昆布を10分以上煮ると、だしがまずくなります。
昆布だしの取り方で最も手軽なのが「水出し」です。鍋もコンロも不要で、冷蔵庫に入れておくだけで翌朝には上品なだしが完成します。
水出しの基本的な手順は非常にシンプルです。昆布10g(だいたい10cm角1枚、ポストカードと同じくらいの大きさ)を水1リットルに入れ、冷蔵庫で8〜12時間おくだけです。夜寝る前にセットすれば、朝には料理に使えるだしが出来上がっています。
つまり、準備時間は1分以内です。
水出しの最大のメリットは「雑味が出にくい」点にあります。昆布に含まれるグルタミン酸は低温でもゆっくり溶け出します。高温で一気に加熱するよりも、時間をかけて水に溶かした方が、透き通った澄んだ旨味になると言われています。冷蔵保存なら3〜4日間使い回せるので、週に一度まとめて作るのが効率的です。
水出しには軟水が向いています。日本の水道水はほとんどが軟水なので問題ありませんが、ミネラルウォーターを使うときはラベルを確認してみてください。硬度100mg/L以下の軟水が、昆布の旨味を引き出しやすいとされています。
昆布を洗う必要はありません。表面の白い粉は「マンニトール」という旨味成分の結晶なので、ぬれた布巾で軽く拭く程度にとどめるのが正解です。
水出しの時間がないときは「煮出し」が便利です。20〜30分でだしを取れるので、今夜の夕食に使いたいときでも間に合います。
煮出しの手順はこうです。昆布10gを水1リットルに入れ、弱火にかけます。昆布がふっくらと膨らみ、気泡が底から細かく上がり始めたら火を止め、昆布を取り出します。この温度の目安は約60〜65℃で、鍋底から小さな泡がポツポツと出始める段階です。
沸騰させてはいけません。
なぜ沸騰がNGなのかというと、昆布に含まれる「アルギン酸」という多糖類が高温で溶け出し、だしが粘り気のある濁った液体になってしまうからです。さらに磯臭さも強くなります。60〜65℃を超えないよう、必ず弱火でじっくり温めましょう。
煮出しのあと、昆布を取り出し忘れる方も多いですが、これは要注意です。昆布を入れたまま火を通し続けると、えぐみと粘りが出てだしの品質が下がります。昆布が膨らんだタイミングで必ず取り出すのが鉄則です。
取り出した昆布は捨てずに活用できます。細切りにして佃煮にしたり、刻んで炒め物に加えたりと、二次利用が可能です。食物繊維やミネラルがまだ残っているので、フードロス削減の観点からも再利用をおすすめします。
昆布にはいくつかの種類があり、だしの風味が大きく異なります。用途に合わせた選び方を知っておくと、料理の完成度がぐっと上がります。
代表的な昆布の種類を以下にまとめました。
| 種類 | 産地 | だしの特徴 | 向いている料理 |
|---|---|---|---|
| 真昆布(まこんぶ) | 北海道・函館近郊 | 上品で甘みのある淡白な旨味 | 吸い物・茶碗蒸し |
| 羅臼昆布(らうすこんぶ) | 北海道・知床半島 | 濃厚でコクのある力強い旨味 | 煮物・鍋料理 |
| 利尻昆布(りしりこんぶ) | 北海道・利尻島 | 透明感があり塩分少なめ | 湯豆腐・精進料理 |
| 日高昆布(ひだかこんぶ) | 北海道・日高地方 | やや磯の風味・コスパ良 | 煮物・おでん |
これは使えそうです。
昆布の産地による違いは、海水の栄養成分や水温が旨味成分(グルタミン酸)の濃さに影響するためです。たとえば羅臼昆布は、他の産地に比べてグルタミン酸の含有量が特に高く、濃厚なだしが取れると言われています。高級料理店が羅臼昆布を指名買いするのはそのためです。
日高昆布は比較的安価で流通量も多く、スーパーで最もよく見かける種類です。だしとしてだけでなく、昆布自体を食べる「昆布の煮物」にも向いています。毎日の家庭料理には日高昆布から試してみるのが良い入門になります。
昆布を購入するときは、表面に白い粉がついていて、肉厚で黒褐色のものを選びましょう。白い粉は品質の証です。逆に薄くて色が薄いものは旨味が少ない可能性があります。
取っただしを正しく保存することで、美味しさと衛生状態を保てます。保存方法を間違えると、2日目には風味が落ちてしまいます。
まず冷蔵保存のルールから確認しましょう。取りたての昆布だしは粗熱を取り、密閉容器や清潔なボトルに入れて冷蔵庫へ。保存期間は3〜4日が目安です。製氷皿に入れて冷凍すると、1〜2週間保存でき、使いたい分だけキューブ状で取り出せます。1キューブ=約30mlに計算しておくと、レシピに合わせた使用量の把握が楽になります。
冷凍保存が便利です。
昆布だしは味噌汁だけでなく、様々な料理に活用できます。たとえば炊き込みご飯の水の代わりに使うと、ご飯全体に上品な旨味が加わります。パスタを茹でるお湯に少量加えると、和風パスタが格段においしくなるという使い方も人気です。昆布だしを加えることで化学調味料を減らせるため、減塩・無添加を意識している方にも向いています。
容器の選び方も重要です。プラスチック容器よりもガラス瓶の方が風味が移りにくく、においの吸着も少ないため、繰り返し使いやすいです。野田琺瑯や保存瓶(メイソンジャーなど)はだしの保存に人気があります。
だしがまだ余っているのに料理のアイデアが尽きたときは、製氷して冷凍保存に切り替えましょう。捨てるよりも冷凍の方が、旨味をそのままキープできます。
毎日料理をする中で「昆布だしを一から取る時間がない」という日もあります。そういった場面に対応する時短テクニックと代替手段を知っておくと、だしのある食生活が続けやすくなります。
まず紹介したいのが「昆布水の常備」です。水1リットルに昆布10gを入れたボトルを冷蔵庫に常備しておくだけで、いつでも昆布だしが使えます。水を使うたびに補充すれば、同じ昆布で2〜3回使い回せます。ただし昆布の旨味は段々と薄くなるので、2回目以降はだしとして使い、3回目は捨てるのが適切です。
次に「昆布だしパック」の活用です。ティーパック式の昆布だしパックは、お湯に入れるだけで3〜5分で旨味が出るため、煮出しよりもさらに簡単です。市販品では茅乃舎(かやのや)や七福醸造の「白だし」なども、昆布ベースのだしとして人気があります。忙しい平日のお守りとして一箱常備しておくのもひとつの選択肢です。
これは覚えておきたいですね。
また「昆布とかつおぶしの合わせだし」を作りたい場合は、まず昆布だしを取ってから、そこへかつおぶしを加えて60〜70℃で2分ほど浸すだけで完成します。このとき昆布のグルタミン酸とかつおのイノシン酸が組み合わさり、旨味が約7〜8倍に増幅されるという相乗効果(うま味の相乗効果)が生まれます。この発見は東京大学の池田菊苗博士が1908年に昆布からグルタミン酸を発見したことに始まる、日本独自の食文化の知恵です。
参考:日本うま味調味料協会による「うま味の相乗効果」解説
うま味の相乗効果について(日本うま味調味料協会)
最後に、電気ケトルや低温調理器を持っている方は、温度管理がしやすいため煮出しに活用できます。低温調理器で60℃・30分設定にすれば、雑味なく旨味だけを引き出した昆布だしが取れます。料理の精度を上げたい方には特におすすめの方法です。
参考:NHKガスト「だしのとり方」基礎知識(NHK出版)
NHK出版|和食のだし基礎知識