市販のテールスープを使えば栄養は十分と思っているなら、実はコラーゲン量が自家製の約5分の1しか摂れていない可能性があります。
テールスープとは、牛の尾の骨(テール)を長時間じっくり煮込んで作るスープのことです。「テール」は英語で「tail(尾)」を意味し、骨の周りにゼラチン質や脂身、赤身の肉が複雑に絡み合った部位を指します。この部位を数時間煮込むと、骨の中から旨味成分とコラーゲンが溶け出し、白濁したこっくりとしたスープになります。
このスープの起源は韓国料理にあります。韓国では「ソコリクッ(소꼬리국)」と呼ばれ、牛の尾を塩や薬味だけでシンプルに仕上げる料理として古くから親しまれてきました。日本にはおもに在日コリアン文化を通じて伝わり、焼肉店のサイドメニューとして広く普及しました。現在では家庭でも作られるようになり、スーパーでテール肉が手に入る地域も増えています。
テールスープは韓国料理のイメージが強いですが、実は西洋にも「オックステールスープ(Oxtail Soup)」として同様の料理が存在します。イギリスでは17世紀頃から牛の尾を使ったスープが食べられており、フランス料理でも「ポタージュ・ドゥ・クー・ド・ブフ」として知られています。文化を超えて「骨付き肉を長時間煮込む」という調理法が世界中で生まれたのは、それだけ旨味と栄養が豊富な部位だからこそです。
つまりテールスープは世界共通の知恵の料理です。
日本のスーパーでは「牛テール」として販売されており、価格は100gあたり200〜400円程度が相場です。1回のスープに使う量は一般的に400〜600g前後で、4人家族なら1〜2食分が目安になります。焼肉店での一杯あたりの価格は700〜1,200円ほどが多く、自家製であれば半額以下で同等の味が楽しめます。これは使えそうです。
テールスープが注目される最大の理由は、その豊富な栄養素にあります。もっとも代表的なのがコラーゲンです。牛テール100gあたりのコラーゲン含有量は約5〜8gとされており、これは鶏の手羽先や豚バラ肉と比べてもトップクラスです。コラーゲンは皮膚の弾力維持・関節軟骨の保護・腸の粘膜保護といった役割を担っており、40代以降に分泌量が急激に低下することが知られています。
コラーゲンが基本です。
鉄分も見逃せない栄養素です。牛テール100gには約2.5〜3mgの鉄分が含まれており、これは成人女性の一日の推奨量(10.5mg)の約25〜28%に相当します。鉄分は動物性食品由来の「ヘム鉄」として含まれているため、植物性食品の鉄分(非ヘム鉄)と比べて体内への吸収率が約2〜3倍高いのが特徴です。貧血気味の方や月経がある女性に特におすすめできる食材です。
さらに亜鉛も豊富に含まれています。亜鉛は免疫機能の維持・味覚の正常化・細胞の修復に関わるミネラルで、牛テール100gあたり約4〜6mgが含まれています。成人女性の一日の推奨量が8mgですから、テールスープ一杯でほぼ半量をカバーできる計算です。
栄養が豊富ということですね。
一方で注意が必要なのが脂質です。牛テールは脂身が多く、100gあたり約20〜30gの脂質が含まれています。スープとして食べる場合、表面に浮かぶ白い脂を取り除くか、冷蔵庫で一晩冷やして固まった脂を除去することで、カロリーを大幅に抑えることができます。脂を除去するだけで、同じ量のスープのカロリーが約30〜40%カットできるという目安もあります。
冷やして脂を除くのが基本です。
カロリーが気になる場合は、スープを翌日に食べることを前提として調理するとよいでしょう。冷蔵保存中に脂が白く固まるため、スプーンで簡単に取り除くことができます。余分な脂を除いたスープは、旨味はそのままにカロリーだけを抑えた理想的な一杯になります。
テールスープ作りで最初につまずくのが下処理です。下処理を怠ると、独特の獣臭さや血のアクが強く出てしまい、せっかくの旨味が台無しになることがあります。正しい下処理を覚えれば、臭みゼロのクリアなスープが誰でも作れます。
まず最初に行うのが「血抜き」です。牛テール全体を冷水に浸し、1〜2時間ほどおきます。水が赤く濁ってきたら水を替え、これを2〜3回繰り返します。この工程だけでアクの量が大幅に減り、仕上がりのスープの透明感が全く変わります。時間がない場合は最低でも30分は水に浸してください。
次に「下茹で」を行います。鍋に牛テールと水を入れて強火にかけ、沸騰したら5〜10分ほど茹でます。その後お湯を捨て、テールをキッチンペーパーで丁寧に拭くか流水で洗い流します。この下茹でで残っている血液・骨の破片・余分な脂が除去され、本茹での段階でアクがほとんど出なくなります。
下茹では必須です。
臭み消しにはショウガが効果的です。薄切りにしたショウガを3〜4枚、本茹での段階で一緒に入れると、ショウガに含まれるジンゲロールという成分が肉の臭み成分と結合し、においを中和してくれます。長ネギの青い部分(通常は捨てる部分)を2〜3本入れるのも同様の効果があります。どちらも仕上げに取り除くだけなので手間がかかりません。
これは使えそうです。
塩については、下処理の段階では入れないことが重要です。塩を早く入れると肉が締まってしまい、旨味成分やコラーゲンがスープに溶け出しにくくなります。味付けは煮込みがすべて終わった最後の段階で行うのが基本中の基本です。下処理から最終調味まで、一連の流れを頭に入れておきましょう。
テールスープの本煮込みには大きく2つの方法があります。「普通の鍋でじっくり煮込む方法」と「圧力鍋で短時間で仕上げる方法」です。それぞれに特徴があるので、自分のライフスタイルに合わせて選ぶとよいでしょう。
普通鍋の場合、弱火〜中火で3〜4時間煮込むのが目安です。この長時間加熱によって骨の中の髄(ボーンマロウ)が溶け出し、スープがまろやかなコクを持ちます。コラーゲンがゆっくりと溶け出すことで、冷やすとプルプルのゼリー状に固まるほどの濃度になります。ガスを使いっぱなしになるため、光熱費は1回あたり約30〜50円ほどかかりますが、その分スープの深みが増します。
普通鍋なら深みが出ます。
圧力鍋を使う場合、加圧時間は40〜50分が目安です。圧力鍋の内部温度は約120℃に達するため、普通鍋の3〜4時間分の加熱効果を短時間で得られます。栄養素の損失も普通鍋と大きな差はなく、コラーゲン量もほぼ同等です。忙しい平日に作りたい場合や、電気代・ガス代を節約したい場合には圧力鍋が圧倒的に便利です。
コラーゲンは変わりません。
水の量は肉の重さの約3〜4倍が目安です。たとえばテール500gなら水1,500〜2,000mlから始めると、煮込んだ後に適切な量のスープが残ります。途中で水が減ってきたら水を足してOKですが、スープが薄まるのが気になる場合は途中では足さず、最後の段階で塩加減を調整する方法が旨味をキープしやすいです。
煮込み後の味付けはシンプルが一番です。塩小さじ1〜2(4人分)、お好みで白こしょうを少々。韓国風にするなら薄口醤油を少量加え、刻んだネギとゴマを散らすだけで本格的な仕上がりになります。余ったスープはそのまま冷凍保存でき、1ヶ月ほど風味を保つことができます。
テールスープはそのまま飲むだけでなく、他の料理への応用幅が非常に広いスープです。市販のコンソメや鶏がらスープの素と同じ感覚で使うことができ、しかも旨味の深みが段違いです。このストック活用法を知っているかどうかで、毎日の料理のクオリティが大きく変わります。
もっとも手軽なアレンジは「ラーメンのスープベース」です。市販のラーメンを作る際に、お湯の代わりにテールスープを使うだけで、まるで専門店のような骨太の旨味が出ます。醤油ラーメンのつゆをテールスープで溶くと、既製品とは思えないコクが生まれます。子どもにも喜ばれる味になりやすく、残り物のスープの活用法として覚えておくと重宝します。
これは使えそうです。
「リゾット」への活用もおすすめです。テールスープでご飯を煮込むだけで、特別な食材なしに本格リゾットが完成します。パルメザンチーズを加えて仕上げると、イタリアンのオックステールリゾットに近い味わいになります。前日の残りスープを翌朝のリゾットに使う習慣をつけると、食材ロスもなくなります。
余ったスープは捨てないのが鉄則です。
少し意外な活用法として「カレーのベース」があります。テールスープをカレーのルウを溶かす水代わりに使うと、動物性の旨味がカレー全体にまわり、隠し味なしでも深みのある味になります。市販のルウ1箱に対してテールスープ700〜800mlが目安です。カレーに使い切れない場合は、製氷トレーに入れて凍らせておくと、必要なときに1キューブ単位で取り出せて便利です。
スープキューブにしておくと便利です。
最後に、テールスープは「離乳食のだし」としても優れた食材です。無塩で作ったテールスープを薄めて使うことで、コラーゲンとミネラルが豊富なだしとして活用できます。もちろん使う際には脂を完全に除去し、アレルギーの確認を小児科医に相談してから使うことが前提です。市販の離乳食だしでは補いにくい動物性栄養を自然な形で取り入れられる点は、一般にはあまり知られていない活用法といえます。