野菜の皮を捨てると、中身の30倍以上の健康成分も一緒に捨てています。
フィトケミカル(Phytochemical)という言葉は、ギリシャ語で「植物」を意味する「フィト(phyto)」と、英語で「化学物質」を意味する「ケミカル(chemical)」を組み合わせた言葉です。日本語に直訳すると「植物性化学物質」になりますが、その実態は非常に興味深いものです。
植物は動物とちがって、生まれた場所からずっと動くことができません。強い紫外線、害虫、細菌、ウイルスなど、さまざまな脅威にさらされながらも、その場で生き続けなければいけないのです。そこで植物が進化の過程で生み出したのが、フィトケミカルという自己防衛物質です。
フィトケミカルは、野菜や果物の「色・香り・辛み・苦み・渋み」といった成分に多く含まれています。たとえば、ブルーベリーの濃い紫色はアントシアニン、トマトの鮮やかな赤色はリコピン、緑茶の渋みはカテキン、玉ねぎの独特の辛みはアリシンがそれぞれ関係しています。これらはすべてフィトケミカルです。
五大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル)に食物繊維を加えた六大栄養素はよく知られていますが、フィトケミカルはその次に位置する「第七の栄養素」と呼ばれるようになっています。つまり第七の栄養素です。厳密には栄養素の定義からは外れる「機能性成分」に分類されますが、健康維持への貢献という点では引けをとらない重要な存在です。
現在すでに発見・解明されているフィトケミカルは約1,500種類以上に上り、未発見のものを含めると推定で100万種類を超えるとも言われています。研究はまだ途上です。一つの食材の中にも複数種類が含まれており、たとえばトマト一つをとっても、リコピンだけでなく約109種類ものフィトケミカルが含まれているとされています。
ファイトケミカルとは|公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」(ポリフェノール・カロテノイド・含硫化合物など主な種類と抗酸化力についての解説)
フィトケミカルの種類は多岐にわたりますが、大きく3つのグループに分けると理解しやすくなります。「ポリフェノール」「カロテノイド」「含硫化合物(硫黄化合物)」の3つが主要なグループです。これが基本です。
ポリフェノールは水溶性で、紫・赤・茶色などの色素や苦み・渋みに関わる成分です。アントシアニン(ブルーベリー・なす・ぶどう)、カテキン(緑茶)、イソフラボン(大豆)、セサミン(ごま)などが代表例です。特に強力な抗酸化作用が知られており、生活習慣病の予防や老化防止への貢献が期待されています。
カロテノイドは脂溶性の色素成分で、赤・橙・黄色の野菜に多く含まれます。人参やかぼちゃのβ-カロテン、トマトのリコピン、ほうれん草・ブロッコリーのルテインが代表的です。注目すべきは、カロテノイドの抗酸化力がビタミンEを大幅に上回る点で、リコピンはビタミンEの約100倍、アスタキサンチン(エビ・カニ・イクラ)にいたってはビタミンEの約1,000倍もの抗酸化力を持つとされています。これは使えそうです。
含硫化合物は、硫黄を含む成分で独特のにおいや辛みが特徴です。玉ねぎ・にんにく・ねぎのアリシン、ブロッコリー・キャベツのイソチオシアネートやスルフォラファンなどが代表例で、強い殺菌・抗菌作用も持っています。
| 色 | 代表的なフィトケミカル | 多く含む食材 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| 🔴 赤・橙 | リコピン、β-カロテン | トマト、にんじん、かぼちゃ | 抗酸化、老化防止 |
| 🟣 紫・赤紫 | アントシアニン | ブルーベリー、なす、ぶどう | 抗酸化、目の疲労軽減 |
| 🟢 緑 | クロロフィル、ルテイン | ほうれん草、ブロッコリー | 抗がん作用、コレステロール抑制 |
| ⚪ 白・淡黄 | アリシン、ケルセチン | 玉ねぎ、にんにく、大根 | 殺菌、血液サラサラ |
| 🟤 茶・黒 | カテキン、セサミン | 緑茶、ごま、コーヒー | 抗酸化、免疫力強化 |
食材を選ぶ際は「今日の食卓に何色あるか」を意識するだけで、自然と多種類のフィトケミカルを摂ることができます。特定の色ばかり偏らず、5色をバランスよく取り入れるのが理想です。色をそろえることが条件です。
植物の力でより健康に!話題のフィトケミカル|山梨県厚生連健康管理センター(色別フィトケミカルの種類と期待される健康効能を一覧で確認できます)
フィトケミカルがなぜ健康に良いのか。その核心は「抗酸化作用」にあります。私たちは生きているだけで呼吸によって酸素を取り込んでいますが、その一部は「活性酸素」という不安定な物質に変化します。活性酸素は体の細胞を傷つけ、老化・がん・動脈硬化・生活習慣病などの原因になると考えられています。
体には本来、活性酸素を無害化する仕組みが備わっていますが、加齢・紫外線・ストレス・喫煙・不規則な食生活などによって活性酸素が増えすぎると、その処理が追いつかなくなります。これを「酸化ストレス」と呼び、いわば体が「サビる」状態です。
ここでフィトケミカルが力を発揮します。植物は強い紫外線にさらされるため、自分自身を酸化ダメージから守るために強力な抗酸化物質を作り出しています。その植物が作った抗酸化物質を食べることで、私たちの体内でも同じように抗酸化の働きをしてくれるのです。
フィトケミカルの抗酸化力はビタミンCやビタミンEよりもはるかに強力で、リコピンはビタミンEの約100倍、プロアントシアニジン(ブドウの種などに含まれる)はビタミンCの約20倍とも言われています。つまり同じ野菜を食べるにしても、フィトケミカルを意識するかどうかで、体への影響は大きく変わります。
フィトケミカルが研究の注目を集めたきっかけは、1982年にアメリカ国立科学アカデミーが発表した「食物・栄養とがん」というレポートです。野菜を多く食べる人はがんの罹患率が下がるというデータをもとに、アメリカ国立がん研究所(NCI)がその有効成分を特定する研究を進めました。その結果として注目されたのが、植物に含まれるフィトケミカルでした。研究が進むにつれ、がん予防だけでなく、免疫力の強化・老化抑制・動脈硬化予防・血糖値の安定化など、多岐にわたる健康効果が明らかになっています。
ファイトケミカルとは?種類や効果的な摂取方法について解説|日本トリム(抗酸化力の比較数値やビタミンCとの差、研究の歴史について詳しく解説)
多くの方が毎日何気なく「捨てている」部分に、フィトケミカルが集中しているという事実はあまり知られていません。意外ですね。野菜や果物の皮・ヘタ・種といった部分は、植物が外敵や紫外線と直接戦う最前線の場所であるため、防衛物質であるフィトケミカルが特に豊富に蓄積されているのです。
その最もわかりやすい例が玉ねぎです。玉ねぎの皮に含まれるケルセチン(ポリフェノールの一種)の量は、中の可食部と比べて20〜30倍以上にのぼるという研究データがあります。つまり毎回捨てている茶色い外皮こそが、健康成分の宝庫だということです。
他にも、にんじんの皮にはβ-カロテンが豊富、大根の皮にはビタミンCやイソチオシアネートが多く、かぼちゃのわた(種周りのスジ)にもβ-カロテンが凝縮されています。ほとんどの野菜で、外側・皮・種のほうが内側より栄養が濃いというのが共通の傾向です。
農薬が気になる場合は、皮ごと使う食材は国産・有機栽培のものを選ぶのがおすすめです。実際に研究でも、オーガニック野菜は一般的な野菜に比べてフィトケミカルの含有量が10〜50%高いと報告されています。国産なら問題ありません。
皮を捨てずに活用する方法として手軽なのが「ベジブロス」です。野菜の皮・ヘタ・種などのくずを水から煮出してスープにする方法で、具は食べられませんが、フィトケミカルをたっぷり含んだ出汁として活用できます。冷凍保存しておいたくず野菜を使えば、毎日少しずつ積み上げることができます。
捨てないで!野菜の皮の知られざる栄養効果|食オタMAGAZINE(ベジブロスの作り方と、野菜のくずに含まれるフィトケミカルの詳細)
野菜をそのまま生で食べても、実はフィトケミカルの多くは体内に吸収されにくい状態です。フィトケミカルは植物の細胞の中に閉じ込められており、その細胞を包む「細胞壁」はセルロース(植物繊維)でできた非常に固い構造をしています。どうすればいいでしょうか?
人間はセルロースを分解する酵素を持たないため、生野菜をそのまま食べても細胞壁は十分に壊れず、フィトケミカルの多くが包まれたまま排出されてしまいます。しかし、野菜を加熱すると細胞壁が壊れ、中のフィトケミカルがしっかりと外に出てきます。ここが重要です。
加熱してスープにすると、フィトケミカルは煮汁に溶け出します。研究によれば、スープ全体の約8〜9割のフィトケミカルが汁のほうに出るとされています。つまりスープを飲み切ることが大切で、具だけ食べて汁を残すと大部分の健康成分を逃すことになります。
ハーバード大学医学部元准教授の高橋弘先生が考案した「ファイトケミカルスープ」は、日本で一年中手に入る4種類の野菜だけで作れるシンプルなレシピです。
作り方は、野菜を一口大に切り、水とともに鍋に入れて沸騰させ、蓋をして弱火で20〜30分煮込むだけです。調味料は一切加えず、素材だけで作るのがポイントです。フィトケミカルの多くは水溶性かつ揮発性があるため、蓋をしっかり閉じて湯気を逃がさないことも大切です。
飲む量の目安は1回200ml、1日400〜600mlが目安です。朝の空腹時や食前に飲むと吸収がよくなります。残ったスープは野菜ごと冷凍保存すれば2週間ほど保存でき、解凍時に細胞壁がさらに壊れてより成分が濃くなるという副次効果もあります。これは使えそうです。
なお、アリシン(にんにく・玉ねぎ)やスルフォラファン(ブロッコリー)など、一部加熱に弱いフィトケミカルもあるため、これらはサラダや軽い炒め物など生に近い状態で別途取り入れると、より幅広い種類のフィトケミカルを摂ることができます。
ファイトケミカルスープ|麻布医院(高橋弘院長によるレシピの詳細と飲み方・保存方法)
フィトケミカルの知識を持っていても、毎日の献立に落とし込むのが難しいと感じる方は多いでしょう。難しいところですね。そこでおすすめしたいのが、「今日の食卓に何色あるか」を数えるだけの「色ルーティン」という考え方です。栄養計算も難しい知識も不要で、視覚的に判断できます。
基本のルールはシンプルで、一日の食事全体で「赤・橙・緑・紫・白」の5色を揃えることを目標にします。完璧に揃える必要はなく、3〜4色あれば十分です。3色以上なら問題ありません。
また、意外と見落とされがちなのがお茶やスパイスです。緑茶に含まれるカテキンは強力なポリフェノールですし、生姜に含まれるショウガオール、ローズマリーに含まれるシオネール、みょうがのα-ピネンなども立派なフィトケミカルです。毎日の一杯のお茶や薬味を意識するだけで、フィトケミカルの摂取量はぐっと増えます。
もう一つの盲点が「旬」の概念です。旬の野菜はそうでない時期の野菜に比べて、フィトケミカルの含有量が高い傾向があります。植物は厳しい環境(寒さ・強い日差しなど)にさらされるほど、自己防衛物質を多く作り出す性質があるためです。旬が基本です。スーパーでその季節の旬野菜を意識して選ぶことが、コストをかけずにフィトケミカルを増やす最も簡単な方法といえます。
毎日1杯のフィトケミカルスープ+食卓の5色意識+お茶の習慣という3つのルーティンを組み合わせることで、特別な食材を買い足すことなく、日常の食事の質を大きく底上げできます。継続しやすい形で習慣化することが、長期的な健康維持への近道です。
摂取量1位は何色?5カラーの野菜をバランスよく食べよう!|アムウェイ(5色の野菜と含まれるフィトケミカルの種類、偏りやすい色の傾向など)
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【中古】 7色野菜のスープレシピ 免疫力と抗酸化力を高めるレインボー食材とフィトケミカルの力/白澤卓二,ダニエラシガ【著】