「減塩食品」を買い続けても、実は塩分摂取量がほとんど変わっていないケースが全体の約6割にのぼります。
スーパーの棚に並ぶ「減塩」「塩分控えめ」という商品を手に取るとき、その表示がどんな根拠で書かれているかを気にする人は少ないかもしれません。実は「減塩」という言葉には法的な定義があり、そうでないものとは大きく意味が異なります。
まず整理しておきたいのが、「特別用途食品」という制度の存在です。特別用途食品とは、乳児・妊産婦・病者などの特別な用途に適することを、国(消費者庁)が個別に審査・許可した食品のことを指します。その中に「病者用食品」という区分があり、低ナトリウム食品はこのカテゴリに含まれます。
つまり低ナトリウム食品の特別用途食品とは、「腎臓疾患などで医師から塩分制限を指示された人」を対象として、消費者庁が許可を与えた商品群なのです。これが基本です。
許可を受けた商品には、消費者庁の「特別用途食品マーク」が必ず表示されています。このマークがない商品は、独自基準で「減塩」「低塩」と謳っているだけであり、医療的な根拠を持つ商品とは区別が必要です。一般の加工食品における「減塩」表示は、同じカテゴリの標準品より食塩相当量が25%以上低減されていれば使えるというルールになっており、出発点の塩分量が高い商品でも「減塩」と書けてしまうのが現状です。
意外ですね。「減塩」と書いてあれば安心と思いがちですが、許可マークの有無を確認することが最初のステップです。
| 区分 | 根拠 | マーク | 主な対象者 |
|---|---|---|---|
| 特別用途食品(低ナトリウム食品) | 消費者庁の個別許可 | あり(許可マーク) | 腎臓疾患・高血圧などで医師が塩分制限を指示した人 |
| 栄養強調表示「減塩」 | 食品表示基準 | なし | 一般消費者向け |
| 独自表記「塩分控えめ」など | メーカー独自基準 | なし | 一般消費者向け |
消費者庁の特別用途食品制度については、公式の解説ページが非常に参考になります。許可件数や許可基準の詳細を確認できます。
特別用途食品の低ナトリウム食品には、明確な許可基準があります。消費者庁が定めているのは、「食品100gあたりの食塩相当量が120mg未満、または1食分の食塩相当量が600mg未満」という数値基準です。
この数字を日常的なスケールで置き換えてみましょう。食塩600mgというのは、小さじ約1/10杯分に相当します。ティースプーン1杯(約5g)の10分の1ですから、極めて微量です。通常の味噌汁1杯に含まれる食塩量が約1.2〜1.5gであることを考えると、その厳しさがわかります。
腎臓疾患を抱える患者さんの場合、1日の食塩摂取量を3〜6gに抑えることが推奨されるケースがあります(日本腎臓学会の食事療法基準)。1日3食でこの範囲に収めるには、1食あたり最大でも2gしか使えない計算になります。特別用途食品の基準がいかに厳格かが伝わるでしょうか。
厳しいところですね。だからこそ、医師の指導なしに自己判断で使うことには慎重さが必要なのです。
また、低ナトリウム食品に使われる食塩代替品として「塩化カリウム」が使われるケースがあります。塩化カリウムは塩のような塩味を再現できる成分ですが、腎臓の機能が低下している場合、カリウムの排出能力も落ちているため、過剰摂取が高カリウム血症を引き起こすリスクがあります。つまり「低ナトリウムだから安全」とは一概に言えない側面があるのです。
これは知らないと損する情報です。購入前に成分表の「カリウム」欄も確認するクセをつけておくと安心です。
日本腎臓学会が発行している「慢性腎臓病に対する食事療法基準」は、腎臓疾患の食事管理を学ぶ上で信頼性の高い資料です。
日本腎臓学会:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版(PDF)
特別用途食品は大きく5つのカテゴリに分けられます。それぞれがどのような人を対象としているかを知ることで、家族の状況に合った選択がしやすくなります。
まず「病者用食品」は、低ナトリウム食品・低たんぱく質食品・アレルゲン除去食品・無乳糖食品・総合栄養食品の5種類を含む区分です。次に「妊産婦・授乳婦用粉乳」があり、鉄分や葉酸を強化した粉乳が該当します。「乳児用調製粉乳」は乳児の栄養源として許可を受けたもの、「えん下困難者用食品」は食物を飲み込む機能が低下した方向けのとろみ食品です。そして2019年から新たに加わった「特定保健用食品(個別許可型)」も広義の特別用途食品と整理されることがあります。
低ナトリウム食品はこの中の「病者用食品」の一区分に位置づけられています。つまり特別用途食品という大きな傘の下に病者用食品があり、その中に低ナトリウム食品が含まれる、という入れ子構造になっています。
整理するとこうなります。
家庭で「低ナトリウム食品」を探すときは、まずこの許可マークを確認し、その次にどの病態向けに許可された商品なのかを成分表と照合するのが確実な手順です。これが原則です。
特定保健用食品と特別用途食品の違いについても混同されやすいポイントです。トクホ(特定保健用食品)は健康な人を含む一般消費者向けに「特定の保健の目的に資する」ことを表示できる制度であり、特別用途食品とは審査対象も目的も異なります。特別用途食品は「病気の人」や「特定の生理状態にある人」を対象とする点が大きな違いです。
特別用途食品の低ナトリウム食品は、医師や管理栄養士の指導を受けた上での使用が前提です。この点は、一般的な「減塩食品」とは大きく異なります。
腎臓病や高血圧の治療中の家族がいる場合、主治医から「塩分を1日何gに抑えてください」という具体的な指示が出ているはずです。その指示量に基づいて、どの食品をどのくらいの量使えばよいかを判断することが大切です。「特別用途食品だから安心」と思って量を増やしてしまうと、前述の塩化カリウムの過剰摂取につながる恐れがあります。
実際に市販されている低ナトリウム食品には、以下のような商品カテゴリがあります。
これらの商品は通常品より価格が高めであることが多く、1袋あたり500〜1,000円程度になるケースもあります。家計への影響も念頭に置きながら、本当に必要な食品に絞って取り入れるのが現実的な使い方です。これは使えそうです。
購入場所としては、大手ドラッグストアや調剤薬局の食品コーナー、または「キッセイ薬品」「ニュートリー」「クリニコ」などの医療食専門メーカーの通販サイトが主な選択肢になります。Amazonや楽天市場でも「特別用途食品 低ナトリウム」で検索すると複数の許可商品が見つかります。
管理栄養士への相談が難しい場合、各都道府県の保健センターでは栄養相談を無料で受けられるケースがあります。まず1回、地域の保健センターに電話で問い合わせてみることをおすすめします。
特別用途食品の低ナトリウム食品を取り入れているのに、定期検査での塩分摂取量の指標(尿中ナトリウム排泄量など)が改善しないというケースが実際にあります。その原因の多くは「食品の切り替えに集中するあまり、調理中に加える調味料の量が増えてしまう」というパターンです。
たとえば、低ナトリウムのパンや麺を使っても、仕上げに醤油やソースを「少し」かけることで一食分の食塩量が跳ね上がるケースがあります。醤油大さじ1杯(約15ml)には約2.6gの食塩が含まれており、これ1つで1日の許容量の半分以上に達することもあります。
塩分制限が効果を発揮するかどうかは、食品選びだけでなく、調理全体の塩分管理にかかっています。これが条件です。
効果的な取り組みとして、料理に塩味をつけるタイミングを「仕上げ時に少量だけ表面にかける」方式に変えると、同じ塩分量でも味の感じ方が強くなり、結果的に使用量を減らせることが知られています。これは「表面調味法」と呼ばれ、病院の栄養指導でも取り上げられる手法です。
また、酸味(レモン・酢)や香り(ハーブ・ごま油)を活用することで、塩味の物足りなさを補う工夫も有効です。「旨味」を強化するために昆布だしやかつおだしを濃く取ることも、塩分を増やさずに満足感を高める方法として有名です。
減塩の調理に慣れるための参考として、農林水産省が公開している「食事バランスガイド」の減塩関連ページや、日本高血圧学会の「減塩レシピ」コンテンツも実践的な情報源になります。
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)ナトリウムの項目(PDF)
日常の調理で塩分量を正確に把握したい場合は、デジタルの計量スプーン(0.1g単位で測れるもの)を1本用意しておくと管理が格段に楽になります。1,000〜2,000円程度で購入できるので、食費の節約効果と健康管理の両面で費用対効果が高いアイテムです。