「介護食」と聞いて買いに行ったら、スーパーの棚にほとんど置いていなかった、という経験はありませんか。
市場調査会社・矢野経済研究所の調査によれば、2023年度の介護食・高齢者食・病者食を合算した国内市場規模は加工食品ベースで約1,998億円に達しています。富士経済の予測では、2025年には2,000億円を超えると見られており、高齢者向け食品は今まさに急成長中の市場です。
ところが、実際にスーパーで棚を見ると、介護食コーナーはごく小さな一角だけということも珍しくありません。これが不思議なのですが、理由がきちんとあります。
実は、食品メーカーの多くは「高齢者用」「介護食」という言葉をパッケージに大きく書くことを意図的に避けています。これは単なるイメージ戦略ではなく、「高齢者用」と明記すると購買意欲が下がるという業界内での長年の通説があるからです。日本食糧新聞の報道でも、「"高齢者用"と明記すると売れ行きにマイナスの影響を及ぼすとの見方がいまだに強い」と指摘されています。
つまり、あなたがスーパーで「高齢者向け食品」を探して見つからなくても、それは商品がないのではなく「ユニバーサルデザインフード(UDF)」や「やわらか食品」という名前で並んでいるだけなのです。これが基本です。
また、ドラッグストアでは一般食品に比べて回転率の低い介護食の棚を広げにくいため、メーカーは通販(AmazonやYahoo!ショッピングなど)に力を入れる戦略をとっています。「近所で買えない」と感じているなら、まず通販で探すのが時間の節約になります。
高齢者向け食品の市場規模と2025年予測 - Care Show Japan(市場の現状と今後の拡大規模について記載)
高齢者向け食品を選ぶ際に、最初に把握しておきたいのが「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の区分です。これは日本介護食品協議会が設けた規格で、パッケージにマークと区分番号が表示されています。4段階に分かれており、それぞれ下記のような食べる力の基準に対応しています。
| UDF区分 | 目安の状態 | 食感のイメージ |
|--------|-----------|-------------|
| 区分1 容易にかめる | 硬いものや大きいものが少し食べにくい | 柔らかいハンバーグ程度 |
| 区分2 歯ぐきでつぶせる | 歯がほとんどない・入れ歯が合わない | 豆腐程度のやわらかさ |
| 区分3 舌でつぶせる | 水や汁物でむせることがある | なめらかなお粥程度 |
| 区分4 かまなくてよい | 飲み込む力も弱まっている | ゼリー・ペースト状 |
区分を間違えると食事事故につながることもあるため、まず親御さんの現在の噛む力・飲み込む力を確認することが先決です。かかりつけ医や歯科医、ケアマネジャーに相談して確認するのが確実なやり方です。
一方で、区分が進んでいる方向けの食品ほど見た目が悪くなりやすいというデメリットもあります。ただし近年のメーカーは、区分4でも料理の色や形をデザインし直した商品を出しています。食欲を保つためにも見た目は重要です。
なお、UDFと似た制度として、農林水産省が推進する「スマイルケア食」という区分もあります。スマイルケア食は消費者が選びやすいよう農水省が整理した分類で、UDFはメーカー側の自主基準です。どちらもパッケージに表示されている場合があるため、混同しないよう注意が必要です。
日本介護食品協議会 加盟企業一覧(UDF認定に参加しているメーカー一覧が確認できます)
高齢者向け食品の市場で存在感が大きいのが、キユーピー、アサヒグループ食品、そして森永乳業クリニコの3社です。それぞれの特徴を整理します。
キユーピー「やさしい献立」シリーズは、1999年に発売が始まり、実は日本で初めて家庭用の介護食を販売した会社として知られています。20年以上の歴史があります。現在のラインナップは全54品で、UDF4区分すべてに対応しています。特徴はごはんもの・おじや・麺類が充実していること。塩分も100gあたり1.0g以下に抑えた商品が多く、減塩が必要な方に向いています。公式サイトには69種類以上のアレンジレシピも公開されており、毎日の献立のバリエーションを広げやすいのが強みです。
アサヒグループ食品「バランス献立」シリーズは2001年から展開されており、ラインナップは45種類です。おかずの種類が豊富で、赤・黄・緑の3色食品群に対応したパッケージカラーが採用されているため、栄養バランスを視覚的に管理しやすいメリットがあります。また、パウチが真っ直ぐ切れる構造になっており、手が不自由な方でも開けやすい設計です。2023年には「スプーンで食べるおもち」という新商品も登場し、高齢者が食べにくくなる代表格の餅を安全に楽しめる点が話題になっています。ドラッグストアでの取り扱いが多い印象です。
森永乳業クリニコ「エンジョイシリーズ」は、栄養補助飲料や濃厚流動食に強みを持つブランドです。特に「エンジョイプロテインFeZ」などたんぱく質補給に特化した商品は、フレイルや低栄養が心配な高齢者の家族から支持を集めています。固形食が困難になった段階でも栄養をしっかり補給できる選択肢を豊富に持つのがクリニコの強みです。クリニコは医療・介護施設向けの流通がメインのため、一般のスーパーよりも通販や専門サイトで買うのが基本です。
まとめると、普通の食事に近いおかずやごはんを食べてほしい段階ではキユーピーかアサヒ、栄養補給ドリンクや流動食が必要な段階ではクリニコ、という選び分けが使いやすいです。
レトルト介護食を比較!キューピー「やさしい献立」vsアサヒ「バランス献立」(実際に管理栄養士が両社の製品を比較した詳細レポート)
最近のメーカーが特に力を入れているのが、「フレイル予防」を打ち出した高齢者向け食品です。フレイルとは、加齢によって筋肉量や身体機能が低下した虚弱な状態のことで、放置すると要介護状態に進む可能性があります。厚生労働省のデータでも、たんぱく質の摂取量不足が筋肉量の低下につながると明記されています。
ここで重要な点があります。高齢者のたんぱく質の必要量は、実は若い人と同じか、それ以上とされています。体重1kgあたり1.0〜1.2gが目安で、体重50kgの方なら1日に50〜60gのたんぱく質が必要です。これはゆで卵なら約8〜10個分に相当します。一度に大量に食べるのではなく、毎食均等に分けて摂ることが吸収効率を高めるコツです。
この「毎食のたんぱく質補給」という場面に対応した製品として、アサヒグループ食品やネスレ(アイソカル)などが高カロリー・高たんぱくのゼリーや飲料を展開しています。食欲が落ちて食事量自体が減っているシニアに、1パック(100〜125ml程度)で高カロリー・高たんぱくを補える点が大きな特徴です。
ただし注意が必要なのは、腎臓機能が低下している高齢者の場合、たんぱく質の摂りすぎが腎臓に負担をかけることです。これは健康情報として見落とされがちです。高たんぱく商品を選ぶ前に、かかりつけ医に相談することを強くおすすめします。たんぱく質が条件です。
また、フレイル予防食品として市販されていても、「機能性表示食品」と「一般食品」では科学的根拠の水準が異なります。機能性表示食品であれば事業者が根拠を届け出ているので、選ぶ際の目安のひとつになります。
厚生労働省:食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業(高齢者のたんぱく質摂取と筋肉維持に関する公式資料)
実際に親の介護食を選んでいる主婦の声を見ると、最も多いのが「区分を間違えて購入した」「スーパーで見つからなくて困った」という経験です。区分ミスは健康リスクに直結するため、特に注意が必要な点です。
まず区分ミスのパターンですが、多いのは「やわらかければ何でも同じ」と思って区分1の商品を区分3が必要な方に出してしまうケースです。区分1(容易にかめる)はある程度歯で噛む必要があるため、噛む力が弱い方が食べると誤嚥(食べ物が気道に入ること)のリスクがあります。パッケージに書かれているUDF区分の数字を毎回確認することが習慣になれば防げます。
次に買い場の問題です。先述の通り、ドラッグストアや一般スーパーでは品揃えが限られています。日常的にまとめ買いするなら、Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピングや「ヘルシーネットワーク」などの介護食専門通販サイトを活用すると、1点あたりのコストも抑えられます。キユーピー「やさしい献立」は180〜190円/袋が参考小売価格ですが、通販でまとめ買いすると一袋あたり150〜160円台になることも多いです。これは使えそうです。
「急に必要になった」「今日の分だけ欲しい」という場合は、ウエルシアやツルハなどの大手ドラッグストアチェーンが比較的取り扱いが多いので、まずそちらを探してみましょう。
さらに、在宅介護をしている方が見落としがちなのが「宅配弁当サービス」の活用です。まごころケア食・食宅便・ウェルネスダイニングなどは、冷凍でやわらか食やムース食を自宅まで届けてくれます。自分で食品を選んで調理する手間をすべて省けるため、忙しい家族にとって現実的な選択肢になります。料金は1食あたり500〜700円程度が多く、市販のレトルトより高いですが、毎日の負担軽減を考えると費用対効果は高いと言えます。
介護食を売っている場所はどこ?各購入場所のメリット・デメリット(購入経路ごとの詳しい比較が掲載されています)