色が濃くて塩分も高いのに、毎日飲んでも血圧が上がらない味噌があります。
津軽味噌とは、青森県西部の津軽地方で生産される、赤色辛口の米味噌です。「津軽三年味噌」という呼び名が示すとおり、熟成に最低でも足かけ3年という長い時間をかけて仕上げられます。これは国内の味噌の中でもトップクラスの熟成期間です。
津軽地方は冬になると気温が氷点下を下回ることも珍しくない、厳しい寒冷地帯。冬の寒さの中では微生物の活動がゆっくりになるため、発酵・熟成に時間がかかります。つまり、あの凍えるような冬が、深い旨味を生み出す環境を作っているわけです。
原料は大豆と米麹、そして塩です。米麹の割合(麹歩合)は6割程度と低めで、大豆の配合がしっかり多いのが伝統的な津軽味噌の特徴でした。現在では7〜10割の麹歩合のものも流通していますが、長期熟成で旨味を引き出すスタイルは変わっていません。
仕込みは1月〜3月の激寒の時期に行われる「寒仕込み」が基本。雑菌が少なく安全に麹を育てられるこの季節が、最も品質の安定した味噌づくりに適しています。仕込んだあとは木桶の中でゆっくりと熟成が進み、2〜3年後に完成となります。
歴史も深く、1624年(寛永元年)に青森港が開港されて以降、津軽地方では積極的に味噌の醸造が行われるようになったとされています。長期保存できる味噌は、凶作が頻発した津軽の農民にとって「飢えへの備え」でもありました。地域の命をつないできた食文化です。
参考:津軽味噌の歴史と製法についての詳細はこちらから確認できます。
津軽味噌の塩分濃度は13%前後と、一般的な信州味噌(10〜12%程度)と比べて高めです。数字だけ見ると「塩辛くて使いにくそう」と感じる方も多いでしょう。これが原則です。
しかし実際に食べてみると、口当たりがまろやかで、しょっぱさが前面に出てきません。これは長期熟成によって「塩なれ」が進んでいるためです。塩分濃度は同じでも、熟成が進むと舌が感じる塩辛さが減少する現象が起こります。
その仕組みを少し解説すると、熟成中に大豆のたんぱく質がアミノ酸に分解され、旨味成分が大量に生成されます。この旨味がまろやかさを演出し、塩の角が取れたように感じさせてくれるのです。3年という時間は、単なる待ち時間ではなく、美味しさを引き出すための必要な時間といえます。
しかも色が濃いからといって、塩辛さが比例するわけではありません。濃い赤褐色は長期熟成中に起こる「メイラード反応(アミノカルボニル反応)」によるもので、旨味が増えた証拠でもあります。意外ですね。
実際に弘前の老舗・加藤味噌醤油醸造元も「味が濃い、塩分が高そうと思われがちですが、濃い色の割には滑らかな味わい」と説明しています。味噌汁にするとほのかな酸味と後に残らないすっきりとした後味が楽しめます。
津軽味噌の風味の最大の特徴は、コク・旨味・ほのかな酸味の複雑な層にあります。3年という長い熟成期間の中で、いったいどんなことが起きているのでしょうか。
まず、麹菌が生み出すアミラーゼとプロテアーゼという酵素が、大豆のたんぱく質と炭水化物を分解します。たんぱく質はアミノ酸に、炭水化物はブドウ糖に変わります。アミノ酸が豊富になることで、旨味の層が深くなっていきます。これが「コク」の正体です。
次に乳酸菌が働いて適度な酸味が加わります。この酸味は「酸敗(さんぱい)」とは異なり、発酵が正常に進んでいる証拠。ほのかな酸味があることで味の輪郭がはっきりし、食欲をそそる複雑な風味が完成します。
長期熟成の赤味噌には「メラノイジン」と呼ばれる褐色色素も多く含まれます。これが血圧上昇に関わるACE(アンジオテンシン変換酵素)の働きを抑制する作用があると研究で報告されています。塩分が高い味噌なのに体への負担が比較的小さいのは、この成分の存在が大きいとも言われています。
つまり長期熟成は旨味を増やすだけでなく、健康面でも意味がある工程だということです。
参考:津軽味噌の発酵と旨味の成分についてわかりやすく解説されています。
日本全国に多種多様な味噌がありますが、津軽味噌はどんな立ち位置にあるのでしょうか。同じ赤系の辛口味噌として知られる信州味噌・仙台味噌と比べてみます。
| 種類 | 産地 | 色 | 塩分 | 熟成期間 | 味の特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 🍁 津軽味噌 | 青森(津軽地方) | 濃い赤褐色 | 13%前後 | 2〜3年 | まろやか・コク・ほのかな酸味 |
| 🏔 信州味噌 | 長野県 | 淡色〜赤褐色 | 10〜12% | 数週間〜1年 | すっきりした旨味・万能型 |
| 🌊 仙台味噌 | 宮城県 | 赤褐色 | 13%前後 | 1〜2年 | 辛口・粒感が残る・濃厚 |
最も大きな違いは「熟成期間の長さ」と「口当たりのまろやかさ」です。仙台味噌は大豆が粒状に残る「粒味噌」が多いのに対し、津軽味噌は長期熟成によってなめらかに溶け込んでいます。また信州味噌は麹歩合が高く甘みを感じやすいのに対し、津軽味噌は麹が少ない分すっきりとした旨味が際立ちます。
これが基本です。3種類を用途で選ぶなら、毎日の味噌汁には万能型の信州味噌、がっつりした煮込み料理には仙台味噌や津軽味噌、と使い分けると料理の幅が広がります。
津軽味噌を「味噌汁にしか使えない」と思っているとしたら、それはもったいないです。コクと旨味が濃い津軽味噌は、料理の隠し味としても実力を発揮します。
まず定番の味噌汁では、煮干しのだし(津軽では「いりこだし」とも呼ばれます)との相性が抜群です。煮干しのカルシウムと、味噌の旨味が合わさって、シンプルなのに奥深い一杯になります。
青森の郷土料理として有名な「貝焼き味噌(かいやきみそ)」は、ホタテの貝を使った卵と味噌の料理です。ホタテの貝殻や小さなフライパンに、だし・津軽味噌・溶き卵・ホタテを合わせて加熱するだけ。ご飯のお供にも酒の肴にも最適で、津軽地方では昔から朝食の定番として親しまれてきました。
正月料理として知られる「けの汁」も、津軽味噌で作る郷土料理のひとつです。ごぼう・にんじん・ふき・ぜんまいなどの山菜や根菜をみじん切りにして煮込み、津軽味噌で仕上げます。具だくさんで食物繊維が豊富な、栄養満点の一品です。
また、他の味噌とブレンドして使うのもおすすめです。たとえば甘みのある白味噌や合わせ味噌に少量の津軽味噌を加えると、コクがぐっと増します。ブレンドの目安は白味噌7:津軽味噌3くらいから始めてみると使いやすいです。これは使えそうです。
煮物に少量加える使い方もあります。豚の角煮・大根の煮物・きのこの炒め物など、仕上げに小さじ1/2〜1杯を溶かし入れるだけで、味の奥行きがぐっと変わります。料理に深みを出したいときは津軽味噌が条件です。
津軽味噌はかつて青森県内でしか手に入りにくい存在でしたが、現在ではネット通販で全国から購入できます。特に「かねさ」ブランドの津軽三年味噌は、昭和53年(1978年)からテレビCMでも広まり、全国的な知名度を持つ製品です。
代表的なブランドをいくつか挙げると、かねさ(青森市)、加藤味噌醤油醸造元(弘前市)、マルシチ津軽味噌醤油(大鰐温泉使用の珍しい製品も展開)、などがあります。マルシチは大鰐温泉の温泉水を仕込みに使用した独自製法で、他の津軽味噌とはひと味違うまろやかさと塩分控えめが特徴として注目されています。
保存方法について知っておくとお得です。開封後は必ず冷蔵庫へ。空気に触れると表面が酸化して色が変わりますが、これは食べられなくなったわけではありません。気になる場合は表面の変色部分だけ取り除いて使えばOKです。ラップを表面に密着させてから蓋をすると、酸化を大幅に遅らせることができます。
また、長期保存する場合は冷凍も可能です。味噌は凍っても固まらず(塩分が高いため)、冷凍庫から取り出してすぐにスプーンで使えます。1〜2杯分ずつ小分けにして冷凍しておくと、少量ずつ使うときに便利です。
津軽味噌の選び方で迷ったときは、まず「かねさ糀つぶみそ」か「津軽三年みそ」あたりから試してみることをおすすめします。比較的手に入りやすく、津軽味噌らしさをしっかり感じられる商品です。
参考:津軽味噌の製造メーカーや特徴のまとめとして参考になるページです。
かねさ公式:みその話マメ知識(津軽みその特徴・塩分・麹歩合の解説)
参考:メラノイジンと血圧の関係など、味噌の健康効果の最新情報はこちら。