あなたが「ロシア料理」だと思って作ってきたボルシチは、実はウクライナ発祥の料理です。
ウクライナ料理とロシア料理の違いを正確に理解するには、まず両国の歴史的な背景を知っておく必要があります。ウクライナの首都キーウ(キエフ)は、9世紀後半に成立した「キエフ大公国」の中心地でした。このキエフ大公国こそがロシア文化の源流であり、多くの食文化もここから各地に広がっていったとされています。
つまり、「ウクライナ料理がロシア料理のルーツ」とも言えるほど、両者の関係は深いのです。
その後、ウクライナは歴史の流れの中でロシア帝国やソ連に組み込まれる時代を経験しました。約350年にわたって同じ国の枠組みに入っていた時期があり、ソ連時代には「ソ連料理」として統一的に紹介されたことで、ウクライナ発祥の料理がロシア料理として世界に広まっていきました。これが「ボルシチ=ロシア料理」という誤解が生まれた最大の原因です。
一方で、地理的にもロシアは北方に位置しており、気候・土壌・手に入る食材が異なります。ウクライナは「ヨーロッパのパンかご」とも呼ばれるほど農業が盛んな肥沃な大地で、小麦・ビーツ・ひまわり油・豚肉といった食材が豊富です。ロシア北部はライ麦や根菜が中心で、厳しい冬を乗り越えるためのシンプルで保存性の高い料理が発展しました。こうした環境の違いが、両国の料理の個性を生んでいます。
| 項目 | ウクライナ料理 | ロシア料理 |
|---|---|---|
| 食文化の源 | キエフ大公国(9世紀〜) | キエフ大公国から派生 |
| 主なパン | 白パン(小麦) | 黒パン(ライ麦) |
| 主な油脂 | サーロ(豚の脂身)・ひまわり油 | バター・サワークリーム |
| 野菜の使い方 | 多種類の新鮮野菜・香辛料を多用 | シンプル・保存野菜も多用 |
ウクライナ料理とロシア料理の違いを語るうえで、ボルシチの話は避けて通れません。日本でも「ロシア料理の代名詞」として定着しているボルシチですが、実はウクライナが発祥の地です。ロシア食文化研究家ポフリョプキンが書いた『料理大百科事典』(2003年刊)でも、ボルシチはウクライナ料理に分類されています。多くのロシア人自身も「ボルシチの本家はウクライナ」と認めているのが実情です。
「ボルシチ」という言葉の語源は、ウクライナ語の「ボルシュチウニーク(ハナウドという草の名前)」に由来しています。もともとはビーツではなく、このハナウドという植物を使ったスープのことをボルシチと呼んでいたのです。意外ですね。
ではロシアのボルシチとウクライナのボルシチ、具体的にどこが違うのでしょうか?
主な違いは以下の4つです。
特に「パンプーシュカ」はウクライナのボルシチにしか見られない独自の文化で、ロシアでは一般的ではありません。これが基本です。
在ウクライナ日本国大使館の食事エピソードにも「ウクライナ・ボルシチに欠かせないのが、パンプーシュカと呼ばれるふかふかのパンにニンニクを刻んだオイルをかけたもの。パンプーシュカはロシアでは見あたりません」と紹介されています。
在ウクライナ日本国大使館:ウクライナの食事文化エピソード集(ボルシチ・ワレニキなど詳細あり)
また、ウクライナ版のボルシチにはサーロ(豚の脂身の塩漬け)をバター代わりに使う点も大きな特徴です。サーロはウクライナの食文化を語るうえで欠かせない食材であり、ロシアではあまり使われません。日本のバターのように食卓に欠かせない存在として使われています。
水餃子に似た料理として、ウクライナには「ワレニキ(ヴァレーニキ)」、ロシアには「ペリメニ」があります。どちらも薄い小麦粉の皮で具を包んで茹でた料理ですが、両者は見た目は似ていても、実はかなり異なる食べ物です。
まず具の種類が大きく違います。ロシアのペリメニは基本的に「お肉(牛・豚・鶏など)」のみを包んだ塩気のある料理です。一方、ウクライナのワレニキは驚くほど多様で、ジャガイモ・キャベツ・チーズ・サワークリーム・サクランボ・ジャムなども具材として使われます。甘い具を入れてデザートとして食べることもあり、前菜からメインディッシュ、そしてデザートにまで登場するのがワレニキの面白いところです。
つまり、ペリメニは「惣菜系の餃子」、ワレニキは「料理全般に登場する万能包み料理」ということですね。
特に「サクランボ入りのワレニキにサワークリームをたっぷりかけたデザートワレニキ」は、日本人の間でも大変人気が高いと在ウクライナ日本国大使館でも紹介されています。日本の感覚では餃子にフルーツを入れるのは想像しにくいですが、ウクライナでは古くから愛されてきた伝統の食べ方です。
食べ方の違いもあります。ペリメニは茹でた後にサワークリームやバターをかけてシンプルに食べることが多いですが、ワレニキは具材の種類に応じて、甘いソースをかけたり、スメタナ(サワークリーム)を添えたりと様々な食べ方が楽しめます。
もし近くのスーパーやオンラインで「ワレニキ」を見かけたら、デザート感覚でサクランボ入りを試してみてください。これは使えそうです。
ウクライナ料理にはボルシチやワレニキのほかにも、ロシア料理にはない独自の名物料理があります。その代表格が「キエフ風カツレツ(チキン・キエフ)」です。鶏のささみにたっぷりのバターを包み込み、パン粉をつけて油で揚げたカツレツで、ナイフを入れた瞬間に溶けたバターがじわりとあふれ出てくることで有名です。
このキエフ風カツレツはウクライナのキーウ(キエフ)発祥の料理で、現在では世界中のレストランでも提供されているほどの知名度を誇ります。食べるときはバターが飛び出すことがあるので、衣服への注意が必要なほどです。
そのほかにウクライナ独自の代表的な料理をご紹介します。
一方、ロシアにしかない料理として知られているのが「ピロシキ」(具材入りの惣菜パン)や「シチー」(キャベツのスープ)、「ブリヌイ」(ロシア風パンケーキ)、「ビーフストロガノフ」などです。
実はロシアの家庭料理で最も伝統的なのはボルシチではなく、「シチー(キャベツスープ)」だと東京外国語大学大学院・沼野恭子教授は述べています。シチーは古くからロシア北部で愛されてきた料理で、ビーツを使わないためボルシチとは別物の、あっさりとした白いキャベツスープです。
イミダス(集英社):東京外国語大学・沼野恭子教授によるボルシチとロシア・ウクライナ食文化の解説記事
ウクライナ料理とロシア料理の違いを知ったところで、実際に日本の家庭でどう活かせるかを考えてみましょう。
最も手軽に挑戦できるのは、本場ウクライナ式のボルシチです。日本のスーパーで手に入る食材でも十分に作れます。ポイントは3つあります。まずブイヨンを豚肉(スペアリブや豚バラ)ベースにすること、次にキャベツは仕上げの直前に加えてシャキシャキ感を残すこと、そして最後に刻みニンニクをたっぷり加えることです。これだけで、よくある「ロシア式」のボルシチとはひと味違う、ウクライナらしい仕上がりになります。
ビーツの入手が難しい場合は、ネットショップや輸入食品店で缶詰のビーツが比較的手軽に購入できます。調理の手間も省けるのでおすすめです。これは使えそうです。
ワレニキにも挑戦したい方には、まずジャガイモ+チーズのシンプルな惣菜バージョンからスタートするのがおすすめです。中の具材を変えるだけで何通りもの食べ方ができるので、子どもと一緒に包む作業を楽しめるという点で家族向けレシピとしても優れています。
また、ウクライナ料理全体の特徴として「野菜を多く使い、スパイスを効かせる」という点があります。ロシア料理はシンプル・素朴な味わいが基本なのに対し、ウクライナ料理はディルやニンニク、パセリなどのハーブを多用する傾向があります。日本の家庭でも乾燥ディルをスープに少し加えるだけで、ウクライナらしい香りが楽しめます。乾燥ディルは100円ショップや業務スーパーでも購入できるので、ぜひ一度試してみてください。
最後に、現在日本国内にはウクライナ料理を提供するレストランも増えています。ウクライナ支援を目的として、売上の一部をウクライナへの人道支援に充てているお店もあります。外食で本場の味を体験してみてから、自宅でのアレンジに挑戦するという流れも、料理の幅を広げるよい方法です。
ロシア・ビヨンド(日本語版):ロシアのボルシチとウクライナのボルシチの具体的な違いを詳しく解説した記事
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