市販の醤油より塩分が少ないのに、実はたまり醤油は食塩を普通醤油の約1.5倍使って仕込まれています。
たまり醤油は、大豆をほぼ100%使って仕込む「大豆中心型」の醤油です。一般的な濃口醤油が大豆と小麦をほぼ同量配合するのに対し、たまり醤油は小麦をほとんど使いません。そのため色が濃く、独特のとろみと深いうまみが生まれます。
産地は愛知・岐阜・三重の東海3県が中心で、全国シェアの約80%をこの地域が担っています。地域の食文化に深く根ざした調味料ということですね。
自宅で作る最大のメリットは「原材料の把握」ができることです。市販品には添加物が含まれる場合がありますが、手作りなら大豆・塩・麹のみで仕上げられます。食の安全を意識する主婦にとって、これは使えそうです。
また、自宅で仕込んだたまり醤油は、市販品(一般的に200〜300ml/500〜800円)と比べ、同量を原価換算すると材料費だけなら半額以下に抑えられるケースもあります。長期的にはコスト面でもメリットがあります。
| 項目 | たまり醤油 | 濃口醤油(普通醤油) |
|---|---|---|
| 主原料 | 大豆(ほぼ100%) | 大豆+小麦(約50:50) |
| 色・とろみ | 濃褐色・とろりとした質感 | 赤褐色・さらっとした質感 |
| うまみ成分 | グルタミン酸が多く濃厚 | バランス型のうまみ |
| 主な産地 | 愛知・岐阜・三重 | 全国各地 |
| 主な用途 | 刺身・照り焼き・佃煮 | 全般的な料理 |
材料はシンプルです。基本の配合は「大豆1kg・塩350〜400g・醤油麹(または米麹)適量」が目安とされています。
大豆は国産の非遺伝子組み換えのものが品質面で安心です。スーパーの製菓コーナーや通販で「煮大豆用」として500g〜1kg単位で購入できます。塩は粗塩(自然塩)が推奨されることが多く、精製塩よりもミネラルが含まれているため発酵が安定しやすいと言われています。
麹は「醤油用麹(種麹)」が理想的ですが、入手が難しい場合は米麹(生麹または乾燥麹)で代用可能です。生麹は鮮度が重要なため、仕込みの直前に購入するのが原則です。
道具は以下を揃えておくとスムーズです。
これだけ揃えれば大丈夫です。特別な設備は不要で、一般的な家庭のキッチンで対応できます。
手順を5工程に分けて解説します。各工程の目的を理解すると、失敗を防ぎやすくなります。
【工程1】大豆を煮る
乾燥大豆を使う場合は、一晩(約12時間)水に浸けてから、柔らかくなるまで2〜3時間煮ます。指で軽く押してつぶれる程度が目安です。煮すぎると発酵に影響するので注意が必要です。煮豆がすでに入手済みなら、この工程はスキップできます。時短したい場合は煮大豆の活用が条件です。
【工程2】大豆と塩・麹を混ぜる
煮上がった大豆が温かいうちに(40℃以下になったら)、塩と麹を加えてよく混ぜます。熱すぎると麹菌が死滅するため、必ず粗熱をとってから混ぜてください。全体がまんべんなく混ざればOKです。
【工程3】容器に詰める
消毒済みの容器に混ぜた材料を詰め、空気が入らないようにしっかり押し込みます。表面を平らにしたら、塩を薄くひとつかみ振ってカビ防止の「蓋」を作ります。これが重要な工程です。
【工程4】重石をのせて密封する
表面にラップを密着させ、その上から重石をのせます。重さの目安は仕込んだ材料と同程度(約1〜1.5kg)が一般的です。フタをして冷暗所に置きます。直射日光と高温多湿は避けましょう。
【工程5】熟成・天地返し
仕込んでから1〜2か月後に「天地返し」(上下をひっくり返すように全体を混ぜる作業)を1〜2回行います。これにより発酵が均一に進みます。最短3か月で液体(たまり)が分離し始め、半年〜1年で風味が整います。
熟成期間は3か月〜1年が目安です。短熟成(3〜6か月)は色が薄く香りが軽め、長熟成(1年以上)は色が濃く濃厚な味わいになります。用途に合わせて絞り出すタイミングを決めてください。
最もよくある失敗はカビです。ただし、すべてのカビが即失敗というわけではありません。表面の白いカビ(産膜酵母)はきれいに取り除けば継続できる場合が多く、青・黒・ピンク系のカビは深部に浸透していなければ表面のみ除去して様子を見ます。深部まで侵食していた場合は廃棄を検討してください。
カビを防ぐための具体的な対策は3点です。
また、発酵中に液体(たまり)が分離してくると成功のサインです。これはうれしいことですね。表面に薄くたまった液体が、完成したたまり醤油のもとになります。
発酵が進むにつれて容器の外側が汚れることもあります。月に1回程度、外側を拭いて清潔を保つのが基本です。
熟成が進み、たまりの量が増えてきたら絞りの工程に入ります。一般家庭では、清潔な布(さらし布や綿素材の袋)に仕込んだ材料を入れ、ゆっくりと絞ります。力まかせに絞ると雑味が出るため、重力に任せてじっくり落とすのがポイントです。
絞った直後のたまり醤油は、弱火で5〜10分加熱(火入れ)してから保存するのが一般的です。この「火入れ」により、発酵を止めて保存性を高めることができます。火入れが条件です。
保存は遮光性のある瓶またはペットボトルに移して冷蔵保存が基本で、開封後は3〜6か月以内を目安に使い切りましょう。
料理への活用例は以下のとおりです。
余ったもろみ(絞り粕)は捨てずに活用できます。刻んで野菜と和えると即席漬けになり、味噌代わりに炒め物のコク出しにも使えます。これは無駄ゼロで助かります。
参考:たまり醤油の産地・特性についての基礎情報は農林水産省の醤油分類に関するデータが参考になります。
農林水産省:しょうゆのJAS規格(PDF)−醤油の種類・品質基準の公式資料
手作り醤油や発酵食品の仕込みに興味が出てきた場合、「手前みそ・醤油の会」のようなコミュニティやワークショップが全国各地で開催されています。同じ手作りを楽しむ仲間と情報交換できる場として検討してみると、続けやすくなります。