バクテーを「豚骨スープ」だと思って薄味で作ると、本場の風味が全く出ません。
バクテーは漢字で「肉骨茶」と書きます。読み方は福建語(ホッキエン語)に由来しており、「バク=肉」「テー=骨」「…」と思われがちですが、実は「テー=茶」を意味します。つまり「肉と骨のお茶」という意味の料理名です。
名前に「茶」が含まれていますが、スープの中にお茶は入っていません。
なぜ「茶」という字が使われているのかというと、この料理が労働者たちの朝食として提供されたとき、中国茶とともに食べる習慣があったためという説が有力です。19世紀末から20世紀初頭にかけて、シンガポールやマレーシアへ渡ってきた中国系移民(主に福建省出身の客家人)が、港での重労働に耐えるためのスタミナ食として考案したとされています。
骨付きの豚肉を大量の胡椒やにんにく、漢方薬材とともに長時間煮込んだスープは、疲れた体に染み渡る滋養強壮食でした。当時の港湾労働者たちは毎朝このスープを食べてから仕事に向かったと言われており、まさに「働く人のための料理」として根付いていったのです。
現在ではシンガポールを代表するソウルフードとして広く知られており、現地のホーカーズ(屋台街)から高級レストランまで、あらゆる場所で提供されています。意外ですね。
バクテーにはシンガポールスタイルとマレーシアスタイルという、大きく2つの系統があります。この違いを知らずに「バクテーはこういう味」と決めつけてしまうと、現地で食べたときに「思っていたのと違う」と戸惑うことになります。
シンガポールスタイルの特徴は、白濁した胡椒ベースのスープです。
胡椒の量が非常に多く、スープ全体に強いピリ辛感があります。具材は骨付き豚肉(スペアリブ)が中心で、シンプルながらもパンチのある味わいです。にんにくを大量に使うことで深いコクが生まれており、白いご飯やフライドパン(ユーティアオ)と一緒に食べるのが定番スタイルとなっています。
一方、マレーシアスタイル(特にクアラルンプールのクラン地方が発祥)は、八角・桂皮・丁子・陳皮などの漢方薬材を豊富に使った、濃いブラウン色のスープが特徴です。薬膳色が強く、漢方の香りがしっかりと感じられます。スープの色が黒っぽいため、初めて見る人は「これがバクテー?」と驚くことも多いです。
つまり、同じバクテーでも全く異なる料理と言えるほど違います。
日本で「バクテーの素」として市販されているものの多くは、シンガポール系とマレーシア系が混在しています。購入前にパッケージの説明をよく確認することで、自分好みの味を選べるようになります。
バクテーに使われるスパイスは、単なる風味づけではありません。漢方医学的な観点から選ばれた素材が組み合わさっており、それぞれに明確な健康効果があります。
主なスパイス・薬材の種類と効果は以下の通りです。
| 素材名 | 主な効果 |
|---|---|
| 白胡椒・黒胡椒 | 血行促進・体温上昇・消化促進 |
| にんにく | 抗菌・疲労回復・免疫力向上 |
| 八角(スターアニス) | 消化促進・抗菌・風邪予防 |
| 桂皮(シナモン) | 冷え改善・血糖値の安定化 |
| 当帰(とうき) | 婦人科系の不調改善・血行促進 |
| 玉竹(ぎょくちく) | 滋養強壮・乾燥肌の改善 |
| クコの実(枸杞) | 目の疲れ改善・抗酸化作用 |
特に注目したいのが「当帰」です。
当帰は婦人科系の漢方薬として古くから中国医学で使われており、月経不順や冷え性、貧血などの改善に効果があるとされています。バクテーを日常的に食べることで、こうした女性特有の悩みへのアプローチが期待できるという点は、主婦層にとって非常に嬉しい情報です。
これは使えそうです。
また、豚の骨からは長時間の煮込みによってコラーゲンが溶け出してきます。スープ全体がとろりとした質感になっている場合、それはコラーゲンが豊富に溶け込んでいるサインです。肌の弾力維持や関節の健康維持にも貢献するとされており、美容面でも注目されています。
市販のバクテーの素を使って自宅で作る場合でも、スパイスの香りと薬効成分はしっかりと引き出せます。煮込み時間を最低でも40〜60分確保することが、スパイスの成分を十分にスープへ移すための条件です。
現地でバクテーを食べるときには、スープ単体で楽しむのではなく、いくつかの定番の付け合わせとセットで楽しむのが普通です。知っておくと、シンガポール旅行での食体験がグッと豊かになります。
まず欠かせないのが「ユーティアオ(油条)」です。
ユーティアオは細長い揚げパンで、日本でいえば揚げドーナツを細長くしたようなイメージです。これをバクテーのスープに浸しながら食べるのが定番スタイルで、スープの旨みを吸ったユーティアオの食感がたまりません。現地の屋台では必ずといっていいほど一緒に出てきます。
次に「白ご飯」です。シンガポールではジャスミンライスを使うことが多く、スープをかけてお茶漬け感覚で食べることもあります。
付け合わせの定番をまとめると以下のようになります。
また、現地では「ダークソイソース(黒醤油)」を小皿に入れ、骨から外した肉につけながら食べるスタイルが一般的です。このソースは甘みと塩みのバランスが独特で、バクテーのスパイシーなスープとの相性が抜群です。
食事の最後には中国茶(プーアル茶や鉄観音)を飲むのが正式なスタイルとされています。これが「肉骨茶=バクテー」の名前の由来にも関連しています。茶が合わさって初めて、完成した食文化と言えるのです。
バクテーは材料が揃えにくい、難しそうというイメージがある料理です。しかし市販のバクテーの素を使えば、特別なスパイスを一から揃えなくても本格的な味に仕上げられます。
市販品として代表的なものに、シンガポールの老舗ブランド「Song Fa(宋発)」のバクテーの素があります。
Song Faはシンガポール国内で1969年創業の老舗バクテー専門店で、現在は日本の輸入食材店やオンラインショップでも購入できます。1袋(約35〜40g)で4〜6人分が作れるコスパの良さも魅力です。価格は1袋あたり400〜700円程度で販売されていることが多く、コストパフォーマンスが高い点も魅力です。
基本的な自宅での作り方の流れは以下の通りです。
骨付き肉の下処理が重要です。
霜降りをしっかり行わないと、スープに臭みが出てしまい、せっかくのスパイスの香りが台無しになります。一度お湯で茹でたあと、流水で丁寧に洗い流してから本煮込みに移ることが大切です。面倒に感じるかもしれませんが、この一手間が仕上がりの差を生みます。
圧力鍋を使う場合、煮込み時間は通常の半分以下に短縮できます。忙しい平日の夕食にも対応できるのは嬉しいところですね。
また、好みに応じて豆腐・厚揚げ・えのきたけ・椎茸などを加えると、ボリューム感が増してメイン料理として十分な満足感が得られます。バクテーはアレンジの幅も広い料理です。
シンガポールを訪れる機会があるなら、本場のバクテーをぜひ食べてみてください。現地ではいくつかの有名店が長年にわたって愛されており、それぞれに独自のスタイルがあります。
シンガポールで最も有名なバクテーの名店の一つが「松發肉骨茶(Song Fa Bak Kut Teh)」です。
1969年創業で、現在はクラーキー・キー周辺をはじめ市内に複数店舗を展開しています。胡椒をふんだんに使ったシンガポールスタイルのバクテーが楽しめ、観光客にも地元民にも長年支持されています。1杯の価格は現地で約8〜14シンガポールドル(日本円で約850〜1,500円程度)と、観光地価格ながら手頃な水準です。
もう一軒、地元民の間で高い評価を持つのが「黄亞細肉骨茶(Ng Ah Sio Bak Kut Teh)」です。
こちらはウィラン・アブロードにある老舗で、白胡椒の辛さが際立つ力強いスープが特徴です。朝7時から営業していることも多く、地元の人々が朝食として食べに来る光景は、シンガポール文化を肌で感じられる体験となります。
旅行前に確認しておきたいことが一つあります。
バクテーの専門店の多くは朝〜昼の時間帯に営業しており、夕方ごろには売り切れ終了になることも珍しくありません。特に週末の人気店は開店直後から行列ができるため、訪問する際は午前中を狙うのが賢明です。
シンガポール政府観光局の公式サイトでは、現地の食文化や観光情報が日本語で確認できます。旅行計画の参考にしてみてください。
シンガポール政府観光局公式サイト:バクテーに関する現地情報(日本語)
現地でバクテーを食べることで、レシピ本や動画では伝わらないスープの香りと豚骨のコクを体感できます。旅の思い出として、食文化の深さを感じる体験になるはずです。
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マレーシア料理の素 バクテー(肉骨茶)の素【dfe】 / YEOs dfe(ドーバーフィールドファーイースト) シンガポール 食品 食材 アジアン食品 エスニック食材