「眼の手術後にブロナックを処方すれば、副作用は軽くて済む」と思い込むと患者の視力を永久に奪うリスクがあります。
ブロナック点眼液0.1%は、有効成分ブロムフェナクナトリウム水和物を含む眼科用NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で、千寿製薬株式会社が製造販売しています。薬価は1mLあたり64.3円、5mL製剤で322円程度です。効能・効果は「外眼部及び前眼部の炎症性疾患の対症療法」であり、眼瞼炎・結膜炎・強膜炎・術後炎症が対象となります。
用法は通常1回1〜2滴、1日2回点眼です。同カテゴリの旧世代薬プラノプロフェン点眼液(1日4回)と比べて点眼回数が少なく、患者アドヒアランスの面で優位性があります。これが優れています。
副作用については大きく「重大な副作用」と「その他の副作用」に分かれます。
| 分類 | 副作用名 | 頻度 |
|---|---|---|
| 重大な副作用 | 角膜潰瘍、角膜穿孔 | 頻度不明 |
| その他(眼) | 結膜炎、眼瞼炎、刺激感、眼痛〔一過性〕 | 0.1〜5%未満 |
| その他(眼) | 角膜糜爛、熱感〔眼瞼〕、点状表層角膜炎、角膜上皮剥離、そう痒感 | 頻度不明 |
| 過敏症 | 接触皮膚炎 | 頻度不明 |
副作用報告では、眼痛(一過性)が2.9%、眼瞼炎が2.0%、結膜炎・刺激感が各1.0%と、102例中7例(6.9%)に副作用が認められています。頻度は比較的低いものの、重大副作用は頻度不明であり過小評価は禁物です。
最も注意すべき重大副作用は、「角膜潰瘍」と「角膜穿孔」です。どちらも頻度不明とされていますが、重症化すると失明に至り、角膜移植が必要になるケースも報告されています。眼科用NSAIDsとしてのリスクは業界全体で認識されており、PMDAの資料によれば局所NSAIDsの長期使用は角膜の有害事象発現リスクや重症度が上昇する可能性が示唆されています。
添付文書の「9.1.1」では、角膜上皮障害のある患者には特に注意が必要とされています。角膜上皮障害がすでに存在する状態でブロナックを使用すると、角膜糜爛がさらに進行し、最終的に角膜潰瘍・角膜穿孔へ至る経路が明記されています。これが原則です。
では、どのような患者で角膜障害が起きやすいのでしょうか? 文献やPMDA資料から、リスク因子として挙げられるのは以下のとおりです。
実際の副作用報告においても、糖尿病・ドライアイの合併患者でブロムフェナクNa点眼液使用後に眼刺激症状が報告されたケースが確認されています。問診で既往歴を丁寧に確認することが不可欠です。
角膜上皮障害の初期症状は「目のゴロゴロ感・痛み・まぶしい・涙が出る」などで、患者が「ちょっと違和感がある」と言ってきた段階が中断・受診の最初のタイミングです。この段階で対応するのが基本です。早期発見・早期中断が、重篤化を防ぐ唯一の手段と言っても過言ではありません。
意外と見落とされがちなのが、添加剤「亜硫酸塩」に関するリスクです。ブロナック点眼液の添付文書15.1.2には、「本剤は添加剤として亜硫酸塩を含有している。喘息患者では非喘息患者よりも亜硫酸塩に対する過敏症が多く認められるとの報告がある」と明記されています。
亜硫酸塩とは? 食品添加物としても使われる保存料・酸化防止剤の一種で、体内でSO₂(二酸化硫黄)を生成します。喘息患者ではこのSO₂が気管支収縮を引き起こし、発作を誘発する可能性が指摘されています。喘息患者の約7%がNSAIDsに対して過敏症(いわゆる「アスピリン喘息」)であるとも言われており、ブロナックはNSAIDsである点でも注意が必要です。
ここで重要な点があります。ブロナック点眼液はジクロフェナクナトリウム点眼液のような「アスピリン喘息患者への投与禁忌」という記載がなく、「禁忌」ではなく「その他の注意」欄に記述されています。厳密には禁忌ではないです。しかし「喘息患者に安全に使える点眼NSAIDs」という誤解は非常に危険であり、現場での問診・確認の甘さが副作用インシデントにつながります。
喘息患者への使用前に確認すべき事項は次のとおりです。
厳しいところですね。眼科では呼吸器疾患の詳細な問診が省かれることもありますが、ブロナックを扱う際は「喘息の有無」「NSAIDs使用歴」の2点は必ず聴取することが安全管理の基本です。
亜硫酸塩を含有する医療用医薬品に関する厚生労働省資料(mhlw.go.jp)
ブロナック点眼液が特に多く処方される場面が、白内障手術後の術後炎症管理です。術後炎症が強い場合、嚢胞様黄斑浮腫(CME:Cystoid Macular Edema)という重篤な合併症が発生するリスクがあります。
CMEは、ものを見るために最も重要な黄斑部に浮腫や嚢胞形成が起きることで視力が低下する病態です。一時的なものが多いですが、長期化した場合は黄斑円孔や変視症の原因になるほか、恒久的な視力障害に至ることがあります。東京ドームを例えるなら、黄斑はグラウンドのホームベース付近——そこに水が溜まれば「見え方の中心」が歪むイメージです。
眼科用NSAIDsは、プロスタグランジンの産生を抑制することでCMEを予防・軽減する効果があるとされており、ステロイド点眼液よりCME防止効果が優れているとする報告もあります。ブロナック点眼液の国内第III相試験(術後炎症)では、1日2回のブロナックがプラノプロフェン1日4回より有意に高い有効率(83.8% vs 67.6%、P=0.0040)を示しており、1日2回という利便性の高さと有効性を両立しています。
ただし、CMEのリスクが高い患者——糖尿病、高血圧、緑内障、落屑症候群、糖尿病網膜症といった因子がある患者——では術後炎症が強くなりやすく、ブロナックによる角膜上皮障害のリスクも同時に上がりやすいことを忘れてはいけません。これは使えそうです。
有効性とリスクが並立するこのような状況では、ステロイド点眼液との併用によるCME管理、あるいはジフルプレドナートとブロムフェナクの併用療法(2025年の報告でCMEに最も有効な組み合わせと示唆)も選択肢になります。リスク因子の多い患者を担当する際には、処方医との情報共有が条件です。
副作用リスクを最小化するために、処方・調剤・服薬指導の各段階で確認すべき実践的なポイントを整理します。
【処方・投薬前の確認事項】
まず、禁忌確認として「本剤成分への過敏症の既往歴」の有無は必須です。その上で、角膜上皮障害の既往・現症、ドライアイ・シェーグレン症候群・糖尿病の有無、喘息(特にNSAIDs過敏歴)の確認も合わせて行います。複数のNSAIDs点眼液の重複投与は角膜毒性の相加リスクがあるため、必ず確認します。これが基本です。
【患者指導の要点:添付文書14.1に基づく】
【ソフトコンタクトレンズ装用者への注意】
ブロナック点眼液には防腐剤としてベンザルコニウム塩化物が含まれています。ベンザルコニウム塩化物はソフトコンタクトレンズに吸着しやすく、角膜への接触時間が長くなることで角膜毒性が生じやすくなります。白内障術後はコンタクト装用を中断している場合がほとんどですが、念のため確認が必要です。
【長期使用時の注意】
ブロムフェナクナトリウムの経口剤では、1ヵ月以上・総投与量1,500mg以上の長期使用で重篤な肝障害(死亡含む)の報告があります。あくまでも経口剤の話ではありますが、点眼液でも長期使用に伴う角膜障害リスクが上昇する可能性が示唆されており、適切な使用期間の管理が必要です。「術後炎症が治まったら早めに終了する」という意識が大切です。
副作用に気づいたら即座に中断・受診が条件です。多職種で患者の状態を共有し、目に異常を感じたらすぐに相談できる体制づくりも副作用防止の重要な要素です。
ブロナック点眼液(先発品)と同成分のジェネリック医薬品(ブロムフェナクNa点眼液0.1%「日点」「日新」「ニットー」など)は、有効成分・濃度・用法が同一です。重大副作用や禁忌の記載内容も基本的に同じです。これは基本事項ですね。
しかし、添加剤は製品によって異なる場合があります。患者が先発品からジェネリックに切り替えた後に初めて副作用が出た場合や、逆に副作用が軽減した場合は、添加剤の違いが関係している可能性があります。実際、ブロムフェナクNa点眼液の副作用報告には「眼の周りから顎の薬疹」「接触皮膚炎」「皮膚の白色化」など通常の眼科的副作用とは異なるケースもあり、添加剤アレルギーが疑われる例があります。
見落とされがちなのが「刺激感の差」です。患者から「前の目薬と感じが違う」という声が上がった際、副作用の前兆である可能性を軽視せず、使用を継続するか中断するかの判断を丁寧に行うことが必要です。意外ですね。
ジェネリック切り替えの際に医療従事者が取るべきアクションとして、まず「添加剤の成分が変わっていないか」を確認し、初めて使用する患者には最初の数日間は通常以上に経過観察を行うよう指導することをおすすめします。この「切り替え後の数日間の経過確認」を1つの行動として設定しておくだけで、副作用の早期発見率は格段に上がります。
ブロムフェナクNa点眼液0.1%「日新」の報告副作用に関する資料(日新製薬)