市販の塩麹を毎日使っているのに、麹菌の量が多すぎると腸内環境が乱れることがあります。
麹菌(こうじきん)は、正式名称をAspergillus oryzae(アスペルギルス・オリゼー)といいます。カビの一種です。
「カビ」と聞くと食べ物を傷めるイメージがありますが、麹菌はまったく別の話です。日本醸造学会は2006年に麹菌を「国菌(こっきん)」として認定しており、日本固有の有用菌として正式に位置づけられています。パンのカビとは全然違うということですね。
麹菌の大きさは胞子1粒が直径3〜5マイクロメートル(μm)ほど。1マイクロメートルは0.001mmですから、目には見えない極めて小さな存在です。この小さな菌が、米・麦・大豆といった穀物の表面に菌糸を伸ばし、でんぷんやたんぱく質を分解する酵素を大量に生産します。これが発酵の出発点です。
麹菌が活発に働く温度は28〜40℃。湿度は80〜90%前後が最適です。家庭でいうとお風呂場や夏のキッチンに近い環境ですね。だからこそ昔の日本では、夏場に味噌や醤油をつくる文化が根づいたのです。
「麹菌=カビ」という事実は意外でも、安全性については心配無用です。麹菌はマイコトキシン(カビ毒)を産生しない菌種として確認されており、日本農林水産省や食品安全委員会の基準でも食品への使用が認められています。つまり食べても安全です。
麹菌には大きく3種類あり、それぞれ用途が異なります。これが基本です。
| 種類 | 主な原料 | 代表的な食品 |
|------|----------|------------|
| 黄麹菌(Aspergillus oryzae) | 米・麦・大豆 | 味噌・醤油・日本酒・甘酒 |
| 白麹菌(Aspergillus kawachii) | 米 | 焼酎(白麹仕込み) |
| 黒麹菌(Aspergillus luchuensis) | 米 | 泡盛・焼酎(黒麹仕込み) |
家庭で最もなじみが深いのは黄麹菌です。スーパーで売っている「米麹」「麦麹」「豆麹」はすべて黄麹菌を使って育てたものです。意外ですね。
甘酒に使われる米麹は、炊いたご飯や蒸した米に黄麹菌を付着させ、55〜60℃の保温環境で8〜12時間発酵させたものです。この過程で麹菌がアミラーゼという酵素を分泌し、でんぷんがブドウ糖に変わります。だから甘酒は砂糖を一切加えなくても甘くなります。「砂糖ゼロなのに甘い」という理由がここにあります。
味噌の場合は少し複雑です。米麹・麦麹・豆麹のいずれかを大豆に混ぜ、塩を加えて数か月〜1年以上熟成させます。この間に麹菌の酵素がたんぱく質をアミノ酸に分解し、あの独特のうまみが生まれます。
醤油は大豆と小麦を混ぜた原料に麹菌を育て、食塩水を加えて「もろみ」をつくり、1〜2年かけて発酵・熟成させます。長期熟成が原則です。一般的に醤油1リットルをつくるには大豆と小麦がそれぞれ約130g必要で、その何倍もの塩水と麹菌の働きが欠かせません。
麹菌がすごい理由のひとつは、酵素の生産量の多さです。
麹菌は主に次の酵素を生産します。
- アミラーゼ:でんぷんをブドウ糖やマルトース(麦芽糖)に分解する
- プロテアーゼ:たんぱく質をアミノ酸やペプチドに分解する
- リパーゼ:脂質を脂肪酸とグリセロールに分解する
- セルラーゼ:食物繊維(セルロース)を部分的に分解する
これが体に何をもたらすかというと、消化の負担を大幅に軽減します。
たとえばプロテアーゼによって分解されたアミノ酸の中には、GABAやグルタミン酸が含まれます。GABAはストレス緩和や睡眠の質向上に関わる神経伝達物質として知られており、近年注目が高まっています。国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の報告でも、米麹発酵食品にGABAが多く含まれることが確認されています。
腸への働きも見逃せません。麹菌由来の発酵食品に含まれるオリゴ糖や食物繊維は、腸内のビフィズス菌や乳酸菌のエサになります。腸内環境が整うということですね。ただし後述するように、摂りすぎると逆効果になるケースもあるため注意が必要です。
農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)公式サイト:麹菌・発酵食品に関する研究情報が掲載されています。発酵食品の栄養成分や機能性を調べる際の参考になります。
「体にいいから」と毎日大量に食べれば良いわけではありません。これは重要です。
甘酒を例にとると、農林水産省が公表している資料では、甘酒(米麹タイプ)100gあたりのカロリーは約81kcalです。コップ1杯(約200ml)で約160kcal前後になります。これはご飯お茶碗軽め1杯(約150kcal)とほぼ同じカロリーです。「ノンアルコールで健康的」というイメージから飲みすぎると、血糖値の急上昇や体重増加につながる場合があります。
農林水産省「米の加工品・発酵食品」ページ:甘酒・米麹の栄養情報と安全な摂取に関する公的情報が掲載されています。
また塩麹については、大さじ1杯(約18g)に含まれる塩分量が約1.5〜2gです。厚生労働省が推奨する成人女性の1日の食塩摂取目標量は6.5g未満(2020年版日本人の食事摂取基準)ですから、塩麹を調味料として複数品目に使うと1食で目標値の半分近くを塩分で消費することになります。塩分の摂りすぎには注意が必要です。
腸内環境については個人差が大きく、もともと腸が過敏な方(過敏性腸症候群など)が急に発酵食品を増やすと、かえってガスや下痢が増えることがあります。1日の目安として味噌汁1〜2杯・塩麹大さじ1杯程度から始め、体の反応を見ながら量を調整するのが無難です。少量から始めるが原則です。
発酵食品の話をすると、麹菌・酵母菌・乳酸菌の3つがよく出てきます。混乱しやすいですね。実はこの3つは「役割の異なる分業チーム」として理解するとスッキリします。
麹菌は「分解担当」です。でんぷんやたんぱく質を小さな分子に切り崩し、酵母菌や乳酸菌が使いやすい状態に整えます。料理でいえば「仕込み係」に相当します。
酵母菌は「変換担当」です。麹菌が分解したブドウ糖をアルコールと炭酸ガスに変えます。日本酒やビール・ワインのアルコール発酵はすべて酵母菌の仕事です。
乳酸菌は「保存担当」です。糖を乳酸に変えることで食品を酸性にし、雑菌の繁殖を抑えます。ヨーグルトやぬか漬けのすっぱさはこれです。
味噌・醤油・日本酒は実はこの3菌が連携して完成します。麹菌が先行して原料を分解し、次に酵母菌が働き、その後乳酸菌が風味と保存性を加えます。「麹菌だけで発酵食品ができる」と思いがちですが、正確には多菌連携の産物です。これが条件です。
この視点を知っておくと、市販の「乳酸菌入り甘酒」や「酵母菌入り塩麹」などの商品を選ぶ際に、何が添加されているのか・どんな働きが期待できるのかを判断する基準になります。成分表示を確認する習慣をつけると、より賢く発酵食品を活用できます。
日本農芸化学会公式サイト:麹菌・酵母菌・乳酸菌に関する学術情報が公開されており、発酵のしくみを深く理解したい方に参考になります。
市販の生麹・乾燥麹を家庭で使うときに知っておきたい基礎知識を整理します。
まず麹の種類と保存期間の違いを把握しておくことが大切です。
| 種類 | 常温保存 | 冷蔵保存 | 冷凍保存 |
|------|----------|----------|----------|
| 生麹 | 不可(1〜2日で劣化) | 約1か月 | 約6か月 |
| 乾燥麹 | 6か月〜1年(未開封) | 開封後は密閉して1〜2か月 | 約1年 |
生麹は水分量が多いため、常温に放置すると麹菌が過剰増殖したり雑菌が混入したりするリスクがあります。購入後はすぐに冷蔵か冷凍が原則です。
塩麹を手作りするときの基本比率は「米麹100g:塩30g:水100ml」です。この塩分比率(約18〜20%)が雑菌の繁殖を抑えるうえで重要です。塩を減らして「減塩塩麹」を作る場合は冷蔵保存を徹底し、2〜3週間以内に使い切ることをおすすめします。
甘酒を手作りする場合は温度管理が命です。炊飯器の保温機能(約60℃)を使う方法が一般的ですが、70℃以上になると麹菌の酵素が不活性化し、甘くなりません。温度計で確認しながら55〜60℃に保つのが成功のコツです。温度が命ということですね。
また市販の塩麹・甘酒を選ぶ際は「加熱処理済み」か「非加熱(生タイプ)」かを確認してください。加熱処理済みは酵素が失活しているため長期保存に向きますが、酵素の働きを期待するなら非加熱タイプを選ぶ必要があります。用途によって選ぶが大切です。
麹菌は日本の食文化を1300年以上支えてきた微生物です。正しく理解して上手に使えば、毎日の食卓がより豊かで健康的になります。怖がる必要はまったくありません。まず手近な米麹や市販の塩麹から、日々の料理に取り入れてみてください。
食品安全委員会公式サイト:発酵食品・食品添加物の安全性に関する公的評価情報が掲載されています。麹菌の食品への使用安全性を確認する際の参考になります。
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