春巻きの皮でブリックを包んでから揚げるまでに1分以上かけると、卵の水分で皮が破れて中身が油に散らばります。
ブリックは、チュニジアを代表する揚げ物料理です。薄い皮に具材と生卵を包み、熱した油で一気に揚げることで、外はパリッと・中はとろりと仕上がるのが最大の魅力です。チュニジアのレストランではほぼ必ず前菜のメニューに登場し、テイクアウトの屋台でも大衆食堂でも親しまれています。
この料理の起源は想像以上に古く、ブリックに使われる薄皮(マルスーカ)の歴史は11世紀にまで遡ります。北アフリカのベルベル文化(現在のモロッコ・アルジェリア・チュニジア周辺の先住民族)が食糧を携行・調理しやすい形として生み出したと考えられており、後にオスマン帝国時代(16世紀ごろ)にも広まりました。今ではアルジェリアでは「ブレク」、モロッコでは「ブルワット」と呼ばれる類似料理も存在します。
チュニジアらしい特徴が「半熟卵とツナの組み合わせ」です。似た包み揚げ料理は他の地域にもありますが、この具材の組み合わせはチュニジアならでは。つまり、卵とツナの組み合わせがブリックのアイデンティティです。
さらに興味深い文化的な背景として、チュニジアには「花嫁の母親が花婿のためにブリックを作る」という伝統があります。そのとき、中の卵を一滴もこぼさずに吸いながら手づかみで食べることができると「上手」とされ、食べる側の器量を示す文化的な意味合いもあるのです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発祥地 | チュニジア(北アフリカ) |
| 歴史 | 11世紀起源(ベルベル文化由来) |
| 皮の名称 | マルスーカ(現地)/パートブリック(フランス語圏) |
| 定番具材 | ツナ缶・じゃがいも・パセリ・生卵 |
| 食べ方 | レモン+ハリッサが本場流 |
チュニジアの食文化に興味が出た方は、現地在住者が書いた詳しい解説ページも参考になります。
チュニジアの食文化全体像(ブリックや食習慣なども紹介)。
チュニジアの食文化のある特徴 – sekai-ju.com
ブリックを作るうえで最初に迷うのが「皮の選択」です。これが出来栄えを大きく左右します。
本場チュニジアで使われるのは「マルスーカ(ワルカ生地とも呼ばれる)」という薄い円形の皮で、小麦粉・水・塩だけで作られています。直径は日本の春巻きの皮より一回り以上大きく、厚みはほぼ透けて見えるほど極薄。フランス語圏では「パートブリック」とも呼ばれており、フランス料理にも取り入れられています。
これに対して日本の春巻きの皮は米粉を主原料としている点が異なります。食感・香り・揚がり方が本場とは若干異なりますが、代用としては十分に機能します。これは使えそうです。
重要な注意点として、皮に具と卵を包んだ後は絶対に放置しないことです。卵の水分が皮に染み込んで、揚げるときに皮が破れたり中身がこぼれ出たりする原因になります。包んだらすぐ揚げるが鉄則です。
気になる方はパートブリックのネット購入も選択肢に入れてみましょう。フランス料理専門食材を扱う通販サイトや業務スーパーで取り扱いがある場合があります。
実際に家庭で作る手順を整理します。材料はすべてスーパーで揃います。
🛒 材料(4個分)
👩🍳 作り方
卵は小さめサイズを選ぶのが条件です。大きいと皮に包みきれず、卵白の水分が多くて皮が破れやすくなります。
本場チュニジアでは揚げ油にオリーブオイルを使うことが多いです。チュニジアはオリーブの産地としても知られており、料理にオリーブオイルを惜しみなく使う文化があります。サラダ油でも問題ありませんが、オリーブオイルで揚げると風味が格段に上がります。
ブリックを作るうえでの詳しいレシピは、実際に現地流にこだわって作った方のレポートも参考になります。
本場に近い自家製ワルカ生地からのレシピ解説。
チュニジア風ブリックの作り方(ワルカ生地から手作り) – note
ブリック最大の魅力は「外はパリッ・中はとろり」の食感です。でも実際に作ると、卵が固まりすぎたり皮が破れたりすることが多い。厳しいところですね。
半熟に仕上げるための最重要ポイントは油温と時間のコントロールです。
卵白の余分な水分が気になる場合は、卵を割り入れた後に少しの間キッチンペーパーに卵白の端を当てて水分を軽く取り除く方法も有効です。これで皮が破れにくくなります。
また、ブリックは「揚げる」のが本場ですが、ヘルシーさを重視したい場合はフライパンに薄くオイルを引いて「揚げ焼き」にすることも可能です。揚げ焼きの場合はカリッと感がやや落ちますが、油の消費量を大幅に抑えられます。インスタグラムでも「揚げずに焼いて仕上げました」という投稿が多数見られます。
卵黄をこぼさずに食べるのがチュニジア現地での「上手な食べ方」とされていますが、実際にはかなり難しいです。レモンを絞りながら、少しずつかじって食べるのが現実的な楽しみ方です。意外ですね。
揚げ加減の参考として、大使館のシェフが実演しているレシピ動画も役立ちます。
チュニジア大使館シェフの本格ブリックレシピ解説(dancyu)。
前菜になる卵包み揚げ「ブリック」 – dancyu
定番のツナ+じゃがいも以外にも、ブリックはアレンジの幅がとても広い料理です。これは使えそうです。
🔄 具材アレンジ例
続いて、ブリックをさらに美味しくする「ハリッサ」について紹介します。
ハリッサとは、チュニジア生まれの唐辛子ペーストです。唐辛子・にんにく・キャラウェイシード・コリアンダーシード・クミン・オリーブオイル・塩を合わせて作ります。現在は日本のカルディや一部スーパーでも缶入りハリッサが購入できます。
ブリックへの使い方は簡単で、揚げたてのブリックの切り口や端につけながら食べるだけです。レモンと組み合わせることで、揚げ物の油っぽさをさっぱりとリセットしながら食べ進められます。辛さが苦手な方はごく少量から試してみるのがよいでしょう。
ハリッサはブリック以外にも、スクランブルエッグやパスタ、炒め物など日常料理への応用が効く調味料です。一本あると料理の幅がぐっと広がります。
オクラアレンジなど家庭向けのブリックレシピの詳細はこちら。
オクラのブリック風レシピ – ニチレイフーズ
ここまでの内容をふまえ、家庭でブリックを作るときに実際に失敗しやすいポイントを整理します。「知っておけばよかった」と感じやすい内容です。
❶ 包んでから時間を置かない
これが最大の失敗原因です。卵と具材の水分が皮に染み込むまでの時間はわずか1〜2分ほど。1個包んだらすぐ油に入れるという流れを守ることで、皮がパリッと仕上がります。まとめて4個包んでから揚げようとすると、最後に揚げる分は皮がすでにふやけ始めています。
❷ フィリングは「土手」を作る
フィリングをべったり皮に広げるのではなく、半月状または三日月状に「土手」を作り、その内側に卵を落とすことで卵が広がらず包みやすくなります。フィリングがまとまっていると卵も逃げません。じゃがいもをフィリングに加えると全体がまとまりやすくなるので、入れる方が断然包みやすいです。
❸ 油温を下げない
一度に複数枚を揚げると油温が急落します。フライパンの直径に対して1枚ずつ揚げるのが理想。油温が低いままだと皮に油が染み込んでベトベトになり、卵もなかなか固まらずに揚げすぎてしまいます。油温計がなければ「菜箸を入れたとき細かい泡がシュワシュワ上がる状態」を目安にしましょう。
❹ 皮の留め方は軽く押さえるだけでOK
水溶き片栗粉や水溶き小麦粉で端を糊付けしておけば、完全に密封されていなくても揚げている最中はほとんどこぼれません。ギュッと押しすぎると皮が破れることがあります。軽く押さえるだけで大丈夫です。
❺ 揚げたらすぐ食べる
時間が経つと皮のパリパリ感がなくなります。作り置きには向かない料理です。揚げたてを食卓に出すのが一番おいしく食べてもらえます。お皿にキッチンペーパーを敷いてしっかり油を切れば、食感がより長持ちします。
基本さえ押さえれば問題ありません。ブリックは「包んですぐ揚げてすぐ食べる」というシンプルなルールを守るだけで、ほぼ失敗なく作れる料理です。
チュニジア在住者目線の詳しいレシピと注意点はこちら。
卵黄をこぼさずに食べられますか?:ブリック – 異文化キッチン