減塩をがんばっているのに、血圧が下がらない方が約6割います。
DASH食(ダッシュしょく)とは、「Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を防ぐ食事方法)」の頭文字をとった名称で、アメリカの国立心臓肺血液研究所が提唱した食事法です。1990年代にアメリカで行われた大規模な臨床試験から生まれた、科学的根拠のある食事スタイルです。
もともとはアメリカで高血圧の治療・予防に使われていた食事法ですが、現在では日本の高血圧治療ガイドラインにも正式に採用されています。これはつまり、医師や専門家が「効果がある」と認めている食事法だということです。
DASH食のコアにあるのは「ナトリウム(塩分)を体外に排出すること」です。塩分を減らすだけでなく、ナトリウムを積極的に体から追い出す栄養素を意識して摂るという点が、単なる「減塩食」との大きな違いです。つまり「減らす」だけでなく「排出を助ける」が基本です。
具体的には、以下の3つの方向性で食事を組み立てます。
カリウム・カルシウム・マグネシウムという「3つのミネラル」と「食物繊維」を豊富に摂ることで、余分な塩分を尿として排泄しやすくする仕組みです。この相乗効果が大切です。
アメリカの臨床試験では、DASH食を2ヶ月続けた高血圧の方の収縮期血圧(上の血圧)が平均で11.4mmHg、拡張期血圧(下の血圧)が5.5mmHgも低下したと報告されています(Appel LJ et al., N Engl J Med, 1997)。血圧計の針1目盛りが2mmHgですから、約5〜6目盛り分下がる計算になります。これは降圧薬に匹敵するレベルの効果です。
【オムロン ヘルスケア】高血圧を改善する「DASH食」って何? — DASH食の仕組みと3つのミネラルの役割について詳しく解説されています
DASH食の核心は「3つのミネラルが塩分を追い出す」という仕組みを理解することです。これが大切なポイントです。
① カリウムの働きから見てみましょう。カリウムは細胞内に入ると、代わりにナトリウム(塩分)が細胞外に押し出されます。さらにカリウムは、腎臓での塩分の再吸収を阻害するため、余分な塩分が尿として排出されやすくなります。カリウムの1日の目標摂取量は、女性で2600mg・男性で3000mgとされていますが、現代の日本人はかなり不足しています。
研究では、カリウムの摂取量を1日あたり1.6g増やすだけで、脳卒中のリスクが20%減少するという報告もあります。意外ですね。カリウムが豊富な食品は、ほうれん草・さつまいも・バナナ・アボカド・きのこ類・海藻類などです。
② カルシウムの働きも見逃せません。カルシウムが不足すると、骨や歯からカルシウムが溶け出して血中濃度が高まります。すると血管壁が収縮してしまい、血圧が上昇するという「カルシウムパラドックス」が起きます。カルシウムをしっかり補うことが、血管の収縮を防いで血圧を安定させることにつながります。牛乳・ヨーグルト・小松菜・大豆製品・小魚などに多く含まれます。
③ マグネシウムは、細胞内からナトリウムを排出しカリウムを取り込む働きをサポートします。さらに動脈を拡張させる働きがあり、血圧を直接下げる効果もあります。海藻類・アーモンド・玄米・大豆製品・魚介類などに多く含まれます。
この3つのミネラルが組み合わさって初めて、大きな降圧効果が生まれます。1種類だけ摂っても効果は限定的です。そのため「組み合わせ」が基本です。3つのミネラルをまんべんなく意識することが、DASH食の実践の第一歩といえます。
| ミネラル | 血圧への働き | 代表的な食材 |
|---|---|---|
| カリウム | 塩分を尿で排出する | バナナ・ほうれん草・さつまいも・わかめ |
| カルシウム | 血管の収縮を防ぐ | 牛乳・ヨーグルト・小松菜・豆腐 |
| マグネシウム | 動脈を拡張させる | アーモンド・玄米・ひじき・さば |
【湘南いいだハートクリニック】血圧を下げるDASH食とは? — 3つのミネラルそれぞれの仕組みを医師が詳しく解説しています
DASH食はアメリカで生まれた食事法ですが、実は日本の伝統的な和定食のスタイルと驚くほどよく合います。これは使えそうです。
「ご飯・焼き魚・野菜の小鉢・味噌汁・漬物」という昔ながらの和定食を思い浮かべてください。この構成はほぼDASH食の理想形に近く、意識しなくてもカリウム・カルシウム・マグネシウム・食物繊維を自然に摂取できます。和定食がそのままDASH食になります。
ただし、和食には1つ大きな落とし穴があります。それは食塩量です。たとえば、典型的な朝の和定食(塩鮭・みそ汁・ご飯)だけで食塩が2〜3gに達することがあります。日本人の平均食塩摂取量は1日約10gで、日本高血圧学会が推奨する6g未満より4gも多い状態です。塩分だけは注意が必要です。
和食でDASH食を実践するポイントは、次のような工夫です。
味付けを薄くするのが難しい場合は、だし(昆布・かつお)を活用することが有効です。うま味を活かすことで、塩分を減らしても満足感が生まれやすくなります。減塩しょうゆや減塩みそに切り替えるだけでも、1食あたり0.5〜1gの塩分削減につながります。
【伊出クリニック】高血圧の食事〜減塩・DASH食の実例と1週間プラン — 1週間分の具体的な献立と栄養バランス評価を掲載しています
DASH食を実践するうえで見落とされがちなのが、「増やす食品にも食べすぎ注意のものがある」という点です。これだけ覚えておけばOKです。
まず、果物の食べすぎに注意が必要です。DASH食では果物を積極的に摂ることを勧めていますが、果糖の多い果物を大量に摂ると中性脂肪が増えたり、カロリーオーバーになる可能性があります。目安は1日1〜2種類・合計200g程度です。りんご半分、バナナ1本、キウイ1個というイメージが参考になります。
次に、乳製品の脂肪分にも気をつけましょう。DASH食が推奨するのは「低脂肪乳製品」です。バターや生クリームは飽和脂肪酸が多く、DASH食では控える対象に分類されます。牛乳は低脂肪タイプ、ヨーグルトは無糖のプレーンタイプを選ぶのが原則です。
また、大豆製品や豆類は腎臓に疾患がある場合はカリウムやリンの制限が必要なため、DASH食の対象外になることがあります。慢性腎臓病などをお持ちの方は、必ず担当医に確認することが条件です。医師への相談は必須です。
さらに見落とされやすいのが食塩相当量の「隠れ塩分」です。しょうゆ・みそ・ソース・ドレッシングなどの調味料には多くの塩分が含まれています。市販のドレッシング大さじ1杯に約1gの食塩が含まれていることも珍しくありません。料理そのものを薄味にしても、調味料をかけすぎると帳消しになってしまいます。調味料の量だけは意識しましょう。
近年、健康的な食事法として「地中海食」も注目を集めており、DASH食と比較して迷う方も増えています。どちらも良い食事法ですが、目的と得意分野が少し異なります。
DASH食の強みは「血圧対策の特化性」です。高血圧の予防・改善を第一目的として設計されており、血圧低下効果に関する臨床データが最も豊富です。日本の高血圧治療ガイドライン2019でも正式に推奨されている点で、医療的な信頼性が高い食事法といえます。
一方、地中海食はオリーブオイルや赤ワインを積極的に使う点が特徴で、心血管疾患全般・認知症予防・がんリスク低下など、幅広い健康メリットを持つ食事スタイルです。ただし、日本人には食文化の違いから取り入れにくい食材も多く含まれます。
主婦の目線で言えば、DASH食の方が日常の和食に溶け込みやすく実践しやすいのが特徴です。魚・野菜・大豆製品・海藻という「日本の食卓にすでにある食材」がDASH食の中心だからです。オリーブオイルや全粒粉パンを新たに買い揃える必要がない点は、家計にも優しいといえます。
また、2025年以降の研究では、DASH食と地中海食の要素を組み合わせた「MIND食(マインド食)」が認知症予防に有効と注目されています。MIND食はDASH食に「緑黄色野菜・ベリー類・ナッツ・オリーブオイル」を加えたものと考えると理解しやすいです。MIND食はDASH食の発展形です。
| 比較項目 | DASH食 | 地中海食 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 高血圧・血圧改善 | 心血管疾患・認知症予防 |
| 特徴的な食材 | 野菜・魚・豆・乳製品 | オリーブオイル・ナッツ・赤ワイン |
| 和食との相性 | ◎ 非常に高い | ○ やや難しい |
| 日本での推奨 | 高血圧ガイドラインで明記 | 参考として紹介されることが多い |
どちらの食事法が自分に向いているかを考えるときは、まず「自分が最も改善したい健康課題は何か」を整理してみてください。血圧が気になるなら、まずDASH食から試してみるのが近道です。
【中澤内科クリニック】高血圧の食事療法|減塩とDASH食で血圧を下げるコツ — DASH食の血圧改善効果の数値と、薬との比較について医師が解説しています