「紅麹サプリは飲んでも大丈夫」と思っているなら、サプリを中止しても腎機能が回復しないケースが報告されています。
紅麹とは、米や麦などの穀物に「紅麹菌(ベニコウジカビ・Monascus属)」を混ぜて発酵させた食品のことです。鮮やかな赤い色素が特徴で、中国や台湾では「紅酒」「紅乳腐」の原料として2000年以上前から使われてきた歴史があります。日本でも沖縄の伝統料理「豆腐よう」に使われており、長年の食文化に根ざした素材です。
つまり、紅麹そのものは昔から親しまれてきた食品です。
問題は、小林製薬が「紅麹コレステヘルプ」などの機能性表示食品サプリメントを製造する過程で、2023年6月〜8月製造の特定ロットに青カビ由来の有毒物質「プベルル酸」が混入したことにありました。2024年3月22日に公表が行われ、摂取した消費者に腎疾患などの深刻な健康被害が発生していることが明らかになりました。
紅麹菌は他の菌と比べて非常にデリケートで、雑菌が入りやすい特性を持っています。小林製薬は成分濃度を高めるために通常の3倍にあたる約50日間の長期培養を行っており、その過程で工場内の青カビが混入した可能性があると判断されています。老朽化していた大阪工場のタンクの亀裂なども指摘されており、製造管理の問題が被害につながったと見られています。
紅麹が健康食品として注目されてきた最大の理由は、コレステロールへの働きかけです。紅麹には「モナコリンK(ロバスタチン)」という成分が含まれており、これは肝臓でのコレステロール合成を抑制する医薬品「スタチン系製剤」と同一の作用機序を持っています。
これは意外なことかもしれません。
4年半にわたって4,870人の中国人被験者を対象とした臨床試験では、紅麹サプリ摂取グループで心疾患の頻度が5.7〜10.4%低下したことが確認されています。さらに、79名の高脂血症患者を対象とした別の試験では、8週間後にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が27.7%、総コレステロールが21.5%、中性脂肪が15.8%それぞれ低下するという優れた結果が出ています。
コレステロール効果が高い点は実証済みです。
しかし、これはまさに「医師の管理下で服用する薬と同等の成分を、誰でも自由に購入して飲める」状態を意味します。そのことで問題が生じる可能性が、以前から一部では指摘されていました。たとえばロバスタチンと相互作用する薬(フェブラート系製剤・ワルファリン・マクロライド系抗生物質・免疫抑制剤のシクロスポリンなど)との併用は、重大なリスクを引き起こすことがあります。実際に腎移植後にシクロスポリンを内服中の患者が紅麹サプリを飲んで重篤な横紋筋融解症を起こした症例報告もあります。
複数の薬を服用している方は特に要注意です。
小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」は、悪玉コレステロール値が高めの方を対象に「LDL-Cが高めの方に紅麹の健康習慣」として販売されていました。機能性表示食品として国に届け出られており、手軽に購入できる点が多くの消費者に支持されていた背景があります。
一之江駅前ひまわり医院:紅麹とは?紅麹の効果と危険性について(医師解説)
今回の問題の核心は「プベルル酸」という物質です。プベルル酸はアオカビ(青カビ)由来の天然有機化合物で、2024年9月に厚生労働省が「健康被害の原因物質」として発表するまでほとんど研究が進んでいませんでした。当時、この物質に関する研究論文は世界にわずか6件しかなかったほどです。
研究が少ない未知の物質が原因でした。
2026年3月には東京科学大学の研究チームが、紅麹コレステヘルプの有害ロットに含まれるプベルル酸が腎障害を引き起こす仕組みを世界で初めて詳細に解明しました。プベルル酸は腎臓の尿細管細胞の中にあるミトコンドリア(細胞のエネルギーを作る器官)の機能を低下させ、細胞死(壊死)を引き起こすことが確認されています。ミトコンドリアは人体のすべての細胞に存在するため、エネルギーを多く消費する腎臓の細胞がとりわけ大きなダメージを受けます。
腎臓の細胞が壊れると、体内の老廃物をうまくろ過できなくなります。これが急性腎障害や、慢性腎臓病への移行につながります。また、ファンコニー症候群と呼ばれる腎臓の機能不全(筋力低下・倦怠感・電解質異常など)を発症した患者も多数確認されており、サプリの服用を中止するだけでは腎機能が回復しないケースも報告されています。
読売新聞の報道によれば、服用中止後も腎機能が回復しないまま慢性腎臓病へ移行するリスクが指摘されています。これは看過できない健康被害です。
プベルル酸が混入した原因は、小林製薬の大阪工場で行われた独自の長期培養工程にあります。通常3倍の50日間という培養を行う中で、老朽化した工場設備のすき間から青カビが混入し、紅麹菌が産生するロバスタチン(モナコリンK)を青カビが変質させた可能性があります。この工程で生まれたプベルル酸は通常の検査では発見が難しく、発覚が遅れた大きな要因となりました。
東京科学大学:紅麹コレステヘルプ腎症の原因物質と発症機序を解明(2026年3月)
小林製薬は、最初に社内で健康被害の情報を把握してから公表まで約2ヶ月を要したことが大きな批判を受けました。2024年1月には社内で健康被害の相談を把握していたにもかかわらず、公表は同年3月22日となりました。この「2ヶ月の沈黙」の間にも消費者は問題のサプリを飲み続けており、被害が拡大した可能性があります。
情報の遅れが被害拡大につながりました。
2024年6月28日には、当初5人とされていた死亡疑い件数が実は新たに76件確認されていたことが公表されました。小林製薬は3月以降、死亡例の報告を毎日厚生労働省に行うことになっていたにもかかわらず、死亡件数の更新を独断で止めていたことが判明しています。厚生労働省側が6月13日に再度問い合わせて初めて発覚した事態です。
被害の規模は最終的に非常に大きなものとなりました。
| 被害状況(2026年2月時点) | 数字 |
|---|---|
| 補償対象被害者数 | 510人 |
| 補償費用など累計損失 | 約150億円以上 |
| 事件発覚〜現在の期間 | 2024年3月〜継続中 |
| 公表遅延期間 | 約2ヶ月 |
| 健康被害相談件数(最大時) | 延べ約9万4000件 |
また、小林製薬は海外向け製品には厳しい品質管理を実施していた一方、国内製品の管理は不十分だったことも判明しています。被害は日本国内にとどまらず台湾にも拡大し、台湾でも急性腎不全など6件の健康被害が報告されました。
この事件を機に機能性表示食品制度の法改正も進み、2025年4月1日以降は①健康被害の情報提供義務化、②GMP(適正製造規範)の要件化などが施行されました。消費者が安全なサプリを選ぶ環境が少しずつ整備されています。
内田洋行:紅麹問題と機能性表示食品の制度改正(2025年4月施行の改正内容まとめ)
今回の問題を受けて「紅麹は全部危険」と思っている方も多いかもしれませんが、それは誤解です。
伝統的な食品としての紅麹はそもそも安全性が高く、沖縄の「豆腐よう」のように少量を食品として日常的に食べる分には健康被害の報告は原則ありません。問題はあくまで「高濃度に成分を凝縮させたサプリメント」という形態であり、さらに製造上の管理ミスによる有毒物質の混入が重なった特殊な事例です。
日本で一般的に使われる「麹」(アスペルギルス属)と、紅麹菌(モナスカス属)は別の種類であることも知っておくと安心です。醤油・味噌・日本酒・甘酒などに使う麹菌は紅麹菌とは異なり、今回の問題とは一切関係がありません。
麹全般が危険なわけではありません。
一方、今後サプリメントを選ぶ際には以下の点を意識すると安心です。
サプリは手軽に買えますが、成分によっては医薬品と同等の作用があることを忘れないことが基本です。
今回の小林製薬の事件は、機能性表示食品制度の盲点が浮き彫りになった出来事でもありました。制度では事業者が科学的根拠を用意して消費者庁に届け出るだけで機能性を表示でき、政府が内容を審査・承認するわけではありません。「国が認めた」と混同している消費者も多く、今後は私たち消費者側がラベルの読み方や情報の確認方法を身につけることが、自分と家族の健康を守る一番の近道になっています。
消費者庁のデータベースを活用するのがおすすめです。
消費者庁:紅麹を含むいわゆる「健康食品」関係について(公式情報)

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