鯛だしは「30分以上煮ると旨味ではなく臭みが出ます」。
鯛だしを取るためにまず用意するのは「鯛のあら」です。あらとは、魚を2枚や3枚おろしにした後に残る頭・中骨・カマ(えらからひれにかけての部分)・尾のこと。骨まわりには旨味成分のグルタミン酸やイノシン酸が凝縮されており、身よりもむしろ濃厚なだしが取れます。
スーパーの鮮魚コーナーでは、1パック100〜200円前後で販売されていることが多く、コスパは抜群です。鯛の切り身が1切れ300〜500円することを考えると、はがきほどの大きさのパック(約200〜300g)がその半額以下で手に入るのはお得ですね。
選ぶ際は「色」と「においを確認する」の2点だけ覚えておけばOKです。身や骨まわりが白〜薄いピンク色で、磯の香り程度であれば鮮度は問題ありません。灰色がかっていたり、強い生臭さがあるものは避けましょう。
また、鯛は白身魚の代表格で、出汁取りに最も適した魚のひとつです。アジやブリ・サバなどの青魚は、DHAやEPAを豊富に含む反面、これらは脂質由来の成分のため酸化が早く、「トリメチルアミン」という強い臭み成分を生成しやすいので出汁取りには不向きとされています。鯛などの白身魚を選ぶのが原則です。
| 部位 | 特徴 | だしへの適性 |
|---|---|---|
| 中骨・背骨 | 旨味成分が豊富 | ◎ 最適 |
| 頭(カブト) | コラーゲン・脂の旨味あり | ○ 良い |
| カマ | 脂の香りが豊か | ○ 良い |
| 尾・ヒレ | コラーゲン多め | △ 補助的に |
スーパーでカットされて売っているあらは、そのまま使えるサイズであればカットの必要はありません。頭の部分が大きすぎる場合は包丁の刃元を使って5〜6cm幅に切り分けると、鍋に収まりやすく、だしも出やすくなります。
鯛だしの仕上がりを左右するのは、実は加熱の工程よりも「下処理」です。これが基本です。
【ステップ1】塩を振って20〜30分おく
鯛のあら全体に薄く塩を振ります。目安は重量の約1〜2%。300gのあらに対して小さじ1/2〜2/3程度です。塩の脱水作用によって、余分な水分とともに臭みの成分(主にトリメチルアミンのもとになる物質)が表面に滲み出てきます。ボウルに入れて20〜30分そのまま置いておくだけでOKです。
塩を振ったら、滲み出た水分(ドリップ)には触れないように注意してください。せっかく外に出た臭みを再吸収させないためです。ザルの上に置いて水分を落とすと、より丁寧な下処理ができます。
【ステップ2】霜降り(湯通し)をする
塩を振って20〜30分経ったら、いよいよ「霜降り」です。大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし、あらを投入します。15〜30秒ほど、表面が白くなったらすぐにざるに上げてください。長くお湯に入れすぎると旨味まで流れ出てしまうので注意が必要です。
熱湯から取り出したあらは、すぐに氷水(または冷水)に取ります。急冷することで表面がキュッと締まり、旨味が逃げにくくなります。また、氷水の中で指を使って残ったうろこ・血合い・血管内の血をやさしくこすり落としましょう。
血合いが残っていると、だしが濁り、強い生臭さの原因になります。背骨の中の神経(白いヒモ状のもの)や骨髄の暗い部分も、竹串や爪楊枝を使って丁寧に取り除くと仕上がりが格段に変わります。
洗い終わったら、キッチンペーパーで水気をしっかり拭き取ります。水分が多いまま加熱すると旨味が薄まります。これで下処理は完了です。
下処理が終わったら、いよいよだしを取る工程に入ります。火加減とタイミングが鯛だしの透明感と香りを決めます。
【材料(約600〜800ml分)】
【手順】
鍋に水・下処理済みのあら・生姜スライスを入れ、水の状態から火にかけます。強火ではなく、弱めの中火が正解です。10分ほどかけてゆっくり温度を上げることで、骨や組織の内側からじっくりアミノ酸(旨味成分)が溶け出します。
沸騰直前(鍋底から小さな泡がポコポコし始めるタイミング、約85〜90℃)になったら昆布を入れ、出てきたアクをていねいにすくい取ります。昆布は沸騰した状態で長時間入れておくと、ぬめり成分やえぐみが溶け出して濁りの原因になるため、泡立ちが激しくなる前に取り出すのが正解です。
その後、弱火にして10〜15分ほど静かに煮出します。グツグツと強く沸かすと、だしが濁ってにごった仕上がりになります。ポコポコとゆっくり沸き立てる状態が理想です。
⚠️ 煮る時間は最大30分まで。 30分を超えると旨味成分の抽出が頭打ちになり、代わりに脂質の酸化臭や骨の嫌な臭みが溶け出してしまいます。時間に注意すれば大丈夫です。
仕上げにキッチンペーパーを敷いたざるでゆっくり漉します。この際、ぎゅっと押しつけたり、早く漉そうとして力を加えるとだしが濁ります。自然に落ちるのを待つのが原則です。濃い琥珀色の透き通った鯛だしが取れたら完成です。
鯛だしは冷蔵で2〜3日、冷凍なら約1か月保存が可能です。製氷皿で小分けに冷凍しておくと、1回分ずつ使いやすくて便利です。
白ごはん.com「鯛のお吸い物(うしお汁・あら汁)のレシピ」— 霜降りから昆布のタイミングまで写真付きで詳しく解説されている信頼性の高いレシピサイト
基本の鯛だしをさらにレベルアップさせるための、料理研究家や和食のプロが実践しているテクニックを紹介します。意外ですね。
① 生姜を加えるだけで臭みゼロに近づく
生姜には「ショウガオール」「ジンゲロール」という成分が含まれており、魚の臭み成分と結びついて臭いを中和する効果があります。スライス1〜2枚を水の段階から入れるだけ。だしに生姜の風味が強く出すぎることはなく、仕上がりがぐっとすっきりします。使うのはごく少量で十分です。
② アラを焼いてから使う「焼き出し」で香ばしさをプラス
下処理が終わったあらを魚焼きグリルで両面をしっかり焼いてから水と一緒に煮出す方法が「焼き出し」です。特に皮の部分はパリッとするまで焼くのがポイントで、焦げ目をつけることでメイラード反応(加熱による香ばしさ)が生まれ、香ばしく深みのあるだしになります。
煮出し法は栄養素が溶けやすく出やすい点が利点ですが、焼き出し法は香りの豊かさで勝ります。目的に合わせて使い分けましょう。お吸い物や茶碗蒸しなら「煮出し」、炊き込みご飯やリゾット系なら「焼き出し」がおすすめです。
③ 昆布との相乗効果でグルタミン酸が倍増する
鯛に含まれる旨味成分は主に「イノシン酸」、昆布の旨味は「グルタミン酸」です。この2種類を合わせると、旨味を感じる力が数倍に跳ね上がる「旨味の相乗効果」が生まれます。単純に足し算ではなく、かけ算で旨味が増すということです。これは使えそうです。
昆布は水に30分以上浸してから火にかけるとより効果的にグルタミン酸が溶け出します。時間がない場合は1〜2時間浸けておくと理想的です。
KOJIROブログ「鯛出汁の取り方 — 臭みをとって旨味を倍増させるやり方」— 生姜・昆布・浄水を使ったプロ技の詳細を丁寧に解説しているブログ記事
鯛だしを取ったら、使い切りにするのはもったいないです。だしを取った後のあらから身をほぐして使えば、もう1〜2品分の食材が確保できます。1パック100〜200円のアラから複数の料理ができるので、食費節約にも直結します。
活用レシピの具体例:
だしを取った後のあらからほぐした身は、冷蔵庫で1〜2日保存が可能です。炒飯に混ぜたり、お茶漬けの具材にしたり、和風パスタに使うなど、捨てるところがほぼゼロというのが鯛アラ活用の醍醐味です。
スーパーではとくに夕方以降に値引きシールが貼られることが多いので、タイミングよく買えると1パック100円以下になることもあります。鮮魚コーナーをチェックする習慣をつけるだけで、食費を抑えながら本格的なだしが取れます。
おだしの教室ねこまんま「和風・鯛アラだしの取り方」— 煮出し・焼き出しの2種類の方法と活用レシピを、だし専門教室の視点でわかりやすく解説したページ