アスパルテームは現在最も論争の多い人工甘味料です。2023年7月、FAO/WHO/IARC（国際がん研究機関）の合同食品添加物専門家会議（JECFA）は、アスパルテームをIARCのグループ2B「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」に分類しました。従来はグループ3（分類不可）でしたが、この見直しは世界的に大きな注目を集めています。
特に懸念されるのはアスパルテームに含まれるフェニルアラニンの存在です。フェニルケトン症（PKU）の患者は、このアミノ酸を代謝できないため、神経障害を引き起こすリスクがあります。そのため食品表示法では「L-フェニルアラニン化合物」と表示することが義務付けられています。さらに最新の研究では、FDA推奨の1日最大摂取量の15%に相当する量をマウスに投与した場合、不安症を引き起こす可能性が示唆されており、その影響が世代を超えて継承される懸念もあります。
WHO/JECFA公式ページ - アスパルテーム再評価に関する最新情報
アセスルファムカリウム（アセスルファムK）は、製造工程で溶媒として塩化メチレン（ジクロメタン）を使用しており、この物質はIARC分類でグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に指定されています。不純物として残留する可能性が完全には排除されていません。スクラロースは砂糖の約600倍の甘味を持ちながら、心血管疾患のリスク上昇との関連が報告されています。
サッカリンは1960年代の動物実験で膀胱がんのリスク増加が報告されましたが、その後の研究により、発がん性は合成過程の不純物によるものであり、サッカリン本体には発がん性がないという見解が強まっています。ただし日本ではかつてのネガティブなイメージが払拭できず、使用製品は外国と比較して少ない傾向です。2022年フランスの大規模コホート研究（NutriNet-Sante）では、アセスルファムカリウムとスクラロースは冠動脈性心疾患リスクと関連することが報告されました。
人工甘味料の危険性として、がん化学性論や心血管疾患の他に、腸内フローラへの悪影響が指摘されています。腸には約1,000種類、100兆個の腸内細菌が生息しており、善玉菌と悪玉菌のバランスが人体の免疫機能に大きな影響を与えます。近年の研究で、腸そのものが甘味を感受することが分かりました。人工甘味料は少量で甘いため、腸は本来とは異なった判断をしてしまい、腸内環境が正常に維持できなくなります。
動物実験や糖尿病患者の調査から、人工甘味料が腸内細菌のバランスを破壊することが報告されています。特に問題なのは、人工甘味料の継続的な摂取により、脳と腸の「甘味＝血糖値上昇」という通常の生理反応が麻痺し、インスリン抵抗性が増加することです。これは肥満や糖尿病発症のリスク増加につながります。世界保健機関（WHO）の2022年ガイドラインでも、人工甘味料による年単位の長期的影響として、糖尿病や脳卒中、心筋梗塞などの心血管疾患、さらには死亡リスクの上昇が報告されています。
人工甘味料の安全性問題は現在に始まったことではありません。日本では1969年に2つの甘味料が使用禁止になりました。チクロ（サイクラミン酸）は砂糖の30～70倍の甘味を持ち、清涼飲料水に広く利用されていました。しかし腸内細菌によって分解されると発がん物質に変化する可能性が指摘され、動物実験でも立証されたため、アメリカでの禁止を受けて日本も使用禁止に至りました。
同じく禁止されたズルチンは、ドイツで発明された人工甘味料で砂糖の200～400倍の甘味を持ちながら、死に至るほどの中毒事故を起こすとして知られています。アメリカは既に1954年に使用を禁止していましたが、日本では戦後、合成が容易で廉価なため広く利用され、最終的にチクロと同じ1969年に禁止となりました。興味深いことに、チクロについてはスイスの1972年の研究で発がん性否定の結果が出ており、現在ヨーロッパ・カナダ・中国では認可されており、国によって対応が大きく異なっています。
厚生労働省は各人工甘味料のADI（Acceptable Daily Intake：1日摂取許容量）を定めています。体重60kgの成人を例とすると、アスパルテームは1日2,400mg、サッカリンは1日90mg、アセスルファムカリウムは1日90mg、スクラロースは1日900mg、ネオテームは1日60mg、アドバンテームは1日300mgの摂取が許容されます。
しかし注意が必要です。市販のダイエット飲料やゼロカロリー食品は複数の甘味料を組み合わせていることが多く、1商品での使用量が個別に許容範囲でも、複数商品の摂取によって総摂取量が増加する可能性があります。特に冷たい飲み物は温度の影響で甘さが感じにくくなり、つい過剰摂取してしまう傾向があります。令和元年度のマーケットバスケット調査では、実際の食生活において人工甘味料の総摂取量は相対的に低い水準にあるとされていますが、ダイエット飲料の常用者については個別評価が必要とされています。
人工甘味料は清涼飲料水やダイエット飲料に最も多く含まれていますが、実はより身近な食品にも存在します。ガムやキャンディなどの菓子類、ジャムや漬物などの加工食品、かまぼこやアルコール0・糖質0を謳うノンアルコール飲料、さらには歯磨き粉にまで使用されています。特に冷たい清涼飲料は吸収が容易で、温度の影響で甘さを感じにくくなるため過剰摂取しやすい傾向があります。
食品表示法では食品添加物の表示が義務付けられており、容器や包装がある場合は表面で確認できます。バラ売りや量り売りの場合もポップや値札で確認可能ですが、容器・包装の表示面積が小さい場合や小規模業者の販売形態への配慮により、表示が免責されている場合があります。知りたい場合は販売店舗や製造者に問い合わせることができます。複数の人工甘味料を組み合わせて使用している製品も多いため、ラベル確認時は成分表の最後まで細かくチェックすることが重要です。
人工甘味料のリスクを回避するには、まず日頃から味覚を正常に保つことが基本です。子どもの頃から砂糖たっぷりの飲料やお菓子に慣れると、脳がさらに甘さを求めるようになり、嗜好が固定化してしまいます。自然食材の本来の甘さを楽しめるよう、生まれ持った味覚を大切にすることが重要です。
天然由来の甘味料には、比較的安全性が高いとされるものが存在します。エリスリトールやキシリトールは糖アルコール類で、体内で代謝されにくくカロリーが低く、虫歯予防効果も期待できます。ステビアは南米原産のキク科植物から抽出される天然甘味料で、砂糖の200～300倍の甘さを持ちながらカロリーはほぼゼロです。羅漢果（ラカンカ）も中国原産の植物由来で、300～400倍の強い甘味がありながら血糖値を上げません。はちみつや甘草も自然由来として安心感が高いです。ただしこれらにも過剰摂取は避け、あくまで適量使用が原則です。
最近では人工甘味料不使用プロテイン製品の需要が高まり、供給も増えています。できるだけ合成甘味料を避けたいという消費者ニーズに応えて、天然甘味料を使用した食品や、甘味を最小限に抑えた製品も市場に登場しています。健康診断で血糖値やコレステロール値に注意が必要とされた場合は、医師の指導を仰ぎながら、個人の体質に合わせた選択をすることが重要です。
現代社会では「ゼロカロリー」という謳い文句に惹かれやすいですが、その裏にある化学的合成甘味料のリスクを理解することが、家族の長期的な健康を守る鍵となります。特に子どもに対する影響は、成人よりも強い可能性があります。日々の食卓で使用する甘味料の選択は、単なる栄養学的な判断ではなく、化学物質に対する科学的リテラシーを持った選択が求められる時代になっています。
人工甘味料の安全性に関する研究は、今も継続されており、新しい知見が随時発表されています。関連機関の発表に注視し、自分たちの体や家族の健康状態に合わせた柔軟な選択ができることが、食の安全確保の基本となるのです。
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