植物性ホイップクリームでクロテッドクリームを作ると、出来上がり量が0gになります。
クロテッドクリームは、イギリス南西部のデヴォン地方やコーンウォール地方で2000年以上前から作られてきた伝統的な乳製品です。「クロテッド(clotted)」は「凝縮された」という意味で、名前の通りギュッとミルクのうま味が凝縮されたクリームです。
乳脂肪分は約60%前後。バターの乳脂肪分が約80%、一般的な生クリームが約35〜47%と考えると、クロテッドクリームはちょうどその中間に位置します。バターほど重くなく、生クリームよりもずっとコクがあり、口の中でス〜っと溶けるような不思議なテクスチャーが最大の魅力です。
日本のスーパーでは見かけることが少なく、デパートの輸入食材コーナーや成城石井・カルディなどで小さな瓶入りのものが1,000〜1,500円前後で販売されています。ただし、実は生クリーム1本さえあれば自宅で手作りすることができます。手作りすれば200mlの生クリームから約40〜58g分が出来上がるので、コスト面でも大きなメリットがあります。
参考:クロテッドクリームの乳脂肪分や市販品についての情報はこちら。
湯せん式は最もスタンダードで失敗が少なく、初心者にもおすすめの方法です。仕上がりはふんわりと柔らかく、ホイップクリームよりもったりとしたテクスチャーになります。
まず材料と道具を確認しましょう。
| 必要なもの | 詳細 |
|---|---|
| 純生クリーム | 乳脂肪分45%以上推奨(200ml) |
| 耐熱ガラスまたはステンレスボウル | プラスチック製は熱が伝わりにくいのでNG |
| 深めのフライパンまたは鍋 | ボウルが安定して浸かるもの |
| 料理用温度計 | 80〜90℃をキープするために使用 |
| ゴムベラ(スパチュラ) | 乳脂肪分の膜を取り出すために使用 |
手順は次の通りです。
- ① フライパンに水を張り、沸騰させる。生クリームをボウルに入れておく。
- ② 沸かしたお湯にボウルを浸け、極弱火〜弱火にして80〜90℃をキープしながら30分〜1時間加熱する。
- ③ 加熱中に黄色い膜(クラスト)が表面に張ってきたら、スパチュラで1か所にそっと寄せる。
- ④ 1時間経ったら火を止め、湯せんにかけたまま粗熱を取る。
- ⑤ 粗熱が取れたらラップをせずに冷蔵庫で半日以上(目安は一晩)冷やす。
- ⑥ 冷えたら表面に固まった乳脂肪の層をゴムベラでそっとすくい取り、別の容器に移してなめらかになるまで混ぜれば完成。
ラップなしで冷やすのが大切です。ラップをすると水蒸気がクリームに落ちて水っぽくなってしまいます。「ゆっくり温め、ゆっくり冷ます」が基本原則です。
仕上がりの目安として、200mlの生クリームからできる量を乳脂肪分別にまとめると下記のようになります。
| 生クリームの種類 | 出来上がり量 |
|---|---|
| 乳脂肪分47% | 約58g |
| 乳脂肪分35% | 約40g |
| 植物性ホイップクリーム | 0g(失敗) |
47%と35%では出来上がり量が約18g違います。18gというのはバターひとかけら分くらいの差ですが、スコーン2〜3個分のトッピングに相当するため、なるべく乳脂肪分の高いものを選ぶことをおすすめします。
参考:湯せん式とオーブン式の詳細な比較はこちらの記事が参考になります。
富澤商店「クロテッドクリームとは?簡単な作り方・レシピとおすすめの食べ方」
湯せん式以外にも、家にある調理器具によって選べる方法があります。手順が少し違うので、それぞれ確認しておきましょう。
🔶 オーブン加熱式
オーブンを最低温度(80〜110℃)で予熱し、耐熱ガラスボウルに入れた生クリームをそのまま1時間加熱します。オーブン内では送風があるため、表面の乳脂肪分が少し乾いた状態になります。粗熱を取った後は、湯せん式と同様にラップなしで冷蔵庫に半日〜1日以上入れます。
湯せん式よりも仕上がりが少し固め・バターに近いテクスチャーになります。おつまみ系のトッピングやパンに塗るバター代わりとして使うなら、オーブン式の方が向いているかもしれません。
🔶 電子レンジ式(時短したい方向け)
耐熱ボウルに生クリームを入れ、600Wで7〜8分加熱します。加熱後は同様に冷蔵庫で冷やして乳脂肪分を分離させます。手順がシンプルで時短になる一方、温度管理が難しいため若干出来上がり量が少なくなる場合があります。電子レンジ式は「今日すぐ作りたい」という方に向いています。
3つの方法を比較すると下記のようになります。
| 方法 | 加熱時間 | 難易度 | 仕上がりの特徴 |
|---|---|---|---|
| 湯せん式 | 30分〜1時間 | ★★☆ | ふんわり・なめらか |
| オーブン式 | 1時間 | ★☆☆ | 固め・バターに近い |
| 電子レンジ式 | 約8分 | ★☆☆ | やや量が少なくなることも |
つまり、初めて作るなら湯せん式が一番安定して仕上がります。
実際に作ってみたらうまくいかなかった、という声には共通のパターンがあります。これだけ押さえれば大丈夫です。
❶ 植物性ホイップクリームは絶対に使わない
スーパーで安価に売られている「ホイップクリーム」は植物性油脂が原料で、乳脂肪分がほとんど含まれていません。加熱しても乳脂肪が分離せず、出来上がり量はゼロになります。購入時は必ずパッケージの「原材料名」を確認して「生乳(または生クリーム)」と書かれた純生クリームを選びましょう。乳脂肪分40%以上が目安です。
❷ 冷凍保存はしない
手作りクロテッドクリームの保存は、ラップや密閉容器に入れて冷蔵庫で保存するのが基本です。冷凍すると解凍時にクリームが離水して、水っぽくシャバシャバになってしまいます。市販品の中沢クロテッドも公式FAQで「冷凍はできません」と明記されています。冷蔵保存で当日中、遅くとも2〜3日以内に使い切りましょう。
❸ 冷やす時はラップをしない
粗熱を取った後に冷蔵庫へ入れる際、ラップをかけてしまうと水蒸気がクリームに落ちて水っぽくなります。ラップなしで冷やすことで表面の乳脂肪層がしっかりと固まり、スプーンできれいにすくえる状態になります。他の食材のにおいが気になる場合は、冷蔵庫内でラップをふんわり浮かせる程度にとどめておくとよいでしょう。
「保存容器に入れたら翌日には固まりすぎていた」という場合は、スパチュラで軽くほぐしてから使うと元のなめらかなテクスチャーに戻ります。これは問題ありません。
参考:保存方法と日持ちの詳細については以下のページが参考になります。
クロテッドクリームを取り出した後、ボウルの底には乳白色の液体が残ります。これを捨ててしまうのは大きなもったいないです。加熱した生クリームなので泡立ててホイップクリームとして使うことはできませんが、料理やお菓子の材料として大活躍してくれます。
🍳 料理への活用例
- カルボナーラやクリームパスタのソースに加える
- シチューやカレーの仕上げにコクとまろやかさをプラス
- スープ(ポタージュ・コーンスープなど)にひとさじ加えると濃厚な仕上がりに
- マッシュポテトに混ぜるとバターより軽くクリーミーな食感になる
🍰 お菓子への活用例
- スコーンの生地の牛乳代わりに使うと一層しっとり仕上がる
- チョコレートガナッシュの材料として使える
- キッシュのアパレイユ(卵液)に混ぜると濃厚な仕上がりになる
また、余ったクロテッドクリーム本体(クリーム部分)自体も、スコーン以外のシーンで活用できます。クラッカーに生ハムと一緒にのせたり、あんこのお供としてバゲットに塗ったりする和洋折衷のアレンジも人気です。トマトスープのトッピングにサワークリームのように落とすと、スープが一気に本格的な味わいになります。
余すことなく使い切れるということですね。これは食費の節約にもつながります。
スコーンにクロテッドクリームをどう塗るかは、実はイギリスで「スコーン論争」と呼ばれるほど真剣な話題です。デヴォン地方とコーンウォール地方でまったく逆のやり方が主張されています。
🏴 デヴォン式(クリームファースト)
スコーンにまずクロテッドクリームをたっぷりと塗り、その上にジャムをのせます。クロテッドクリームのミルキーなコクがスコーンに直接なじむため、スコーンのもそっとした食感がほどけやすくなります。甘さよりも乳脂肪のリッチな風味を楽しみたい方向けです。
🏴 コーンウォール式(ジャムファースト)
先にジャムを塗り、その上にクロテッドクリームをのせます。市販の有名ブランド「ロダス」もジャムファーストを公式に推奨しています。ジャムの甘酸っぱさが先に口に広がり、後からクリームのコクが追いかけてくるため、甘みとのバランスを楽しみたい方に向いています。
どちらが「正しい」という正解はありません。本場でも派閥に分かれて議論されているくらいです。まずは両方試してみて、好みの食べ方を見つけるのが一番の楽しみ方です。
手作りしたクロテッドクリームを初めて食べるときは、スコーンにたっぷりのせて紅茶と一緒に楽しむのがおすすめです。市販のイングリッシュマフィンやトースト、クラッカーに合わせるだけでも十分に本格的なアフタヌーンティー気分が味わえます。
参考:スコーンとジャムの塗る順番の歴史的背景に興味がある方はこちらも参考になります。
My Happy London Home「イギリスのスコーン論争:ジャムが先?それともクリーム?」