市販のシュトーレンを買うより手作りの方が材料費が3倍以上かかることがあります。
「マジパン」という名前を聞くと、多くの人はケーキの上に乗ったカラフルな飾り細工を思い浮かべるかもしれません。確かにそれもマジパンですが、シュトーレンに使われているものは別の種類です。
マジパンの基本的な構成材料は、アーモンドと砂糖のたった2つです。これを練り合わせてペースト状にしたものが「マジパン」で、中東やヨーロッパでは数百年前から親しまれてきた伝統的なお菓子です。
つまりマジパンはパンではありません。
名前に「パン」が入っているせいか、パン生地の一種だと思っている方が意外と多いのですが、れっきとした「お菓子(コンフェクション)」に分類されます。その起源は中東から欧州に渡ったとされ、現在ではドイツやスカンジナビア諸国での消費が特に多い伝統菓子です。
日本洋菓子協会連合会によると、マジパンとは「挽いたアーモンド、砂糖、卵白で作ったペースト状のもの」と定義されています。焼き菓子の材料に用いられるほか、可塑性(形を変えやすい性質)があるため野菜や果物を本物そっくりに形作ったりすることにも使われます。
一般社団法人日本洋菓子協会連合会によるマジパンの定義はこちら
マジパンには大きく分けて2種類あります。この違いを知っておくことで、シュトーレン選びや手作りの際にとても役立ちます。
まず、ケーキのデコレーション用マジパン(マジパン・ペースト)は、アーモンドと砂糖の比率が1:1です。砂糖の割合が多いため、柔らかくしなやかで、食用色素で色をつけてキャラクターや花の形に成形するのに向いています。ウェディングケーキの人形や、クリスマスのデコレーションなどに使われるのがこのタイプです。
一方、シュトーレンに使われるのはマジパン・ローマッセ(ローマジパン)と呼ばれるもので、アーモンドと砂糖の比率が2:1です。アーモンドの割合が倍あるため、油脂分と風味が豊かで、芳醇な味わいが特徴です。これを焼き菓子やシュトーレンの生地に練り込んだり、棒状にして包み込んだりすることで、仕上がりに深みが出ます。
2種類ある、ということが基本です。
特に注目したいのは、ローマッセのアーモンドに含まれる油脂分です。この油脂分が生地の水分と混ざり合い、焼き上がり後も生地内部の乾燥を防ぐ「天然の保湿剤」として機能します。一般的な食パンは焼いた翌日には乾いてきますが、マジパン入りシュトーレンが何週間も美味しさを保てる理由のひとつは、まさにこのマジパンの働きにあります。
富澤商店の洋菓子講師によるマジパン2種類の詳しい比較・解説はこちら
「マジパンシュトーレン」を名乗るためには、ただマジパンを入れれば良いというわけではありません。これは意外と知られていない事実です。
本場ドイツでは、シュトーレンの種類と品質についてガイドラインが設けられており、「マジパンシュトーレン」と称するには生地重量の5%以上のマジパンを使用することが規定されています。たとえば500gのシュトーレンなら25g以上のマジパンが必要ということです。ちなみに「マジパンシュトーレン」においてはマジパンに含まれるアーモンドが生地の30%以上でなければならないとされています。
ガイドライン違反の製品は、「マジパンシュトーレン」として販売できません。
ドイツでシュトーレンは全部で6種類に分類されており、「マジパンシュトーレン」「アーモンドシュトーレン」「ケシの実シュトーレン」「ナッツシュトーレン」「バターシュトーレン」「カードシュトーレン」があります。このうち最もリッチで贈り物として喜ばれるのが、マジパンをたっぷり使ったマジパンシュトーレンです。
また、ドイツのリューベックという都市はマジパンの本場として有名で、「リューベック・マジパン」はEUの原産地保護制度(保護地理的表示)に登録されています。日本農林水産省の資料にも記載があるほどで、伝統と品質の高さが国際的に認められています。
農林水産省によるリューベック・マジパンのEU地理的表示登録情報はこちら
「マジパンがなければシュトーレンじゃないの?」と疑問に思う方もいるでしょう。実はマジパンなしのシュトーレンも存在しますが、入れることには明確な理由があります。
理由①:生地がしっとりする
マジパンに含まれる水分と油脂分は、焼成中に生地全体へと少しずつ移行します。これによってシュトーレン特有のしっとりとした食感が生まれます。カットした断面で白あんのような層が見えるのが、マジパンを「包み込んだ」タイプ。もう一方は生地に練り込んで均一に仕上げるタイプです。どちらも熟成とともに生地が潤っていきます。
理由②:アーモンドの風味が加わる
マジパンに使うアーモンドは独特の杏仁香(あんにんこう)をもっています。アマレットやビターアーモンドに近いこの香りが、シュトーレン全体の風味を格上げします。スパイスやドライフルーツとも相性が良く、食べるたびにふわっと広がる香りが楽しめます。
理由③:熟成によってコクが増す
シュトーレンはクリスマスまでの4週間かけて少しずつ食べるのが本場ドイツの習慣です。時間が経つにつれて、マジパンの成分が生地になじみ、コクが深まります。これは時間をかけて熟成したチーズや味噌と同じ原理で、「今日食べるより明日の方が美味しい」という楽しみ方ができます。
コクの変化を楽しめるのが醍醐味です。
こうした理由から、マジパンはシュトーレンの味を大きく左右する重要な材料とされています。マジパンなしのシュトーレンはアーモンドの風味が感じにくくなり、日持ち面でも若干の変化が生じます。
「マジパンを手作りするなんて難しそう…」と思っている方は多いですが、実はとてもシンプルです。材料を混ぜてこねるだけで完成します。
材料(シュトーレン1本分のマジパン約100g分の目安)は以下の3つです。
| 材料 | 分量の目安 |
|---|---|
| アーモンドプードル(皮なし) | 80g |
| 粉砂糖 | 40g |
| 卵白(または牛乳) | 少量(適宜) |
手順はとても簡単で、アーモンドプードルをオーブンで160℃・10〜15分ほどローストして冷ましたあと、粉砂糖と合わせ、卵白または牛乳を少しずつ加えながらよく練ります。手にくっつかず、まとまる硬さになったらOKです。仕上がったらすぐにラップでしっかり包み、冷蔵庫で冷やします。
アーモンドプードルは市販の専用品を使えば十分です。
手作りマジパンの場合は、市販品と比べてアーモンドの粒子感がやや残りますが、その素朴な風味が「食べやすい・親しみやすい」と感じる方も多いです。ヨーロッパのお菓子が苦手なお子さんやご家族にも、手作りの方がマイルドで食べやすいというケースもあります。
一方、本格的なしっとり感や杏仁香のある仕上がりを求めるなら、製菓材料店で販売している市販のマジパン・ローマッセがおすすめです。ドイツの老舗メーカー「リューベッカ社」のものは、ローラーで細かく圧砕されているため粒子が非常に滑らかで、シュトーレンの生地にも均一に馴染みます。富澤商店などの製菓材料店やオンラインショップで購入できます。
富澤商店のマジパン・ローマッセ(リューベッカ社製)の詳細・購入はこちら
なお、マジパンはアーモンドが主原料なので、アーモンドを含むナッツアレルギーがある方は摂取に注意が必要です。市販のシュトーレンをプレゼントする際にも、アレルギーの確認をしてから贈るのが安心です。これは知っておくべき大切なポイントです。
せっかくのマジパン入りシュトーレン、正しい食べ方と保存を知っておくと何倍も美味しく楽しめます。ここでは実践的なポイントをまとめます。
食べるタイミングについて
焼きたてよりも、2〜3日後から食べるのがおすすめです。マジパンの油脂分と水分が生地全体に浸透するまでに少し時間がかかるため、作りたての時より数日後のほうがしっとり感が増します。ドイツでは11月下旬ごろからクリスマスまでの4週間を「アドベント(待降節)」と呼び、毎日薄くスライスして少しずつ食べ進めるのが伝統的なスタイルです。
切り方のコツ
シュトーレンは最初に中央で2つに切り、その切り口から内側に向かってスライスする「中割り法」が推奨されています。こうすることで、毎回切った後に2つの断面をくっつけてラップで包め、乾燥を防ぐことができます。厚さ1cm程度が標準的なスライスの目安です。
保存方法の基本
未開封の市販品なら、涼しい場所(常温)で約60日間保存可能なものも多くあります。ラップでぴったりと包んだあと、ジッパー付き袋か密閉容器に入れて冷蔵庫の野菜室に入れると、カットしたものは約2週間、未カットなら3〜4週間美味しく保てます。
冷蔵保存が基本です。
食べる直前に常温に30分ほど戻すと、バターとマジパンの香りが立ちやすくなり、よりリッチな風味を楽しめます。薄くスライスしてコーヒーや紅茶、ほうじ茶と合わせると、口の中でマジパンの甘さとドライフルーツの酸味が調和して格別の一口になります。
手作りシュトーレンの日持ちについて
市販品と比べると手作りの場合は使うバターの量や製法にもよりますが、バターをたっぷり使った本格タイプであれば冷蔵で2〜3週間程度は美味しく食べられます。マジパンを練り込んだタイプほどしっとり感が持続しやすく、日が経つにつれて味が深まるのを楽しめます。
管理栄養士監修によるシュトーレンの賞味期限・保存方法の詳しい解説はこちら