「シュガーレスのお菓子を選んでいるから、虫歯になっても歯磨きをしっかりすれば問題ない」と思っていませんか?
マルチトールとは、トウモロコシなどのデンプンを原料とした「麦芽糖(マルトース)」に水素を添加して作られる糖アルコールの一種です。甘味度は砂糖の約80〜90%で、後味がすっきりしている点が特徴です。
まず、虫歯がどうやってできるのかを整理しておきます。口の中には「ミュータンス菌」と呼ばれる虫歯菌が存在していて、私たちが食事で砂糖(スクロース)を摂ると、それを分解して「酸」を産生します。この酸が歯の表面のエナメル質を溶かす「脱灰」を引き起こすことで、虫歯が進行します。
ポイントはここです。マルチトールは、虫歯菌がこの「酸産生」のために分解できる構造を持っていません。日本小児歯科学会誌に掲載された動物実験(ラット実験)においても、マルチトールを投与したラットには明確な齲蝕(虫歯)が誘発されなかったという結果が示されています。つまり「虫歯になりにくい甘味料」として、科学的な裏付けがあるのです。
非う蝕性(虫歯の原因にならない)という特性が認められています。
さらに注目したいのが、虫歯菌が砂糖を分解する過程で産生する「グルカン」というネバネバ物質の話です。このグルカンが歯に付着して歯垢(プラーク)を形成し、虫歯菌の足場となります。マルチトールにはこのグルカン合成を阻害する作用も確認されており、プラークの形成自体を抑える可能性が報告されています。酸産生を防ぐだけでなく、プラーク形成も抑える、これがマルチトールの二段構えの特性です。
これは使えそうです。
消費者庁が認める「特定保健用食品(トクホ)」の関与成分としても、マルチトールは「虫歯の原因になりにくい」「歯を丈夫で健康にする」という2つの機能で承認されています。シュガーレス食品の成分表に「還元麦芽糖」と書かれていることがありますが、これもマルチトールと同じものです。普段から確認する習慣をつけておくと、おやつ選びに役立ちます。
参考:J-STAGE「糖アルコール・マルチトールの抗齲蝕作用」(日本小児歯科学会誌)
「シュガーレスと書いてあるから、食べても絶対に虫歯にはならない」——この考え方は、半分正解で半分は危険な誤解です。
まず「シュガーレス」「ノンシュガー」「糖類ゼロ」という表示の定義を確認しましょう。これらはすべて同じ基準で、「食品100gあたりの糖類(単糖類・二糖類)が0.5g未満」というルールに基づいています。つまり、厳密に0ではなく、微量の糖類が含まれている可能性があります。
意外ですね。
注意が必要なのは、「口の中に長く留まるタイプの食品」です。たとえば、マルチトール入りの飴やグミ・ビタミンタブレットなどは、のど飴のように長時間口内に滞在します。マルチトール自体は虫歯菌のエサになりにくいとはいえ、一緒に微量含まれる別の糖分や食品カスが口の中に留まり続けると、pH(酸性度)が低下し続けて脱灰のリスクが生まれます。
口の中の酸性状態が長く続くことが問題なのです。
さらに「ダラダラ食べ」の問題があります。食事のたびに口の中は一時的に酸性に傾きますが、唾液の働きで20〜30分程度をかけて中性に戻ります(再石灰化)。ところが、シュガーレスのお菓子だからと安心してダラダラ食べ続けると、この再石灰化が追いつかなくなります。歯科医院でよく言われる「食間は2〜3時間あける」という理由は、まさにここにあります。
おやつは時間を決めるのが基本です。
また、マルチトール入りの食品であっても、他の原料として「砂糖」が一部含まれているケースもあります。市販のチョコレートやビスケットなどは、必ずしも甘味料がマルチトール100%というわけではありません。成分表示を見て、砂糖(スクロース)が記載されていないかを確認するクセをつけると、より安心です。シュガーレス食品でも、原材料の先頭に「砂糖」が来ている場合は注意が必要です。
マルチトールとよく比較されるのが「キシリトール」です。どちらも糖アルコールで虫歯になりにくい甘味料ですが、虫歯予防の「深さ」に違いがあります。
マルチトールは「虫歯の原因にならない=非う蝕性」という特性が強みです。虫歯菌が酸をほとんど産生できないため、日常のおやつに取り入れることで歯への負担を下げることができます。甘味度が砂糖の約80〜90%と非常に近く、チョコレートや焼き菓子など幅広い食品に使いやすいのもメリットです。カロリーも砂糖の約半分(1gあたり約2kcal)で、ダイエット中の方にも向いています。
一方、キシリトールの甘味度は砂糖とほぼ同じ100%で、1gあたり約3kcalです。つまりカロリーはマルチトールよりわずかに高め。しかしキシリトールには、単に「酸を産生しない」だけでなく、ミュータンス菌の活動そのものを弱らせ、継続摂取によって菌を減少させるという積極的な予防効果が報告されています。1日5〜10gを3〜4回に分けて食後に摂取することで、約2週間でプラーク中の菌が減り始めるとのデータもあります。
つまり「守り」のマルチトール、「攻め」のキシリトールということですね。
以下に比較をまとめます。
| 項目 | マルチトール | キシリトール |
|---|---|---|
| 甘味度(砂糖を100とする) | 約80〜90 | 約100 |
| カロリー(1gあたり) | 約2kcal | 約3kcal |
| 虫歯菌の酸産生 | ほぼなし | なし |
| 虫歯菌を直接弱らせる効果 | 限定的 | あり(継続摂取で菌数減少) |
| トクホ取得 | あり | |
| よく使われる食品 | チョコレート・焼き菓子・ガム | ガム・タブレット・歯科用製品 |
より積極的に虫歯予防をしたい場合は、食後にキシリトール含有率100%のガムを選ぶのが効果的です。ただし、市販品の多くはキシリトール以外の糖アルコールも含まれているため、「キシリトール100%」と明記された製品(歯科専売品など)を選ぶことが条件です。
一方、おやつを楽しみたい、低カロリーで砂糖に近い甘さを求めるなら、マルチトールが選択肢になります。
参考:日本トゥースフレンドリー協会「歯科常識のうそ」ページ
日本トゥースフレンドリー協会:砂糖ゼロとむし歯ゼロの誤解についての解説
スーパーやコンビニでシュガーレス食品を手に取ったとき、成分表示をきちんと読めていますか。「マルチトール」「還元麦芽糖」「還元麦芽糖水飴」はすべて同じ成分を指しています。この3つを頭に入れておくだけで、買い物のときにかなり役立ちます。
成分表示の読み方の基本として、原材料は「使用量の多い順」に記載されています。原材料リストの先頭に「砂糖」が来ている場合は、たとえパッケージにシュガーレスの表示があっても注意が必要です。砂糖(スクロース)がリストの後半にあるとしても、一定量が含まれているなら、虫歯リスクは0ではありません。
また、「ノンシュガー」と「シュガーレス」は法律上は同じ基準(100gあたり糖類0.5g未満)で同等の表示ですが、虫歯予防を重視するなら甘味料の種類にも目を向けましょう。以下のポイントを覚えておくと便利です。
食品の選び方が大切です。
子どものおやつを選ぶとき、特に迷いやすいのがチョコレート菓子やグミ・飴の類です。パッケージ表面の「シュガーレス」や「歯にやさしい」の文字だけを見て選ぶのではなく、成分表示の裏面で甘味料の種類を確認する習慣が、家族の虫歯予防につながります。
マルチトール入りのチョコレートとして市販されている代表的なものには、糖類ゼロをうたうシュガーレスチョコレートシリーズ(ロッテ・明治などのメーカーから発売)があります。成分表に「還元麦芽糖」「マルチトール」と記載されているものが多く、これらは特定保健用食品または機能性表示食品として消費者庁に届け出・承認されているものも存在します。購入時はトクホマークや「むし歯の原因になりにくい」などの表示も一つの目安にしましょう。
マルチトールを活用したシュガーレス食品は、賢く取り入れれば虫歯リスクを下げながらおやつを楽しめる、頼れる味方です。ただし、食べ方と日々のケアがともなわなければ、効果は半減します。ここでは、正しい食べ方と組み合わせるべき虫歯予防習慣を整理します。
まず、食べる「時間と回数」を決めることが最優先です。口の中は食事や間食をするたびに酸性に傾き、唾液の力でおよそ20〜30分かけて中性に戻ります。間食の回数が多ければ多いほど、口の中が酸性になっている時間が増え、歯が溶けやすい環境が続きます。これは、食べる内容がシュガーレスでも基本的に同様です。おやつは1日1〜2回、時間を決めてまとめて食べるのが原則です。
ダラダラ食いだけは避けましょう。
次に、食後の歯磨きは必ず行うことです。マルチトール自体が虫歯の直接原因にならないとしても、食べ物のカスや他の成分が歯に残れば虫歯菌の活動の場になります。歯ブラシの届かない歯と歯の間にはフロスや歯間ブラシを使い、物理的にプラークを取り除くことが不可欠です。「シュガーレスだから歯磨きをさぼっても大丈夫」という考え方は禁物です。
また、フッ素配合の歯磨き粉を使うことで、より効果的な虫歯予防が実現します。フッ素は歯の再石灰化を促進し、エナメル質を酸に強くする効果があります。市販品でも1450ppmのフッ素濃度の製品(チェックアップSTD・リペリオジェルなど)が購入でき、大人の虫歯予防に推奨されています。毎日の使用で虫歯抑制率が約40%向上するという報告もあります。
フッ素と組み合わせれば効果は高まります。
さらに、3〜6か月に1度の歯科医院での定期検診とプロクリーニング(PMTC)も組み合わせることで、自宅ではとれない歯石やプラークを除去できます。マルチトールで日々の虫歯リスクを下げながら、定期的なプロのケアで口腔環境を整えていくことが、長期的に歯を守る最善の方法です。
参考:厚生労働省eHealthnet「う蝕の原因とならない代用甘味料の利用法」
厚生労働省eHealthnet:代用甘味料の利用法と虫歯予防の関係(トクホの考え方も解説)

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