ソルラクト輸液を3日間投与し続けても、摂取カロリーはゼロのままです。
ソルラクト輸液(一般名:乳酸リンゲル液)は、細胞外液補充を主な目的として設計された等張電解質輸液です。成分は塩化ナトリウム・塩化カリウム・塩化カルシウム水和物・L-乳酸ナトリウム液の4種のみで構成されており、糖質(ブドウ糖など)をまったく含みません。そのため、500mL・1,000mL、どのサイズを見ても熱量(カロリー)は0kcalです。
これは基本中の基本ですね。
現場でときどき見られる誤解として「透明な輸液にはカロリーがある」という思い込みがあります。しかし輸液の外観は栄養の有無を示しません。ソルラクト輸液は電解質濃度が体液に近く設計された「細胞外液補充液」であって、エネルギー源としての役割は担っていないのです。
浸透圧比は生理食塩液に対して約0.9とほぼ等張で、pHは6.0〜7.5の範囲に調整されています。電解質組成を整理すると以下のようになります。
| 電解質成分 | 500mL中の含量 |
|---|---|
| Na⁺ | 65.5mEq |
| K⁺ | 2mEq |
| Ca²⁺ | 1.5mEq |
| Cl⁻ | 55mEq |
| L-Lactate⁻ | 14mEq |
| 熱量 | 0kcal |
L-乳酸ナトリウムは体内に入ると肝臓を中心に代謝を受け、重炭酸イオン(HCO₃⁻)に変換されます。この反応によって代謝性アシドーシスを補正する働きを持つのが、ソルラクト輸液が「ただの生理食塩水では不十分」な場面で選ばれる理由です。つまり、ソルラクト輸液のL-乳酸ナトリウムは「栄養」ではなく「pH調整・アシドーシス補正の担い手」であると理解してください。
なお、浸透圧比が約0.9とわずかに低張である点も見逃せません。生理食塩水よりわずかに低い浸透圧は、過剰なナトリウム負荷を避ける観点では有利に働きますが、同時に低張液による電解質変動リスクにも注意が必要です。
電解質補充が目的であるという点が原則です。
参考:ソルラクト輸液添付文書(テルモ株式会社)ー成分・組成・効能効果の詳細
ソルラクト輸液とソルラクトD輸液は名前がよく似ていますが、カロリーの面では大きな差があります。両者を比較した際に最も重要な違いは「ブドウ糖の有無」です。
| 製剤名 | ブドウ糖含量(500mL中) | 熱量(500mL) | 浸透圧比 |
|---|---|---|---|
| ソルラクト輸液 | なし | 0kcal | 約0.9 |
| ソルラクトD輸液 | 25.0g | 100kcal | 約2 |
ソルラクトD輸液はブドウ糖を25g(500mL製剤)含有しており、ブドウ糖由来の熱量として100kcalを提供できます。250mL製剤では12.5gのブドウ糖で50kcalです。電解質組成はソルラクト輸液とほぼ同じですが、ブドウ糖の追加により浸透圧比が約2まで上昇しているため、投与速度の管理に注意が必要です。
これは使えそうです。
ソルラクトD輸液の効能効果には「エネルギーの補給」が追加されており、添付文書の用量・用法には「投与速度は通常成人ブドウ糖として1時間当たり0.5g/kg体重以下とする」と明記されています。体重50kgの患者であれば1時間あたり最大25gまで、すなわち500mL製剤をおよそ1時間以上かけて投与する計算になります。
一方でソルラクト輸液の投与速度は「1時間あたり300〜500mL」と規定されており、速度管理の基準そのものが異なります。同じ「ソルラクト系」でも、ブドウ糖の有無によって代謝的な考慮点が変わってくるということです。
糖尿病患者へのソルラクトD輸液の投与には、「血糖値が上昇することにより症状が悪化するおそれがある」と警告されており、慎重な血糖モニタリングが不可欠です。ソルラクト輸液であれば糖質ゼロであるため、この問題は生じません。糖尿病患者の術中・術後管理でソルラクト輸液が選ばれやすい背景の一つがここにあります。
製剤名の「D」の有無が大きな分かれ目です。
参考:ケアネット 医療用医薬品データベース — ソルラクトD輸液の組成・効能効果
KEGG医薬品情報 ソルラクトD輸液(500mL)詳細ページ
「点滴をしているから栄養が摂れている」という患者・家族の誤解は根強く、医療従事者側も漫然とした継続投与に陥りやすい落とし穴があります。実際のカロリー収支を把握しておくことは、栄養管理の視点から非常に重要です。
ソルラクト輸液はカロリーゼロです。
仮にソルラクトD輸液を選択し、1日3本(500mL×3本=1,500mL)を投与したとしても、得られるカロリーは300kcalに過ぎません。成人が安静時に必要とするエネルギー量は最低でも1,400〜1,600kcal/日程度とされており、それに対して輸液で補えるのは約300kcal──これはコンビニおにぎり1〜2個分程度のエネルギーにしか相当しません。
この現実は痛いですね。
入院患者が経口摂取できない状態で末梢輸液のみを続けていると、急速に低栄養が進行します。骨格筋のタンパク質が異化に回され、筋肉量が減少するいわゆるサルコペニアが加速します。特に高齢者や元々の栄養状態が不良な患者では、入院後わずか数日で嚥下機能や身体機能に影響が出ることがあります。この状態は「医原性サルコペニア」とも呼ばれます。
2g/kg/日の糖質投与によって「糖新生を抑制し筋肉の分解を緩和する効果(protein-sparing効果)」が期待できるとされています。体重50kgの患者では100gの糖質、カロリーに換算すると約400kcalです。ソルラクトD輸液(500mL×4本)を使っても4本分で100kcal×4=400kcalですが、それでも1日必要量の25〜30%程度にとどまります。
対策として必要な栄養を届けるには、ビーフリード®(アミノ酸+糖質含有末梢静脈栄養輸液)を導入し、500mL1本で約210kcalを確保するか、より積極的な介入が必要な場合は中心静脈栄養(TPN)へ移行する選択肢を検討する段階かを判断します。
経口摂取を何割とれているかが判断の基本です。
摂取量の目安として「食事を7割以上摂れていれば輸液は不要、3〜6割なら1本追加、1〜2割なら2本追加」という目安が現場では広く共有されています。栄養管理の方針を早期に栄養科や管理栄養士と連携して立てることが、患者の早期回復につながります。
参考:市立奈良病院・森川暢医師「一歩進んだ輸液の考え方」— 絶飲食時の栄養とエネルギー管理
金芳堂コラム「第10回 一歩進んだ輸液の考え方」(森川暢, 市立奈良病院)
ソルラクト輸液が細胞外液補充の第一選択として評価される理由の一つが、L-乳酸ナトリウムによるアシドーシス補正効果です。しかしこの「長所」が特定の患者群では「リスク」に転化することを、必ず頭に入れておく必要があります。
L-乳酸ナトリウムは主として肝臓で代謝されます。
具体的なメカニズムとしては、L-乳酸ナトリウムが肝細胞内でピルビン酸を経てエネルギー代謝に組み込まれ、最終的に重炭酸イオン(HCO₃⁻)を産生します。この反応によって血液のpHが上昇し、代謝性アシドーシスが補正されます。生理食塩水を大量投与した際に生じる「高クロール性代謝性アシドーシス」を予防できる点で、ソルラクト輸液(乳酸リンゲル液)は急速輸液の場面でも広く使用されています。
ところが、重篤な肝障害がある患者では、この代謝ルートが機能不全に陥ります。肝臓でのL-乳酸代謝が滞ると、血中乳酸濃度が上昇し、むしろ乳酸アシドーシスを悪化させる方向に働くことがあります。pH低下と乳酸蓄積の悪循環は、腎不全・循環不全が重なるとさらに加速します。
このリスクがある場合は酢酸リンゲル液(フィジオ140®など)が代替選択肢になります。酢酸は肝臓だけでなく骨格筋でも代謝されるため、肝機能低下時にも比較的安全に使用できます。「乳酸で代謝できないなら酢酸で」という切り替えの判断基準を知っておくことは現場で直結する知識です。
同様に、高カリウム血症の患者や高カルシウム血症の患者にも注意が必要です。ソルラクト輸液はK⁺を2mEq/500mL、Ca²⁺を1.5mEq/500mL含んでいるため、これらが蓄積しやすい状態では悪化リスクがあります。心肺停止時のような急性高カリウム血症が疑われる場面では、カリウムを含まない生理食塩水を優先する判断が推奨されます。
乳酸リンゲルの使用が禁忌または慎重投与となる代表的な状況をまとめると以下の通りです。
乳酸リンゲルの選択肢は状況次第で変わります。
参考:レバウェル看護 Q&A — リンゲル液の種類と使い分け(乳酸リンゲルと酢酸リンゲルの違い)
周術期の輸液設計において、「カロリー補充」と「循環血液量の確保」は根本的に目的が異なります。ソルラクト輸液はあくまで循環血液量の補充・維持を担う製剤であり、栄養補充ラインとは切り離して考えることが設計の起点になります。
これが原則です。
術前に維持輸液(ソルデム3Aなど)からソルラクト輸液に切り替える指示が出ることがあります。その理由は、術中には出血・サードスペースへの体液移行・麻酔による血管拡張などにより循環血漿量が急速に低下するリスクがあるためです。ソルラクト輸液のような細胞外液補充液は、投与量の約25%が血管内に、残りの約75%が組織間液側に移行します。この分布特性から「細胞外」を満たす輸液として位置づけられます。
一方でカロリーゼロという特性は、術前・術後の絶飲食管理においてはデメリットとなり得ます。特に術後に経口摂取が進まない時期が長引いた場合、ソルラクト輸液のみを継続しているとエネルギー供給がまったく行われない状態が続くことになります。
ここで近年注目されているのが「目標指向型輸液療法(Goal-Directed Therapy:GDT)」という考え方です。これは従来の体重ベースで一律に投与量を決める方式から脱し、心拍出量や1回拍出量の変動(SVV:Stroke Volume Variation)などをリアルタイムでモニタリングしながら、必要なタイミングで必要量を投与する方法です。過剰輸液による縫合不全・消化管蠕動の遅延・呼吸不全のリスクを最小化できるとされており、術後の早期回復(ERAS:Enhanced Recovery After Surgery)プロトコルとも親和性が高い考え方です。
ERAS導入が広がるなか、輸液量を「少なく適切に」管理する方向へのシフトが進んでいます。これはソルラクト輸液の使い方においても「術中の循環管理」に集中させ、栄養は別ラインの経腸・静脈栄養で補完するという役割の明確化につながります。役割を整理すると以下のようになります。
| 目的 | 適した輸液 | カロリー供給 |
|---|---|---|
| 循環血液量の補充・維持 | ソルラクト輸液(乳酸リンゲル) | 0kcal |
| エネルギー+電解質補充 | ソルラクトD輸液 | 100kcal/500mL |
| アミノ酸+エネルギー補充(PPN) | ビーフリード®など | 210kcal/500mL |
| 本格的な栄養補充(TPN) | 高カロリー輸液製剤 | 1,000〜2,000kcal/日 |
この視点を持つことで、「とりあえずソルラクト継続」という漫然とした輸液オーダーから脱却し、患者ごとの栄養必要量と循環維持の両軸から輸液設計を見直すきっかけになります。輸液の「目的」を常に意識した処方がチーム医療における質向上にも直結します。
参考:国際親善総合病院 栄養サポートチームだより — 点滴とカロリーの関係
国際親善総合病院「点滴とカロリー」(栄養サポートチームNSTだより, 2018年)