天然色素だから絶対に安全、とは言い切れません。
天然色素の赤というと、なんとなく「植物から取った安全なもの」というイメージを持つ方が多いと思います。ところが実際には、植物由来だけでなく昆虫由来のものも含まれており、その種類は非常に多岐にわたります。
代表的な天然色素の赤を以下にまとめました。
| 色素名 | 原料 | 色調 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| コチニール色素(カルミン酸色素) | コチニールカイガラムシ(昆虫) | 鮮やかな赤〜ピンク | ハム・かまぼこ・お菓子・飲料・化粧品 |
| ビートレッド(ビーツ色素) | 赤ビーツ(野菜) | 赤紫〜赤 | 乳飲料・明太子・チョコレート・ケーキ |
| パプリカ色素 | パプリカ(野菜) | オレンジ寄りの赤 | スナック菓子・ソース・スープ |
| アントシアニン系色素 | 赤キャベツ・赤大根など | 赤〜紫(pH依存) | ジュース・ゼリー・アイシング |
| ラック色素 | ラックカイガラムシ(昆虫) | 赤〜オレンジ | かまぼこ・清涼飲料 |
| クチナシ赤色素 | クチナシの実 | 赤〜赤紫 | 和菓子・惣菜・漬物 |
| ベニコウジ色素 | 紅麹(発酵食品由来) | 赤〜ピンク | かまぼこ・飲料・漬物 |
このように、天然色素の赤といっても原料はバラバラです。植物から抽出したものもあれば、昆虫から取るものもあります。
それぞれ色調の安定性や耐熱性も異なります。たとえばコチニール色素は熱にも光にも強く、発色がきれいで長持ちするため食品メーカーに重宝されてきました。一方のビーツ由来のビートレッドは、加熱すると色素成分「ベタニン」が分解されて退色しやすいという特徴があります。
手作りでビーツを使って赤く仕上げようとしたら、焼いたら茶色くなってしまった…という経験がある方もいるのではないでしょうか。これが天然色素の特性によるものです。用途に合った色素を選ぶのが基本です。
天然色素だから安心して使っていたのに、実はアレルギーリスクがあった——という話の代表格が、コチニール色素(カルミン酸色素)です。
コチニール色素は、中南米原産の「コチニールカイガラムシ(エンジムシ)」という昆虫を乾燥・粉砕して抽出した赤色色素です。虫から作られると聞くと驚く方も多いかもしれません。ただ実際の問題は見た目の原料よりも、アレルギーリスクにあります。
2012年に消費者庁がアナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)を起こす可能性があるとして正式に注意喚起を行いました。過去に1960年代から20件以上の事例報告があり、症状は以下のように幅広いです。
アレルギーの原因はコチニール色素そのものではなく、製造過程で完全に取り除けなかった昆虫由来のタンパク質です。つまり、「不純物」が引き金になるということです。
特に注意したいのが「化粧品を通じた感作」です。口紅やチーク、アイシャドウにもコチニール色素は使われています。化粧品で肌に繰り返し触れているうちにアレルギーが形成され、その後ジュースやハムなどを食べたときにアナフィラキシーが起きたという事例が報告されています。これは「経皮感作」と呼ばれる仕組みです。
意外ですね。
コチニール色素は以下のような食品に広く含まれています。
さらに、コチニール色素は食品アレルギーの特定原材料(義務表示)にも「特定原材料に準ずるもの」(推奨表示)にも現時点では指定されていません。そのため、表示を見落としやすいという問題があります。
原材料表示では「コチニール色素」「カルミン酸色素」「着色料(コチニール)」「着色料(カルミン酸)」などと書かれていますが、表記が統一されていないため見逃しやすいのが実情です。心当たりのある症状がある場合、アレルギー専門医への相談をおすすめします。
消費者庁によるコチニール色素のアレルギーに関する公式情報はこちらが参考になります。
コチニール色素を含む食品によるアレルギーについて(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002i78m-att/2r9852000002i7hi.pdf
家庭でお菓子や料理に天然色素の赤を使いたい場合、選択肢はいくつかあります。それぞれの特性を理解して使うと、仕上がりが格段に変わります。
まず最もポピュラーな方法が、ビーツを使った着色です。赤ビーツは「ベタニン」という赤紫の色素を含む野菜で、ピューレにしてケーキ生地やアイシングに混ぜると自然な赤〜ピンク色に仕上がります。ただし注意点が一つあります。
ビーツの色素は80℃以上の加熱で分解が始まり、焼成すると色が褪せたり茶色みが強くなりやすいです。焼き菓子に使う場合は、発色を期待しすぎず、むしろクリームやアイシングへの使用に向いています。色を鮮やかに保ちたいなら、酢やレモン汁(酸性条件)を少量加えると退色を抑える効果があります。
これは使えそうです。
次に、ビーツパウダーという選択肢もあります。乾燥したビーツを粉末にしたもので、少量で発色し水分調整が不要なため扱いやすく、市販品として購入できます。ただしパウダー自体に糖度があり固まりやすい特性があるため、保管は密閉容器で冷暗所が基本です。
パプリカ色素はオレンジ寄りの赤色が出る色素で、手作りには乾燥パプリカを粉砕したパウダーが使いやすいです。耐熱性が比較的高いため焼き菓子にも向いており、スープや炒め物の色付けにも使えます。
アントシアニン系では赤キャベツや赤大根が代表的な原料です。酸性(レモン汁や酢)環境では鮮やかな赤・ピンクに、アルカリ性(重曹など)では青〜紫に変色する特性があります。アイシングクッキーのデコレーションに使うときは、レモン汁を加えて酸性を保つと赤色が安定します。
以下のポイントを覚えておけば大丈夫です。
野菜パウダーを天然色素として活用する方法が詳しく紹介されています。
野菜パウダーを天然色素として活用する方法(agriture.jp)
https://agriture.jp/oem/vegetable-powder-pigment
スーパーで食品を買うとき、原材料欄をチェックする習慣がある方も増えてきました。しかし、天然色素に関しては表示のルールが少し複雑で、見逃しやすいポイントがあります。
食品添加物(着色料を含む)の表示は、2020年施行の食品表示基準により、原材料名と添加物が明確に区分されて表示されるようになりました。加工食品のラベルでは、原材料と添加物が「/」や改行で区切って記載されており、着色料はその添加物欄に入ります。
表示方法は主に2種類あります。まず「用途名+物質名」による表示で、例えば「着色料(コチニール色素)」「着色料(ビートレッド)」のように書かれます。もう一つが簡略名による表示で、「コチニール色素」「カルミン酸色素」「野菜色素」などとだけ書かれるケースもあります。
つまり同じコチニール色素でも複数の表記が存在するということです。
以下の名称は、すべてコチニール色素と同一または密接に関連するものです。
アレルギーが気になる場合は、これらすべての表記を確認する必要があります。
また、「天然色素」「野菜色素」「植物性色素」などの一括名で表示されているケースもあります。この場合、何が使われているか原材料表示からは特定できないため、メーカーに問い合わせるしか確認方法がありません。
食品を購入する際は添加物欄の末尾まで目を通し、赤系・ピンク系の鮮やかな色がついた食品には特に注意するのが基本です。
食品添加物の着色料と表示ルールについて詳しく解説されています。
天然色素・天然着色料のラベル表示(鹿光生物科学研究所)
https://www.rokkou-co.jp/wp/label/
「天然色素ならいい」「合成着色料はダメ」——この二択思考は、今では少し古い考え方になりつつあります。
実際、植物由来の天然色素でも発がん性が判明して使用禁止になった例があります。過去に認可されていた植物由来の「アカネ色素」は、2004年に発がん性が確認されて使用が禁止されました。一方、長年「危険視」されていた合成着色料の赤色3号は、2025年2月に消費者庁の食品衛生基準審議会が「通常の使用範囲では安全上問題なし」と結論づけました。
結論は「天然か合成か」よりも「どの成分か」が重要ということです。
では、賢い選び方の基準は何でしょうか。大切なのは「自分の体質に合っているか」「用途に適した色素か」という視点です。
家族にアレルギーがある方は、コチニール系・ラック色素を含む食品には注意が必要です。ベジタリアンやビーガンの方、または宗教的な理由でハラール・コーシャを守っている方にとっても、昆虫由来のコチニール・ラック色素は使用できない場合があります。
お子さんのバレンタインやひな祭りのお菓子作りに天然色素の赤を使いたいなら、ビーツパウダーや赤大根パウダーが扱いやすくておすすめです。合成着色料ゼロで、小さな子どもに食べさせる際の安心感があります。これが条件です。
なおベジタリアン・ビーガン対応を意識した商品を選ぶ際は、「コチニールフリー」や「植物由来色素使用」と記載された製品を探すのが確実です。近年はオーガニック系の食材ショップやネット通販でも入手しやすくなっています。
「天然だから安全」ではなく「成分を知って納得して使う」という姿勢が、今の時代に合った賢い食品選びと言えそうです。
大阪健康安全基盤研究所による食品中の着色料についての解説(公的機関による解説)。
食品中の着色料について(大阪健康安全基盤研究所)
https://www.iph.osaka.jp/s017/070/2023/02/20230307120905.html

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