花粉症の方は約10%といわれています。症状が軽微で看過されてしまうことが少なくありませんが、中にはアナフィラキシー症状など重篤な全身症状を引き起こす場合もあるため、専門医への相談が重要です。
参考)抗原特異的IgE抗体陽性率と食物アレルギーの実態
最も重症の場合には、アナフィラキシーと呼ばれる血圧の低下、意識の低下などが起こる可能性があります。アナフィラキシーは血圧が低下し意識レベルの低下や脱力を来すような状態で、対応が遅れると命が危険にさらされることもある重篤な状態です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000zj6g-att/2r9852000000zjan.pdf
特に豆乳やスパイスではアナフィラキシーが引き起こされることもあるため、これらの食品を摂取する際には十分な注意が必要です。日本における花粉症患者の増加に伴い、口腔アレルギー症候群の有病率も上昇しており、耳鼻咽喉科医として一定数の患者がいることに留意すべきという指摘もあります。
参考)特殊な食物アレルギー/Q&A|一般社団法人日本アレルギー学会
アナフィラキシー症状を引き起こす可能性がある場合、原因となる食物の摂取を避けることが原則となります。医師による適切な診断と治療・指導を行うことで、軽微な症状をはじめ重篤な全身症状までを予防・回避することに繋がると考えられています。
参考)口腔アレルギー症候群について - ブログ|滋賀県守山市|小児…
口腔アレルギー症候群の興味深い特徴として、症状が比較的短時間で自然に軽快することが挙げられます。多くの場合、食後30~60分で自然と症状が消えるため、過度な心配は不要です。この理由は、アレルゲンとなるタンパク質が消化酵素や胃酸によって分解されやすく、小腸に到達する前に活性を失うためです。
参考)「果物で口の中がかゆい時どうしたらいいの?」 口腔アレルギー…
ただし、症状が自然に軽快するからといって油断は禁物です。初回は軽症でも、繰り返し摂取することで症状が悪化したり、突然重篤な症状を引き起こしたりする可能性もゼロではありません。食事のあとにアレルギー症状が出た場合には、何を食べたか、どんな症状が出たかを記録しておき、医師に相談することをお勧めします。
意外と知られていないのが、口腔アレルギー症候群の症状が花粉の飛散時期によって変動するという点です。花粉症の症状が強い時期には、口腔アレルギー症候群の症状も強くなる傾向があります。これは、花粉に対する免疫反応が活性化されている時期には、交差反応を起こす食物に対しても過敏に反応しやすくなるためです。
特にハンノキやシラカンバの花粉が飛散する春先は、バラ科の果物(リンゴ、モモ、サクランボなど)による症状が出やすくなります。一方、イネ科やキク科の花粉が飛散する初夏から秋にかけては、メロンやスイカ、キウイなどで症状が出やすくなるという季節性があります。花粉の飛散時期を把握し、その時期には特に注意することで、症状の悪化を防ぐことができます。
口腔アレルギー症候群は、花粉症の人が特定の果物や野菜を食べることにより、口・唇・喉などの口腔粘膜やその周辺組織にアレルギー症状が起きる特殊な食物アレルギーです。原因となる食品は花粉の種類によって異なり、ハンノキやシラカンバ花粉症が原因の場合は、バラ科果物(モモ・リンゴ・サクランボ・イチゴ・プルーン・ナシ・梅)や豆乳で症状が出ます。
バラ科アレルギーは、りんご、もも、アーモンドなどのバラ科の食べ物を食べることによって、口の中や喉のかゆみや腫れ、ヒリヒリ感などの症状が出るアレルギーです。実際の臨床現場では、リンゴなどバラ科食物が原因食物として多く報告されており、中にはキウイやバナナも挙げられています。花粉症が小学生、中学生と徐々に症状が強くなってくるため、口腔アレルギー症候群も小学校中・高学年になってくると増えてくる傾向があります。
参考)バラ科アレルギーの症状・対策・注意すべき食べ物【食物アレルギ…
口腔アレルギー症候群の発症には花粉症、特にカバノキ科(ハンノキ、シラカバ)への感作が重要な役割を果たしています。花粉アレルゲンは2種類以上の重複感作例が多く、中でもカバノキ科感作が高い感作率を示しています。統計学的な分析でも、カバノキ科で有意にオッズ比が高く、その他の吸入アレルゲンへの多重感作も統計学的に影響を与えうる可能性が示唆されています。
スギ花粉症の場合はナス科のトマトで症状が出やすく、イネ科(カモガヤ等)やキク科(ブタクサ等)花粉症の場合は、メロン・スイカ・キウイ・トマトなどで症状が出やすいという特徴があります。ヨモギ花粉症の場合は、セリ科(セロリ、ニンジン、スパイス類)やウルシ科(マンゴー)などで症状が現れることが報告されています。
日本アレルギー学会の特殊な食物アレルギー解説ページには、花粉の種類と交差反応を起こす食物の詳細な対応表が掲載されており、自分の花粉症のタイプから注意すべき食品を確認できます。
花粉症(スギ・ヒノキ以外)が原因となり、花粉に似たアレルギーの原因タンパク質が果物・野菜にも入っているために、果物野菜を食べた時にもアレルギー症状がでるようになります。これは交差反応と呼ばれる現象で、体内のIgE抗体(アレルギー物質に対する抗体)が関係しています。
特異的IgE抗体測定によって明らかになったカバノキ科感作や多重感作症例に対しては、口腔・咽頭粘膜症状の有無を問診で行うことによって、口腔アレルギー症候群を有しているにも関わらず症状を訴えない潜在的な患者の検索を行える可能性があると考えられています。実際、口腔・咽頭粘膜症状を呈する例は外来患者の一定割合を占めており、全例で口腔咽頭の刺激感や掻痒感の局所症状を呈していますが、中には全身症状を呈する重篤な症例も認められています。
口腔アレルギー症候群の検査については、血液検査とプリックテストという方法があります。血液検査は採血による検査で、アレルギーの有無や、その度合を知ることができます。プリックテストは腕や背中に専用の針で傷をつけ、そこにアレルゲンの疑いがある食品を乗せて皮膚の変化をしらべる方法で、アレルゲン液もしくは新鮮食材を乗せて15~30分ほど放置し、腫れの具合を確認するため比較的すぐに結果がわかります。
参考)口腔アレルギーの検査方法は?何科?費用や結果が出るまでの日数…
検査は内科、呼吸器科、アレルギー科、耳鼻いんこう科、皮膚科、眼科など、さまざまな科で受けられます。花粉症持ちの方はアレルギー科・耳鼻いんこう科、原因食品に心当たりがない場合はアレルギー科・皮膚科、息苦しさを感じる場合は呼吸器科といったように、状況に応じて受診科目を選択すると良いでしょう。
医療情報サイトFDOCでは、口腔アレルギーの検査方法や費用、結果が出るまでの日数など、具体的な情報が詳しく解説されています。
原因となる食べ物を食べないようにすることが原則ですが、一部の食品は加熱することで口腔アレルギー症候群が発症しないこともあります。加熱により弱くなる食品として、果物・野菜類はある程度弱くなることが知られています。ジャムやジュース、ソースなどの加熱・加工処理をしたものであれば食べられる人もいますが、個人差があるため、ひとりで判断せず医師に相談することが重要です。
参考)食品加熱でアレルゲンは弱くなる? href="https://oyanagiallergyclinic.com/1139/" target="_blank">https://oyanagiallergyclinic.com/1139/amp;#x2d; おやなぎアレ…
ただし、豆乳や桃など一部の食物においては、加熱してもアレルギー症状が出現する場合があるため注意が必要です。加熱してもほとんど強さが変わらない食品として、小麦、牛乳、大豆、甲殻類、魚卵、ナッツ類、ソバなどがあり、ピーナッツは例外的に加熱するとアレルゲンが悪い方に変性してアレルギー症状を起こしやすくなることがわかっています。
参考)【OAS/PFAS】口腔アレルギー症候群と花粉の関係について…
花粉症が原因となるので、花粉症発症前からなるべく花粉に触れないようにすることが予防となり、花粉の時期に外出するときにはマスクをしたりすると発症時期を遅らせることが期待できます。また、近年、アレルゲンが皮膚から侵入してアレルギーが発症することがわかってきたため、入浴後など、お肌が乾燥しやすいときに保湿などのスキンケアを行い、肌のバリア機能を高めることがアレルギー発症の予防に重要と考えられています。
現時点では、口腔アレルギー症候群を確実に治癒させる方法は確立されておらず、治療の基本は原因となる食物の回避と、症状出現時の薬物療法の2つです。特定の野菜や果物など、原因となっている食物が明らかな場合は、その食物の摂取を避けることでアレルギーの発症が予防できます。
生の食物では症状が出る場合でも、加熱したものや加工食品は摂取が可能な場合もありますが、豆乳や桃など一部の食物においては、加熱してもアレルギー症状が出現する場合があるため注意が必要です。症状の程度にもよりますので、食べても大丈夫か心配なときは医師にご相談いただくことをお勧めします。
花粉症の方で口腔アレルギー症候群を発症する割合はそれほど高くないため、花粉症だからといっていたずらに食べ物の制限をする必要はありません。バランスの取れた食生活を維持することも重要ですので、過度な制限は避けましょう。
食品の摂取によりアレルギー反応が生じると、肥満細胞などに蓄えられているヒスタミンという物質が口やのどの粘膜下組織に拡がります。ヒスタミンの血管拡張作用により腫れやむくみが生じますが、抗ヒスタミン剤はこれらの症状を抑えるため、口腔アレルギー症候群への効果が期待できます。
参考)口腔アレルギー症候群の治療法 - ひぐち歯科、口腔外科・口腔…
アナフィラキシーによる喘鳴や呼吸困難が生じた場合は、ただちにエピネフリンを筋肉注射する必要があります。エピネフリンの持つ強力な交感神経刺激作用によって気管支筋が弛緩し、気管支の痙攣を解消することができます。アナフィラキシーは直ちに対応しないと生命にかかわる重篤な状態を意味するため、迅速な対応が求められます。
多種類の花粉の混合抗原を継続的に皮下注射する皮下免疫療法によって、口腔アレルギー症候群が改善したという報告もありますが、無効であったという報告もあり、今後の研究が待たれます。
食事のあとにアレルギー症状が出た場合には、何を食べたか、どんな症状が出たかを控えておいて医師にお伝えください。この記録は診断や治療方針の決定に非常に役立ちます。特に初めて症状が出た食品や、症状が強かった場合は詳細にメモを取っておくことをお勧めします。
外食時には、メニューに含まれる食材を確認し、不明な点は店員に尋ねることが重要です。特にスムージーやフレッシュジュース、生野菜のサラダなどは複数の果物や野菜が混ざっていることが多いため注意が必要です。また、給食やビュッフェなど、複数人が食べる場面では、事前にアレルギーがあることを伝えておくと安心です。
花粉の飛散時期には症状が悪化しやすいため、その時期は特に注意が必要です。花粉症の症状をコントロールすることで、口腔アレルギー症候群の症状も軽減できる可能性があります。
症状が口腔内に留まらず、全身症状が出現した場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。特に呼吸困難、血圧低下、意識障害などの症状が見られる場合は、アナフィラキシーの可能性があるため、救急車を呼ぶことをためらわないでください。
アナフィラキシーのリスクが高い方には、エピペン(アドレナリン自己注射薬)が処方されることがあります。エピペンは太ももの外側に注射する携帯型の自己注射薬で、アナフィラキシー症状が出た際に使用します。処方された場合は、使用方法をしっかりと理解し、常に携帯することが推奨されます。
ただし、口腔アレルギー症候群の多くは30~60分で自然に症状が消えるため、過度な心配は不要です。しかし、初回は軽症でも繰り返し摂取することで症状が悪化する可能性もあるため、医師の診断と指導を受けることが重要です。
口腔アレルギー症候群で複数の果物や野菜が食べられない場合、栄養バランスが偏る心配があるかもしれません。しかし、実際には代替食品を上手に活用することで、必要な栄養素を十分に摂取することが可能です。例えば、バラ科の果物が食べられない場合でも、柑橘類や他の果物から同様のビタミンCを摂取できます。
参考)野菜・果物類|除去食と代替食|公益財団法人ニッポンハム食の未…
野菜についても、生で食べると症状が出る場合でも、加熱調理することで食べられる場合があります。温野菜やスープ、煮物などの形で調理すれば、同じ野菜でも安全に摂取できることが多いため、完全に除去する前に医師に相談してみましょう。
また、栄養士による食事指導を受けることで、制限が必要な食品があっても栄養バランスの取れた食事を計画することができます。特に成長期の子どもの場合は、適切な栄養摂取が重要ですので、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。