「フランス料理はバターたっぷり」と思い込んでいると、食費と体重が一緒に増えます。
「フランス料理といえばバター」というイメージは、北フランスやパリを中心とした料理文化に由来しています。ところが、南フランスのプロヴァンス地方はまったく異なる食文化を持っています。バターはほとんど登場せず、代わりにオリーブオイルがあらゆる料理の基盤となっています。これは「バターを使わない」ということですね。
プロヴァンスがこのスタイルになった背景には、地理と歴史があります。東にイタリア、南に地中海を持つこの地域は、古代ギリシャ時代からオリーブの栽培が根づいており、ローマ帝国の属州であった歴史もあって、どちらかというとイタリア料理に通じる食文化が形成されました。特にプロヴァンス産の代表格「ニヨンス産オリーブオイル」はフランスのA.O.C(原産地呼称制度)の認証を受けており、品質が国から保証されています。
オリーブオイルとバターの違いは味だけではありません。バターに多く含まれる飽和脂肪酸とは異なり、オリーブオイルには不飽和脂肪酸(オレイン酸)が豊富に含まれます。医学的には、この不飽和脂肪酸がLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の低下に寄与し、動脈硬化や心疾患のリスク低減に関係しているとされています。
| 比較項目 | パリ周辺のフランス料理 | プロヴァンス料理 |
|---|---|---|
| 主な油脂 | バター | オリーブオイル |
| 料理の風味 | 濃厚・クリーミー | 爽やか・ハーブ香 |
| 食文化の影響 | 宮廷料理・北欧的 | イタリア・地中海的 |
| 代表ソース | ベシャメル・ホワイトソース | アイオリ・タプナード |
つまりプロヴァンス料理は、同じ「フランス料理」でも全くの別カテゴリーです。日常の料理にオリーブオイルを取り入れるきっかけにもなりますね。健康面でのメリットを考えると、毎日の調理油をオリーブオイルに切り替えるだけでも、食生活の質が変わってきます。
参考:オリーブオイルの健康効果と地中海食について詳しく解説されています。
プロヴァンス料理でオリーブオイルと並んで欠かせないのが、ニンニクとハーブです。これが基本です。特に、現地では「エルブドプロヴァンス(Herbes de Provence)」と呼ばれるハーブミックスが家庭に常備されており、日本でいう「七味唐辛子」に近い感覚で日常的に使われています。
エルブドプロヴァンスは主に、ローズマリー・タイム・オレガノ・バジルが中心となってブレンドされており、製品によってはラベンダーやセイボリーも加わります。このブレンドは1970年代以降に一般家庭に広まり、今では世界中のスーパーマーケットで購入できるようになっています。SBフーズやS&Bといった日本の大手スパイスメーカーも販売しており、手軽に入手できます。
使い方は驚くほどシンプルです。鶏肉や豚肉を焼く前にひと振りして下味として使ったり、野菜をソテーする際に仕上げに加えたりするだけで、料理がぐっと南フランスの香りを帯びます。これは使えそうです。肉料理のほか、じゃがいものグリル・トマトソース・スープなど守備範囲の広さも魅力です。
ニンニクの使い方もプロヴァンス料理ならではです。プロヴァンス語で「ニンニク(ail)+油(oil)」から名前がつけられた「アイオリ(Aïoli)」は、ニンニクとオリーブオイルを乳化させたソースで、茹でた野菜や魚介に添えて食べる代表的な調味料です。ニンニクは抗菌・抗酸化作用を持つアリシンを含み、免疫機能のサポートにも関わるとされています。
参考:エルブドプロヴァンスの成分と使い方が丁寧に解説されています。
エルブドプロヴァンスとは?南仏の香りを纏うハーブミックスの魅力 | chefrepi
プロヴァンス料理の代表格といえば、ラタトゥイユです。ナス・ズッキーニ・トマト・パプリカ・玉ねぎなどの夏野菜をオリーブオイルで煮込んだこの料理は、一見シンプルですが、栄養面ではかなり優秀なポテンシャルを持っています。
特に注目すべきは、トマトとオリーブオイルの組み合わせが生み出す効果です。トマトに含まれる赤い色素成分「リコピン」は、強力な抗酸化作用を持つことで知られています。生のトマトの状態では細胞壁が硬く、リコピンの体内吸収率がよくありません。ところが加熱調理をすることで細胞壁が柔らかくなり、さらにオリーブオイルのような油脂と一緒に摂ることで、リコピンの吸収率が生食の約3〜4倍にアップするとされています(日本食糧新聞ほか複数の研究で報告)。
リコピンが重要です。なぜかというと、リコピンは紫外線によるシミ・くすみの原因となる活性酸素を除去する働きがあるとされ、美肌効果や生活習慣病予防への関与が報告されているからです。ラタトゥイユはまさに「加熱×油」の両方をクリアした、リコピンを最大限に吸収できる理想的な調理法といえます。
ラタトゥイユは冷めてもおいしく、作り置きが利く点も主婦にとって嬉しいポイントです。大量に作って冷蔵保存すれば3〜4日持ち、パスタに絡めたり、卵料理に添えたり、トーストにのせたりとアレンジも豊富です。一度の調理で複数の食事に活用できる、コスパの高い料理といえます。
参考:トマトのリコピン吸収率と加熱調理の関係について科学的に解説されています。
リコピン吸収率を高める食べ方!加熱・油・朝の科学的根拠と摂取 | PRI GYM
プロヴァンス料理の代表として世界的に知られるブイヤベースとニース風サラダ。どちらも今はレストランの定番料理ですが、その本来の姿はかなり庶民的なものでした。意外ですね。
ブイヤベースは、かつてマルセイユの漁師たちが「市場で売れ残った魚」や「棘があって商品にならない魚」を大鍋でごった煮にした「まかない飯」が起源とされています。見た目が悪い魚や規格外の魚を無駄にせず、塩とオリーブオイルで煮込んだだけのシンプルな料理でした。それがやがてサフランや高級魚介類を使った洗練された一皿へと進化し、現在のマルセイユでは「ブイヤベース憲章」が定められるほどの格式ある郷土料理になっています。
ニース風サラダも同様に、本来の姿は驚くほどシンプルなものでした。ニース風サラダ保存会「ラ・カペリーナ・ドル(Cercle de la Capelina d'Or)」の記録によれば、もともとのレシピはトマト・アンチョビ・オリーブオイルの3素材だけで構成されていたとされています。日本のレストランではゆでたじゃがいもやいんげんが入った豪華な一皿として提供されることが多いですが、実は本場ニースでは「使うのは生野菜のみ」が原則とされ、加熱野菜の使用を邪道とみなす声もあります。
つまり「高級フランス料理」のイメージとは裏腹に、プロヴァンスの郷土料理は庶民の知恵と地域の食材から生まれたものです。その素朴さこそが、長く愛されてきた理由といえます。
参考:ニース風サラダの本場の定義と保存会の活動について詳しく解説されています。
ニース風サラダとは?南仏プロヴァンス地方の伝統料理を解説 | chefrepi
プロヴァンス料理の特徴を知ったとき、「おいしそうだけど、難しそう」と感じた方もいるかもしれません。でも安心してください。プロヴァンス料理の基本は「シンプルな食材を、シンプルに調理する」という発想です。これが原則です。
家庭で今すぐ取り入れられる最もハードルの低いステップは、調理油をオリーブオイルに替えることです。炒め物・サラダドレッシング・パスタなど、日常的に使う場面でバターやサラダ油の代わりにオリーブオイルを使うだけで、自然とプロヴァンス風の食生活に近づきます。エクストラバージンオリーブオイルは熱に弱いとされることもありますが、炒め物の温度(160〜180℃程度)なら酸化しにくく、普段の調理で問題なく使えます。
次のステップとして取り組みやすいのが、エルブドプロヴァンスを常備することです。SBフーズやS&Bなど国内メーカーのものは500円前後で購入でき、スーパーやオンラインショップで入手できます。鶏肉のソテー・じゃがいものオーブン焼き・トマトソースに振りかけるだけで、一気に「南仏感」が出ます。ハーブの組み合わせが最初から計算されているため、初心者でも失敗しにくい点が大きなメリットです。
プロヴァンス料理が根ざしている「地中海食」は、世界保健機関(WHO)や多くの栄養学者が「健康的な食事パターン」として推奨する食スタイルです。特定の食材や技術を習得するより、「オリーブオイル・野菜・魚・ハーブを中心に食べる」というシンプルな原則を意識するだけで、日々の食事の質が変わります。難しく考える必要はありません。大切なのは、毎日の食卓に「少しの南仏エッセンス」を加え続けることです。
参考:地中海食と生活習慣病予防・健康効果についての詳しい解説はこちら。
生活習慣病対策に効果的!地中海食を実践するには? | はくばく