「普通のスポンジで代用すると、オペラケーキが水っぽく崩れてしまいます。」
ビスキュイ・ジョコンド(Biscuit Joconde)とは、アーモンドパウダー(アーモンドプードル)をたっぷり使って作る、フランス菓子の基本生地のひとつです。普通のスポンジケーキとは一線を画す、しっとりとした弾力と豊かなアーモンドの風味が最大の特徴です。
アーモンドパウダーと粉砂糖を同量合わせた「タンプルタン(tant pour tant/TPT)」を主体に、薄力粉・全卵・卵白・バターを組み合わせて作ります。「タンプルタン」という言葉はフランス語のレシピでよく登場する製菓用語で、意味は「同量ずつ」。覚えておくと便利です。
他の生地と比べて薄力粉の割合が非常に少なく、アーモンドパウダーが主役になっています。これが普通のスポンジにはない独特のしっとり感と、適度な骨格(弾力)を生み出す秘密です。
つまり「アーモンドパウダー主体のしっとり生地」が基本です。
| 生地の種類 | 泡立て方 | 主な特徴 | 主な使用シーン |
|---|---|---|---|
| ジョコンド | 別立て法 | アーモンド入り・しっとり弾力あり | オペラ・ムース台・ロールケーキ |
| ジェノワーズ | 共立て法 | ふんわり軽い・バター使用 | ショートケーキ・デコレーションケーキ |
| ビスキュイ(プラン) | 別立て法 | 軽くふんわり・バターなし | シャルロット・ティラミス台 |
「ジョコンド」という名前を聞いて、ケーキと絵画を結びつける人はほとんどいないでしょう。実はこの生地の名前の由来は、あのレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた世界的名画「モナ・リザ」にあります。
「モナ・リザ」のモデルは、フィレンツェの商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻「リサ・ジョコンダ(Lisa Gherardini)」といわれています。フランスではこの絵画を「ラ・ジョコンド(La Joconde)」と呼び、その名前がそのままこの生地に使われているのです。
「ジョコンドの微笑みのように優美で存在感がある生地だから」という説が広く伝えられていますが、明確な文献での証明はされていません。なんとも詩的な由来ですね。
フランス菓子の世界では、このように文化的・芸術的な名前が生地や技法につけられることがあり、学ぶほどに奥深さを感じます。お菓子の名前の由来を知るだけで、作る楽しさが増すというものです。
参考:モナ・リザのフランス語名「ラ・ジョコンド」について
モナリザ…フランス語では何? – ルミエール
ジョコンド生地と普通のスポンジ(ジェノワーズ)は、見た目こそ似ていますが、作り方・材料・食感においてまったく別物です。この違いを知らないと、オペラケーキなどを作るときに大きな失敗につながります。
違いが大きいのです。
① 泡立て方が違う(別立て vs 共立て)
ジョコンド生地は卵白と卵黄を別々に泡立てる「別立て法」で作ります。一方、ジェノワーズは全卵と砂糖を一緒に泡立てる「共立て法」です。別立て法のほうが、きめの細かいメレンゲを生地に組み込めるため、より複雑な食感を生み出せます。
② アーモンドパウダーの有無が違う
ジョコンド生地の最大の特徴は、アーモンドパウダーを大量に使うことです。27cm×27cmの天板1枚分で約75g(全材料の約27%)ものアーモンドパウダーが入ります。これはジェノワーズにはない要素で、風味・食感ともに大きな差が生まれます。
③ シロップの吸収力が違う
ジョコンド生地はシロップをたっぷり含ませても形が崩れない「骨格」を持っています。オペラケーキではコーヒーシロップを「指で押すと液体が浮かび上がるくらい」たっぷり塗りますが、それでも崩れないのはジョコンド生地ならではの弾力があるからです。普通のスポンジで代用すると、水分を吸いすぎてボロボロになってしまいます。
これが条件です。オペラを作るならジョコンド生地一択です。
参考:ジェノワーズとビスキュイ生地の違いについて
ビスキュイ生地とジェノワーズ生地ってどう違うの? – 織田製菓専門学校
ジョコンド生地は「難しそう」と思われがちですが、ポイントさえ押さえれば家庭のオーブンでも十分に作れます。失敗の原因のほとんどは、メレンゲの扱いと焼成温度の2点に集中しています。
コツを知れば大丈夫です。
コツ①:卵黄生地は白っぽくなるまでしっかり泡立てる
ジョコンド生地は、メレンゲだけでなく卵黄のベースにもしっかりと空気を含ませることが重要です。ハンドミキサーで「白っぽくふんわり」するまで混ぜましょう。この工程を省くと、焼き上がりが締まった重い生地になります。
コツ②:メレンゲは「やわらかい角が立つ」状態にする
ジョコンド生地のメレンゲは、固角が立つ「しっかりしたメレンゲ」ではなく、ゆるやかな角が立つ「やわらかいメレンゲ」が正解です。固すぎると生地との馴染みが悪くなり、焼き上がりが膨らんでしまいます。また、メレンゲに使う卵白は冷蔵庫から出して15分ほど室温に戻したものが扱いやすいです。
コツ③:バターは60℃くらいの溶かしバターを使う
バターは生地に加える直前に60℃程度に保っておくことが大切です。冷えたバターを加えると生地に馴染まずダマになり、逆に熱すぎると気泡を消してしまいます。湯せんで溶かした後、少し冷ましてから使うのが原則です。
コツ④:オーブンは210〜220℃の高温で短時間焼く
これが最も見落とされがちなポイントです。ジョコンド生地は「210℃で10〜12分」という高温短時間が基本です。家庭でよくやりがちな「160〜170℃でじっくり焼く」は絶対にNGで、必要な水分まで飛んでしまい、パサパサのかたい生地になります。
参考:ビスキュイジョコンドの作り方・ポイント解説
ジョコンド生地をマスターすると、作れるお菓子の世界が一気に広がります。「覚えて損なし」の万能生地です。
定番:オペラ(Opéra)
ジョコンド生地の代表的な使い方がオペラケーキです。ビスキュイ・ジョコンドを3枚重ね、コーヒーシロップ・コーヒーバタークリーム・チョコレートガナッシュを交互に重ねた、フランスの伝統菓子です。パリの有名菓子店「ダロワイヨ(Dalloyau)」が発祥とされ、現在も人気を誇ります。
応用:ムースケーキの底生地
アーモンドの風味と弾力はムースとの相性が抜群です。型の底やサイドに敷き込み、上からムースを流し込む使い方はフランス菓子の定番です。マスカルポーネムース・ラズベリームース・ピスタチオムースなど、どんなフレーバーとも合います。
応用:ロールケーキ
ジョコンド生地をロールケーキに応用するのも人気の方法です。普通のスポンジと比べてしっとり感が強いため、翌日以降も乾燥しにくいというメリットがあります。これは使えそうです。カラフルな「パータデコール(飾り生地)」を組み合わせると、断面が美しいおしゃれなロールケーキになります。
アレンジ:ナッツを変える・ショコラ版も人気
アーモンドパウダーをピスタチオパウダーや他のナッツ類に置き換えても美味しく作れます。また、アーモンドパウダーの一部をカカオパウダーに置き換えた「ビスキュイ・ジョコンド・ショコラ」もよく使われるバリエーションです。
参考:ビスキュイジョコンドを使ったオペラのレシピ