「トレハロース入りの食品を毎日食べても、体内でほぼ100%分解されずに腸まで届くことがあります。」
トレハロースは、ブドウ糖が2つ結合した二糖類の一種です。自然界ではキノコ・エビ・昆虫・酵母菌などに含まれており、もともと「天然の糖」として存在しています。
日本では1994年に株式会社林原(岡山県)が、デンプンからトレハロースを大量生産する技術を世界で初めて開発しました。この技術革新によって製造コストが劇的に下がり、1kgあたり数百円という価格で食品業界に供給されるようになりました。それ以降、トレハロースは日本の食品製造において急速に普及しています。
食品添加物としての役割は多岐にわたります。パンやお菓子のしっとり感を保つ「保湿効果」、冷凍食品の食感を守る「冷凍耐性」、素材本来の色や風味を保つ「保鮮効果」などが代表的です。つまり、食品の品質を安定させる目的で使われています。
現在、トレハロースが使用されている食品カテゴリは非常に幅広く、以下のようなものが挙げられます。
スーパーやコンビニで手に取る食品の多くに含まれていると考えてよいでしょう。これが基本です。
食品表示上は「トレハロース」とそのまま記載されるケースが多いですが、「糖類」とまとめて表示されることもあります。まずは成分表示を確認する習慣が大切です。
トレハロースの危険性が世界的に注目されるきっかけになったのは、2018年に科学誌『Nature』に掲載されたアメリカ・テキサス州ベイラー医科大学の研究論文です。この研究は非常に重要です。
研究内容を簡単に説明すると、腸内で猛威を振るう「クロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)」という細菌の一部の菌株が、トレハロースをエネルギー源として増殖しやすくなることが示されました。C. difficile感染症は、重篤な下痢や大腸炎を引き起こし、高齢者や免疫力が低下した人では死亡リスクもある恐ろしい病気です。アメリカでは年間約50万人が感染し、約3万人が死亡しているという深刻な問題です。
研究では、特定の菌株(RT027・RT078型)がトレハロースを効率よく代謝する遺伝子を持っており、トレハロースが食品に広く普及した1990年代以降にこれらの菌株による感染が急増したと指摘しています。意外ですね。
ただし、この研究は「マウスを使った実験」と「疫学的な相関関係の指摘」に基づくものであり、「トレハロースを食べたらC. difficile感染症になる」と直接証明されたわけではありません。研究者自身も「さらなる検証が必要」と述べています。
日本の食品安全委員会は、この研究発表後も日本国内での食事摂取量(1日あたり約2〜10g程度と推定)では、腸内環境への直接的な悪影響を示す根拠は現時点では不十分としています。リスクゼロとは言い切れない状況です。
一方、健康な人の腸内環境では、トレハロースは小腸に存在する「トレハラーゼ」という酵素によってほぼ分解・吸収されるとされています。つまり、通常の使用量であれば体内でしっかり処理される仕組みになっています。
日本においてトレハロースは「既存添加物」ではなく、「一般飲食物添加物」として分類されています。これは「天然に食品中に存在するものと同一の物質」として扱われるカテゴリです。そのため、使用量に法的な上限値(ADI:一日摂取許容量)が設定されていません。
これを「規制がないから安全」と解釈するのか、「規制がないから使い放題で危険」と解釈するのかは、立場によって異なります。どちらが正しいのでしょう?
食品安全委員会や厚生労働省の公式見解では、トレハロースは通常の食品摂取の範囲内では安全性に問題はないとしています。また、EUやアメリカのFDA(食品医薬品局)でも食品への使用が認められています。
参考として、食品安全委員会が公開している添加物評価に関する情報はこちらから確認できます。
ただし「安全と評価されている=大量に摂取しても問題ない」というわけではありません。これは誤解しやすいポイントです。
砂糖と比べてトレハロースの甘さは砂糖の約45%程度と穏やかですが、カロリーは砂糖とほぼ同等で1gあたり約4kcalあります。甘さが控えめなぶん、食品に多く配合されるケースもあり、知らないうちに糖質を多めに摂取している可能性があります。糖質制限中の方には特に注意が必要です。
また、トレハロース不耐症(トレハラーゼ欠乏症)という体質の人が一定数存在することも覚えておく必要があります。この体質の人がトレハロースを多く含む食品を食べると、消化できずに下痢や腹痛を引き起こします。グリーンランドの先住民族では約10〜15%がこの体質を持つとされていますが、日本人での発症頻度はまだ十分に解明されていません。
日本の食品表示法では、食品添加物は原則としてすべて表示が義務付けられています。トレハロースも例外ではありません。
ただし、「キャリーオーバー」という制度があり、原材料に使用されているがその食品に機能を果たさない場合は表示が省略されることがあります。これが盲点です。
食品のラベルを見る際には、以下の点を確認するのが基本的な方法です。
具体的に、スーパーでよく見かける食品を例に挙げると、市販の食パン1斤(約340g)にはトレハロースが数g単位で含まれているケースがあります。毎日2〜3枚を食べると、食パンだけで1日に4〜6gのトレハロースを摂取している計算になります。これが条件です。
これに加えて冷凍食品・お菓子・弁当などを日常的に購入している家庭では、1日の合計摂取量が10gを超えることも十分に考えられます。
まずは手元にある食品のラベルを1つ確認してみることが、最初のステップとして有効です。確認するだけで、自分の食生活の傾向がはっきり見えてきます。これは使えそうです。
食品表示の読み方を体系的に学びたい場合は、消費者庁が提供している「食品表示に関するガイドライン」も参考になります。
消費者庁「食品表示」公式ページ(食品ラベルの正しい読み方・確認方法)
ここまでの情報を整理すると、トレハロースは「絶対に危険な添加物」とも「完全に安全な成分」とも言い切れない、グレーゾーンにある存在です。
重要なのは、「どの食品にどれだけ含まれているか」を把握したうえで、日常的な摂取量をコントロールすることです。過剰摂取が問題です。
特に以下のような状況にある家庭では、意識的にトレハロースの摂取量を管理することをおすすめします。
具体的な対策として、週に2〜3日は手作りのお弁当や惣菜を取り入れることで、添加物全体の摂取量をコントロールしやすくなります。完全に排除する必要はありません。
また、食品を購入する際には「なるべくシンプルな原材料のもの」を選ぶ習慣をつけるだけでも、トレハロースを含む各種添加物の摂取量を自然に減らすことができます。
腸内環境の維持という観点では、トレハロースの摂取量管理と並行して、発酵食品(ヨーグルト・味噌・納豆など)や食物繊維を積極的に取り入れることが、腸内細菌のバランスを保つために効果的とされています。腸活との組み合わせが原則です。
食品添加物全般への理解を深めたい場合は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のデータベースも参照すると、より客観的な情報が得られます。
国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報(食品成分・添加物に関するエビデンスを確認できる)
最終的には、特定の成分だけを過度に恐れるより、食事全体のバランスを整えることが、家族の健康を守るうえで最も効果的なアプローチです。結論はバランスが大切です。
トレハロースについては、今後の研究の進展によって新たな知見が加わる可能性もあります。食品安全委員会や消費者庁の公式情報を定期的にチェックする習慣を持っておくと、情報のアップデートに対応しやすくなります。