ベッコフは「フランス料理=手が届かない」という思い込みで、家庭から遠ざけてしまうと1,500円分のじゃがいもと肉が余り続けます。
ベッコフ(Baeckeoffe)は、フランス最東端のアルザス地方を代表する郷土料理です。アルザス語で「パン屋のかまど(Baker's Oven)」を意味し、牛肉・豚肉・子羊肉の3種類と、じゃがいも・にんじん・玉ねぎなどの野菜を白ワインでじっくりオーブン煮込みにした一品です。
同じアルザス料理の「シュークルート(酸っぱいキャベツの煮込み)」と比べると、日本での知名度はやや控えめかもしれません。しかし現地アルザスでは、シュークルートと並ぶ冬の「ハレの日料理」として今も大切にされています。意外ですね。
この料理の最大の特徴は、肉を前日から白ワインと香草でマリネし、翌日じっくりオーブンにかける「2日がかり」の調理法にあります。煮込み時間はおおよそ2〜3時間。現代の家庭でも、仕込みさえすれば「ほったらかし調理」が実現します。
| 名称(表記) | 意味 | 代表的な食材 |
|---|---|---|
| ベッコフ / ベックオフ / ベッケオッファ | パン屋のかまど | 牛・豚・子羊肉、じゃがいも、白ワイン |
ちなみに日本語での表記は「ベッコフ」「ベックオフ」「ベッケオッファ」など複数存在します。すべて同じ料理を指しています。つまり表記ブレは気にしなくて大丈夫です。
参考:ベッコフの詳細な食材・歴史についてはWikipedia日本語版にも記載があります。
ベッコフが生まれたのは19世紀中頃のアルザス農村です。その起源には諸説ありますが、もっとも広く知られるのが「洗濯日の料理」という由来です。
かつてアルザスでは、月曜日が主婦の洗濯日と決まっていました。ヨーロッパでは「ウォッシュ・マンデー(Wash Monday)」と呼ばれ、シーツや衣類を1日がかりで洗う大仕事でした。手洗い全盛の時代、それは朝から晩まで手が離せない重労働だったのです。
そこで主婦たちが考えた工夫が、ベッコフです。日曜の夜のうちに肉と野菜を白ワインで仕込んでおき、月曜の朝、村のパン屋に鍋ごと預けます。パン屋はパンを焼き終えた後の余熱が残るかまどにその鍋を入れておき、主婦たちが洗濯から帰るころにはちょうど煮込みあがっている、という段取りです。
時間と労力を効率よく使う、まさに主婦の知恵が生んだレシピですね。
この「月曜の洗濯日の料理」という呼び名は現代のアルザスでも語り継がれており、2022年にSNSで拡散されたアルザス在住者の投稿でも「洗濯日(Déjeuner lessive)のランチ」として紹介されています。
参考:ベッコフの歴史・由来についての詳しい解説記事
ベックオフ | 世界の地方料理 – bras-de-chef.com
ベッコフの正統レシピでは、牛肉・豚肉・子羊肉の3種類を必ず使います。これはただの食材の組み合わせではなく、宗教的な意味が込められています。牛肉はカトリック教を、豚肉はプロテスタント教を、子羊肉はユダヤ教を表すとされており、アルザス地方に根付いた多宗教の共存文化を象徴しているのです。
実はこの話は、多くの主婦向けレシピサイトでも省略されがちな背景知識です。知っているだけで食卓での会話が格段に豊かになります。これは使えそうです。
肉の部位は、煮込みに向いたコラーゲンが多い部位を選ぶのが基本です。各肉の具体的なおすすめ部位は以下の通りです。
3種類を揃えるのが難しい場合、豚肩と牛肩の2種類だけでも十分おいしく仕上がります。2種類なら問題ありません。
白ワインは、アルザス産のリースリングを使うのが伝統的なスタイルです。リースリングはドイツとフランス・アルザス地方が二大産地で、強い酸味とミネラル感が特徴の辛口白ワインです。煮込みに使うことで、肉の臭みを和らげながら旨みを引き出します。
「料理用ワインで代用できる?」という疑問を持つ方も多いですが、ベッコフに関しては飲んでもおいしいレベルの辛口白ワインを使うことが仕上がりの質に直結します。750mlのアルザス・リースリングがあれば、それをそのままマリネ液に使うのが最善です。
参考:アルザスワインの特徴とリースリングについての解説
ベッコフを家庭で作るのは、手順を知ればそれほど難しくありません。ポイントは「前日の仕込み」と「オーブンでのほったらかし調理」の2点だけです。
以下に、3〜4人分の基本的な流れをまとめます。
「オーブンがない」という場合は、鍋で沸騰させてから、ガスコンロで弱火・蓋をして2〜2.5時間の蒸し煮でも代用できます。結論は「蒸気を逃がさないこと」が条件です。
専用のスフレンハイム陶器鍋がなくても、ストウブやル・クルーゼのオーバル型ココット(27cm前後)が最適な代用品です。日本でも通販サイトでスフレンハイム焼きのベッコフ鍋は8,000〜11,000円程度で購入できますが、まずは手持ちの鍋で試してみるのが気軽でおすすめです。
参考:ル・クルーゼ公式サイトのベッコフレシピ(鍋の選び方も参照できます)
【ル・クルーゼ公式】ベッコフの作り方
伝統的なベッコフは3種の肉と固定の野菜が基本ですが、実はかなり自由度の高い料理です。「家にある食材でアレンジしやすい」という点が、現代の主婦にとって最大の利点といえます。
バリエーションとして現地アルザスのレストランでも提供されているのが、以下のような派生スタイルです。
日本で子羊(ラム)が手に入りにくい場合は、鶏もも肉や鴨肉で代用するのが現実的です。その場合、マリネ時間は12時間程度に短縮しても風味が損なわれにくくなります。
また、ベッコフは一度に大量に作れる点でも優れています。1回の仕込みで4〜8人分が作れるため、週末にまとめて作って翌日のランチに回せます。冷蔵保存なら2〜3日、冷凍なら1ヶ月程度保存可能です。これは時短にもなりますね。
食卓でベッコフを出す際は、フランスの伝統スタイルである「テリーヌ鍋ごとテーブルへ」が一番映えます。じゃがいもとじっくり煮えた肉を一緒によそうだけで、普通の家庭の食卓が一気にフランスのビストロ気分になります。アルザス産のリースリングをグラスに注いで添えれば、完璧なペアリングです。
ベッコフの栄養面でも注目ポイントがあります。調理中に肉から溶け出したコラーゲンが煮汁に加わり、じゃがいもや野菜のビタミンCと組み合わさることで、美容と健康によい一皿になります。さらにマリネ用の白ワイン(リースリング)に含まれるカリウムには利尿作用があり、むくみ対策としても注目されています。お腹も心も満たされる料理ですね。
参考:白ワインの健康効果と美肌効果についての詳細解説
白ワインの効能とは?おいしく飲んで健康になろう!