加熱したトマトのリコピン吸収率は生で食べるより約3〜4倍も高くなります。
シャクシュカ(Shakshuka)とは、トマトソースの中に卵を割り入れて煮込んだ料理です。日本語で表現するなら「イスラエル版の目玉焼き」と言うのが最もわかりやすいかもしれません。フライパンひとつで調理でき、材料は家庭に常備しやすいものばかり。これが世界中の家庭で愛される最大の理由です。
名前の由来はマグレブ(北アフリカ西部)のアラビア語で「混ぜ合わせたもの・混合物」を意味する言葉です。つまり「ぐちゃぐちゃに混ぜた料理」というニュアンスが名前の中に込められています。意外ですね。
シャクシュカの発祥については、複数の諸説があります。最も有力とされているのは北アフリカのチュニジア発祥説で、1950〜60年代にチュニジアやリビアから移住したユダヤ人がイスラエルへこの料理を持ち込み、国民食として根付いたとされています。一方で、19世紀のオスマントルコ時代に原型が作られ、そこから広まったという説も存在します。現在のトマトを使った形のシャクシュカは、トマトがアメリカ大陸から北アフリカへ伝来した16世紀以降に完成した姿です。
イスラエル料理自体、1948年の建国後に世界各地から集まったユダヤ人の食文化が混ざり合って生まれた複合的な料理文化です。シャクシュカはその象徴的な一品であり、現在はイスラエルだけでなく、エジプト・レバノン・モロッコ・さらにはニューヨーク・ロンドンなど欧米の大都市でも親しまれています。つまり、チュニジア生まれ・イスラエル育ちの料理というのが正確な表現です。
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シャクシュカは複雑に見えて、実は工程がとてもシンプルな料理です。基本さえ押さえれば、初めて作る方でも20分以内に仕上げることができます。これは使えそうです。
以下に2人分の基本レシピをまとめます。
| 材料 | 分量(2人分) |
|---|---|
| 卵 | 2〜3個 |
| カットトマト缶 | 1缶(400g) |
| 玉ねぎ | 1個 |
| 赤パプリカまたはピーマン | 1個 |
| にんにく | 2〜3片 |
| オリーブオイル | 大さじ2〜3 |
| クミンパウダー | 小さじ1 |
| パプリカパウダー | 小さじ1 |
| 塩・こしょう | 各適量 |
| パセリ(仕上げ用) | 適量 |
作り方の手順は以下のとおりです。
失敗しないための最大のポイントは「卵を入れる前にソースをしっかり煮詰めておくこと」です。ソースがゆるいまま卵を入れると、卵がうまく固まらずソースの中で広がってしまいます。目安はソース全体がもったりとして、フライパンの端が少しずつ焦げ始める手前の状態です。
もうひとつ大切なのが「卵を入れたら弱火で蒸し煮にすること」です。強火だとソースが焦げ付いたり、卵白が固まる前に黄身が固まりすぎたりします。弱火でじっくりが基本です。
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スパイスが難しそうに感じて、シャクシュカを作ることをためらっている方も多いかもしれません。でも実は、基本のスパイスは2種類だけ覚えておけばOKです。
その2種類とは「クミンパウダー」と「パプリカパウダー」です。この2つがシャクシュカの香りと深みの核心を担います。
クミンパウダーはエスニック料理特有の土っぽくて温かみのある香りが特徴です。カレー粉にも含まれているスパイスなので、一度嗅いだことのある方も多いはずです。小さじ1程度で十分に風味が出ます。
パプリカパウダーはピーマンを乾燥させた粉で、ほんのり甘みとコクを加えてくれます。色も鮮やかな赤に仕上がるので、見た目にも美しい一品になります。スモークパプリカを使うと燻製のような風味が加わり、より本格的な味に近づきます。
スパイスを買うのが面倒な場合は、カレー粉で代用することも可能です。実際に、カレー粉小さじ1でクミン+パプリカの組み合わせに近い味を出すことができ、日本の家庭でも親しみやすい風味になります。
より本格的な味にしたい場合は、以下のスパイスを少量ずつ足すと複雑な深みが生まれます。
ハリッサとはチュニジア発祥の唐辛子ベースのスパイスペーストで、輸入食材店やネット通販で購入できます。シャクシュカとの相性は抜群で、これを加えるだけで一気に現地感が増します。
スパイスは「食べる直前に多め」ではなく「炒める段階で加えて油で炒める」のが香りを最大限に引き出すコツです。スパイスが油に溶けることで、香り成分が全体に行き渡ります。つまり油炒めがスパイスの扱いで最重要のポイントです。
シャクシュカが健康に良いと言われる理由は、主要食材の組み合わせが非常に理にかなっているからです。
まず注目すべきはトマトのリコピンです。リコピンはトマトの赤い色素成分で、強力な抗酸化作用を持ちます。活性酸素を除去することで、シミ・しわ・老化の防止、動脈硬化や生活習慣病の予防効果が期待されています。
ポイントは「加熱」と「油」です。リコピンは生のトマトの状態では細胞壁に閉じ込められており、体内での吸収率は非常に低く、約4〜5%程度とも言われています。しかしトマトを加熱すると細胞壁が柔らかくなり、吸収率が2〜3倍以上に上昇します。さらに油脂と一緒に摂ることで吸収率がさらに高まり、生で食べるより合計で約3〜4倍のリコピンが吸収されるとされています(日本食糧新聞・電子版より)。加熱+オリーブオイルが条件です。
シャクシュカはまさにこの条件を自然に満たしています。トマトをオリーブオイルで炒めて煮込むという調理法が、リコピンの吸収率を最大化しているのです。
次に卵のたんぱく質とビタミンDです。卵1個あたり約6〜7gのたんぱく質が含まれており、必須アミノ酸のバランスが非常に優れています。また卵黄に含まれるコリンは脳機能の維持や記憶力にも関係する成分として注目されています。2人分で卵2〜3個使用するシャクシュカは、1食で十分なたんぱく質を摂取できるバランスの良い料理です。
オリーブオイルの一価不飽和脂肪酸も注目ポイントです。地中海式食事法の核心とも言えるオリーブオイルには、悪玉コレステロール(LDL)を下げ、善玉コレステロール(HDL)を維持する効果が期待されています。シャクシュカで使う大さじ2〜3程度の量は、健康効果を得るのにちょうどよい摂取量です。
カロリーについても触れておきます。2人分のシャクシュカ(卵2個・トマト缶400g・オリーブオイル大さじ2使用)で、1人分のカロリーはおよそ200〜250kcal前後です。パンを添えても1食400〜500kcal程度に収まるため、ダイエット中でも気兼ねなく食べやすい料理です。ヘルシーさが条件です。
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シャクシュカの最大の魅力は「アレンジの自由度の高さ」にあります。基本のトマト+卵のソースをベースに、冷蔵庫に残っている食材を加えるだけで全く違う料理になるのです。毎日作っても飽きないのは、この自由度のおかげです。
① ひき肉シャクシュカ(エジプト風)
合いびき肉100〜150gをソースに加える前に炒め、余分な脂をキッチンペーパーで拭き取ってからトマトを加えます。肉の旨みがソース全体に溶け出し、ミートソースのような深みが出ます。子供が食べやすい味になるので、家族向けのアレンジとして特に人気です。
② チーズシャクシュカ(地中海風)
卵を入れた後、仕上げに崩したフェタチーズ50gをトマトソースの上に散らします。フェタチーズの塩気と酸味がトマトの甘みと絶妙にマッチします。フェタが手に入らない場合はカッテージチーズやクリームチーズで代用でき、まろやかな味わいになります。
③ ほうれん草シャクシュカ(栄養強化版)
生のほうれん草1〜2束(約200g)を2〜3cm幅に切り、トマトを加えるタイミングで一緒に入れて煮込みます。鉄分・葉酸・ビタミンKが加わり、育ち盛りのお子さんや女性に特に嬉しい栄養価になります。緑の色が加わることで見た目も鮮やかになります。
④ ひよこ豆シャクシュカ(ボリュームアップ版)
水煮のひよこ豆1缶(400g)をトマト缶と一緒に加えます。ひよこ豆はイスラエル料理で定番の食材で、植物性たんぱく質と食物繊維が豊富です。腹持ちが良くなり、パンなしでも満足感が出ます。卵なしのヴィーガン版にしても美味しいアレンジです。
⑤ カレー粉シャクシュカ(日本の家庭向け)
クミン・パプリカパウダーの代わりにカレー粉小さじ1〜1.5を使います。日本人が最も親しみやすい味になり、「シャクシュカを初めて作る」という方に最もハードルが低いアレンジです。ご飯と一緒に食べても合います。
また、主婦の方におすすめしたい時短テクニックがあります。ソースだけを大量に作って冷蔵保存しておく方法です。トマトソースは冷蔵で3〜4日保存可能なため、食べるたびに卵だけを割り入れて加熱すれば、5分以内に1食が完成します。忙しい朝や疲れた夜でも、サッと栄養満点の食事が出せるのは大きな時短効果です。
ソースの前日仕込みが時短の条件です。週末にまとめて作っておくと、平日がとても楽になります。